第91話
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「お、おはよう」
俺はリビングに降りるなり、キッチンに立つ姉ちゃんに挨拶をした。
昨日のことがあったからどうにも気まずいが、それでも姉ちゃんは普段通りの生活を望んだ。
だから、できる限り俺もそれに応えようとは思う。
だけど……。
俺は自分の胸襟をギュ、と握り締める。
じゃあ……じゃあ、この感情は一体何なんだよ……。
「正宗、おはよう」
自問自答している俺に、姉ちゃんが振り返り、挨拶をした。
その表情は笑顔だが、まぶたは腫れぼったく、目の下にうっすらとクマができていた。
姉ちゃん……。
「さあ、ご飯にしよう」
「うん」
今朝もいつものように向かい合わせで朝食を食べる。
まるで、そうすることが正しいかのように。
◇
「まーくんおはよ!」
「ああ、はよ」
いつもの時間に迎えに来た環奈に、軽く挨拶すると。
「あれ? 羽弥さんは?」
「ん? ああ……今日は用事があるからって、別々に家を出るって」
嘘だ。
姉ちゃんは昨日のことがあるから、環奈と顔を合わせづらいんだろう。
「ふーん、そっか……」
「おう……」
環奈も何かを感じたのか、それ以上は何も言わず、俺達は学校に向かった。
そして、いつもの通学路で。
「正宗くん、環奈さん、おはようございます!」
「「おはようございます」」
いつものようにハルさんと朝の挨拶を交わした。
「あれ? 今日は羽弥はどうしたんですか?」
「あ、ええと、姉ちゃんは用事があるからって別々に家を出るって……」
「? そうですか……」
そう言うと、ハルさんは不思議そうな表情で首を傾げた。
「あっと、そろそろ学校に向かわないと」
「あ、そうですね。それじゃまたステラで」
「「はい」」
俺達はハルさんと別れ、再び学校へと歩き出した。
◇
「あ、センパーイ!」
休み時間、掲示板に貼り紙をしている佐山が俺に気づき、大声で手を振りながらコッチへかけてきた。
や、恥ずかしいんだけど!?
「よお」
「えへへ、センパイお土産は?」
第一声がそれかよ。
ま、いいけど。
「教室に置いてあるから、放課後に生徒会室に環奈と一緒に持って行ってやるよ」
「えー、センパイ一人だけでいいんですけど?」
「なんでだよ。ところで、お前何持ってるの?」
軽口を言い合いながら、俺は佐山の持っている紙が気になった。
「あ、これですかー? ホラ、生徒会長選挙の告知ですよ」
「あー、そういやそんな時期だな」
うちの学校では、十一月の終わりに生徒会長を決める選挙があるんだったな。
「それで佐山は次も役員になったりするのか?」
「ウーン、生徒会長しだいですねー。というか、生徒会長が私を指名すれば、ですけど」
「あ、そっか。生徒会長以外の役員は、生徒会長の指名で決まるんだったな」
「そーでーす!」
佐山がビシッと右手を挙げた。
「ところで、センパイは立候補したりしないんですかー?」
「俺? するわけねーだろ。そもそも俺に、そんな人望も能力もないしな」
「えー? それ、本気で言ってます?」
「? 当たり前だろ?」
全く、コイツは何を言ってるんだ?
俺は成績も中の中だし、運動神経も人並みだぞ?
何より、俺の存在を知る生徒なんぞ、うちのクラスの奴等か、佐山とか俺と付き合いのある奴くらいしかいないんじゃねーの?
「ま、いいですけどねー」
「? なんだよ……それより、環奈は何か言ってたか?」
「ほへ? 何かって?」
佐山が人差し指を顎につけ、コテン、と首を傾げる。
「ああいや、アイツは立候補するのかなーって」
「ああ、しないんじゃないですか?」
「だよなあ」
や、副会長になった時も、散々愚痴ってたもんなあ……。
あの時も、船田の野郎にしつこく勧誘され、オマケに松木が強権振りかざして強引にやらされてただけだもんなあ……。
「私としては、環奈さんに生徒会長になって欲しいんですけどねー……」
「まあ、無理だろ」
「ですよねー……」
佐山はガックリとうなだれる。
「ま、とりあえずお前もあまり無理すんなよ」
「! はい! ありがとうございます! えへへー、センパイはやっぱり優しいですねー!」
「は? んなことねーっての」
俺は手をヒラヒラさせながら、その場を後にした。
◇
——キーンコーン。
昼休みのチャイムが鳴り、俺はカバンから弁当を取り出すと。
「環奈ー、昼メシ食おーぜ」
「あ、ゴメンまーくん。今日はちょっと……」
もうお約束となった昼メシを誘ったけど、環奈に申し訳なさそうな表情で断られた。
どうしたんだろう……。
「環奈、何かあったのか?」
「あ、ううん……ホラ、もうすぐ生徒会長選挙でしょ? それで選挙管理委員に選出した人達に、選挙に向けてのことについて説明とかしなくちゃいけなくて……」
「あー……」
佐山も選挙の告知準備とかしてたし、生徒会は今は忙しいか……。
「分かった。だけど、もし俺の手助けが必要だったら言ってくれよ? 俺もできる限り手伝うからさ」
「うん! ありがとう!」
そう言うと、環奈は笑顔で手を振りながら教室を出て行った。
さて、じゃあ今日は一人でメシ食うか……。
俺は少し寂しさを覚えながら、自分の席で一人弁当を食った。
お読みいただき、ありがとうございました!
とりあえず、次の章のプロローグとして投稿しました!
このまま毎日投稿を再開したいんですが、少しまだ準備が整っていないため、あと少しだけお待ち下さい!
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