表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/108

第90話 堀口羽弥②

ご覧いただき、ありがとうございます!

■堀口羽弥視点


「はあ……」


 私は自分の部屋で、クッションを抱えながらうずくまっていた。


「私は……最低、だ……」


 なんで、あんなことをしてしまったんだろう。


「……ふふ、そんなの、決まってるじゃないか……」


 思えば、京都で正宗達と別れた時から様子が違った。


 たった一日離れるだけなのに、なぜかつらそうな表情を浮かべる正宗。


 私はその時、正宗は私に憎からぬ感情を抱いているんじゃないか、と思っていた。


 だから、駅で正宗の帰りを待っていた時も、すごく喜んで……待ち望んでいてくれるんじゃないかって、そう思っていた。


 だけど。


 駅で正宗を見た時、それは違うのだと分かった。


 もちろん正宗は、私に逢えて嬉しそうな瞳をしていた。


 でも、それは半分だけ。


 残りの半分は、別の……罪悪感のそれだった。


 どうして?


 どうして正宗は、私に罪悪感を抱いたりするんだ?


 そう考えた時、私の脳裏に一つの可能性がよぎった。


 それは……正宗と環奈に何かがあって、私に後ろめたさを感じるようなことがあって……それで……。


 そう思い至ってしまってからは、家に帰るまでの間、平静を装いながら、ただ正宗と環奈の様子だけが気になっていた。


 そして、二人のそれは、まさに私が考えていたとおりのものだった。


 まるでお互いがお互いに敬遠するような素振りを見せつつも、お互いの様子を窺って……。


 胸が張り裂けそうだった。


 先に帰ってしまったことを呪った、後悔した。


 だから私は、少しでも引き離されてしまったそれを埋めようと、追い越そうとして。


「うむ、おかえり。風呂も沸いているから、先に汗を流すといい」


 そう言って、正宗を風呂に入るように誘導して……静かに水着に着替えて、わざとパットも外して……少しでも私を意識するように、少しでも私に惹かれるように。


 そして。


「正宗……入るぞ……」


 私は正宗の制止も聞かず、お風呂場へと入ると、正宗は背中をこちらへ見せ、耳を真っ赤にしていた。


 あの恥ずかしそうにする正宗……可愛かった。


 そして、義理とはいえ姉である私に対して、そのような反応が……女性として見てくれていることが嬉しくて仕方なかった。


 とはいえ、私はそれ以上に……私を恋愛対象として見てくれるようにするためにも、正宗を無理やり私へと向かせた。


 すると、やはり正宗は私の水着姿を見て、顔を真っ赤にしながら私のことを意識した。


 私は、それだけで嬉しかった。


 だけど……私の目的はそれだけじゃない。


 私は恥ずかしそうにする正宗に抱きつき、胸を押し付けて密着する。


 より私を女であると認識させるために。


 そして。


「か……環奈と、何が……あった、んだ……?」


 私は聞いた、聞いてしまった。


 心のどこかでは、聞くな、と叫び続けていた。


 後悔するから、つらくなるから、と……。


 だけど、聞かずにはいられなかった。

 私は、どうしても聞かずにはいられなかった。


 だが……やはり私は、そのことを後悔することになる。


 だって、正宗の肩を揺すりながら問い質す私に、正宗はつらそうな表情で顔を背けたのだから。


 つまりは……そういうことなんだろう。


 イヤだ。


 イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだ!


 私は……私は正宗が好きなんだ! 大好きなんだ!


 正宗は私だけのものなんだ!


 だから!


「正宗……!」

「え……ん……っ!?」


 私は無理やり正宗を抱き寄せ、そして……キス、をした……。


「ん……んう……っ!」

「ん……むう……ぷは」


 正宗から唇を離すと、私は自分のしでかしたことに、思わず青ざめてしまった。


 これが原因で正宗に嫌われてしまったら……!


 だって……だって正宗の顔には、驚きと困惑と……罪悪感が浮かんでいたから。


「ね、姉ちゃん……!?」

「あ、い、いや、こ、これ、は……そ、その! スマンッ……!」


 私は逃げ出した。


 正宗の言葉が怖くて。

 正宗に嫌われてしまうのが怖くて。


 私は急いで服を着替えると、キッチンに向かって用意していたビーフシチューを温める。


 自分の心を落ち着かせるために。


 普段通りの生活に戻って、また、正宗と元通りになるために。


 すると。


「姉ちゃん……」


 風呂から上がった正宗が、不安そうな表情を浮かべてリビングに入ってきた。


「ね、姉ちゃん、その……」

「さ、さあて! 今日は腕によりをかけた、ビーフシチューだぞ!」


 私は正宗から死刑宣告をされるのが嫌で、わざと会話を遮るように、そして、無理やりにでもいつもの日常に戻そうと、少し大げさに言った。


 だけど、そんなものは当然通用するはずもなくて。


「姉ちゃん、あ、あの……「正宗」」


 なおも心配そうに見つめる正宗の言葉を遮り、その名を呼んだ。


 そして。


「さっきのことは……忘れてくれ……」


 私は絞り出すような声で正宗に懇願した。


「お願いだ……だから、また、今まで通りに……っ!」


 ああ……私は卑怯だ……。


 自分から関係を壊そうとあんな真似をしたのに、いざとなると壊れてしまうのが怖くて、今まで通りを求めてしまった。


 しかも、正宗に涙まで見せて……。


 そんな私の気持ちを酌んでか、正宗は静かに頷き、そして、無言でビーフシチューを食べてくれた。


 正宗も、今は自分の部屋で旅行の疲れから、眠りについているだろう。


 私は明日から、前みたいな日常に戻れるだろうか。


 また、正宗は前みたいに笑ってくれるだろうか。


 私は自分がしでかしてしまったことに対する後悔と、唇に残る正宗の感触に、一人ベッドの上でさいなまれ、そして……私は涙が枯れることなく、ただ泣き続けた。

お読みいただき、ありがとうございました!


次話から次の章である「生徒会長選挙編」をお送りする予定! ……なのですが、すいません、ラストに向けて構成等を少し練り直したいので、しばらく(1~2週間程度)更新をお休みします。


楽しみにしていただいている読者の皆様には申し訳ありません!

なお、再会の際はあらためてTwitterにて告知させていただきます!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、ブクマ、評価、感想をよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 姉ちゃん……(´;ω;`) そりゃあ悩んだり後悔もするよねぇ。 しかもライバルがライバルだから蹴落とすのとかは嫌だろうし…… 恋は難しいですね!w これからどうなる!?って所ですが、より…
[良い点] 羽弥ちゃん・・・ 既に幼い頃からの姉弟と言う関係性が色々と苦しめてしまっているようですね。 それにしても・・・ 何故、近過ぎる関係の人の多くは、その関係を崩したがらないんでしょうね?(笑…
[一言] ここでお預けですか! 続きが気になりすぎの展開! ハルさんは幸せになれるんですよネ? いや、皆ハッピーになってくれれば、と思いますが、どんな結末であっても受け止めますので、続きをよろしくお願…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ