第90話 堀口羽弥②
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■堀口羽弥視点
「はあ……」
私は自分の部屋で、クッションを抱えながらうずくまっていた。
「私は……最低、だ……」
なんで、あんなことをしてしまったんだろう。
「……ふふ、そんなの、決まってるじゃないか……」
思えば、京都で正宗達と別れた時から様子が違った。
たった一日離れるだけなのに、なぜかつらそうな表情を浮かべる正宗。
私はその時、正宗は私に憎からぬ感情を抱いているんじゃないか、と思っていた。
だから、駅で正宗の帰りを待っていた時も、すごく喜んで……待ち望んでいてくれるんじゃないかって、そう思っていた。
だけど。
駅で正宗を見た時、それは違うのだと分かった。
もちろん正宗は、私に逢えて嬉しそうな瞳をしていた。
でも、それは半分だけ。
残りの半分は、別の……罪悪感のそれだった。
どうして?
どうして正宗は、私に罪悪感を抱いたりするんだ?
そう考えた時、私の脳裏に一つの可能性がよぎった。
それは……正宗と環奈に何かがあって、私に後ろめたさを感じるようなことがあって……それで……。
そう思い至ってしまってからは、家に帰るまでの間、平静を装いながら、ただ正宗と環奈の様子だけが気になっていた。
そして、二人のそれは、まさに私が考えていたとおりのものだった。
まるでお互いがお互いに敬遠するような素振りを見せつつも、お互いの様子を窺って……。
胸が張り裂けそうだった。
先に帰ってしまったことを呪った、後悔した。
だから私は、少しでも引き離されてしまったそれを埋めようと、追い越そうとして。
「うむ、おかえり。風呂も沸いているから、先に汗を流すといい」
そう言って、正宗を風呂に入るように誘導して……静かに水着に着替えて、わざとパットも外して……少しでも私を意識するように、少しでも私に惹かれるように。
そして。
「正宗……入るぞ……」
私は正宗の制止も聞かず、お風呂場へと入ると、正宗は背中をこちらへ見せ、耳を真っ赤にしていた。
あの恥ずかしそうにする正宗……可愛かった。
そして、義理とはいえ姉である私に対して、そのような反応が……女性として見てくれていることが嬉しくて仕方なかった。
とはいえ、私はそれ以上に……私を恋愛対象として見てくれるようにするためにも、正宗を無理やり私へと向かせた。
すると、やはり正宗は私の水着姿を見て、顔を真っ赤にしながら私のことを意識した。
私は、それだけで嬉しかった。
だけど……私の目的はそれだけじゃない。
私は恥ずかしそうにする正宗に抱きつき、胸を押し付けて密着する。
より私を女であると認識させるために。
そして。
「か……環奈と、何が……あった、んだ……?」
私は聞いた、聞いてしまった。
心のどこかでは、聞くな、と叫び続けていた。
後悔するから、つらくなるから、と……。
だけど、聞かずにはいられなかった。
私は、どうしても聞かずにはいられなかった。
だが……やはり私は、そのことを後悔することになる。
だって、正宗の肩を揺すりながら問い質す私に、正宗はつらそうな表情で顔を背けたのだから。
つまりは……そういうことなんだろう。
イヤだ。
イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだ!
私は……私は正宗が好きなんだ! 大好きなんだ!
正宗は私だけのものなんだ!
だから!
「正宗……!」
「え……ん……っ!?」
私は無理やり正宗を抱き寄せ、そして……キス、をした……。
「ん……んう……っ!」
「ん……むう……ぷは」
正宗から唇を離すと、私は自分のしでかしたことに、思わず青ざめてしまった。
これが原因で正宗に嫌われてしまったら……!
だって……だって正宗の顔には、驚きと困惑と……罪悪感が浮かんでいたから。
「ね、姉ちゃん……!?」
「あ、い、いや、こ、これ、は……そ、その! スマンッ……!」
私は逃げ出した。
正宗の言葉が怖くて。
正宗に嫌われてしまうのが怖くて。
私は急いで服を着替えると、キッチンに向かって用意していたビーフシチューを温める。
自分の心を落ち着かせるために。
普段通りの生活に戻って、また、正宗と元通りになるために。
すると。
「姉ちゃん……」
風呂から上がった正宗が、不安そうな表情を浮かべてリビングに入ってきた。
「ね、姉ちゃん、その……」
「さ、さあて! 今日は腕によりをかけた、ビーフシチューだぞ!」
私は正宗から死刑宣告をされるのが嫌で、わざと会話を遮るように、そして、無理やりにでもいつもの日常に戻そうと、少し大げさに言った。
だけど、そんなものは当然通用するはずもなくて。
「姉ちゃん、あ、あの……「正宗」」
なおも心配そうに見つめる正宗の言葉を遮り、その名を呼んだ。
そして。
「さっきのことは……忘れてくれ……」
私は絞り出すような声で正宗に懇願した。
「お願いだ……だから、また、今まで通りに……っ!」
ああ……私は卑怯だ……。
自分から関係を壊そうとあんな真似をしたのに、いざとなると壊れてしまうのが怖くて、今まで通りを求めてしまった。
しかも、正宗に涙まで見せて……。
そんな私の気持ちを酌んでか、正宗は静かに頷き、そして、無言でビーフシチューを食べてくれた。
正宗も、今は自分の部屋で旅行の疲れから、眠りについているだろう。
私は明日から、前みたいな日常に戻れるだろうか。
また、正宗は前みたいに笑ってくれるだろうか。
私は自分がしでかしてしまったことに対する後悔と、唇に残る正宗の感触に、一人ベッドの上でさいなまれ、そして……私は涙が枯れることなく、ただ泣き続けた。
お読みいただき、ありがとうございました!
次話から次の章である「生徒会長選挙編」をお送りする予定! ……なのですが、すいません、ラストに向けて構成等を少し練り直したいので、しばらく(1~2週間程度)更新をお休みします。
楽しみにしていただいている読者の皆様には申し訳ありません!
なお、再会の際はあらためてTwitterにて告知させていただきます!
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