第85話 坂崎環奈⑤
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■坂崎環奈視点
「ちょっと環奈! どうしたのぼーっとして?」
布団に寝転がりながら今日の自由行動での話題で盛り上がっている中、雫が怪訝な表情で私に声をかけた。
「え? あ、う、うん。何でもないよ」
「ホントに? どこに行ってたか知らないけど、戻って来てからの環奈、ちょっとおかしいよ?」
「えー、そ、そうかな?」
「そ、そうですよ? 心ここにあらずというか……」
そう言うと、今度は七海が心配そうに私を見つめる。
「私は大丈夫だよ! むしろいつもより元気なくらい!」
私は二人に、心配ないと元気さをアピールする。
だって、それは本当だもん。
私は……私はまーくんから、これ以上ないくらい素敵なものをもらったんだから。
「そ、そう? それならいいんだけど……」
「それよりさ! 雫は長岡くんとどうだったの?」
「ええ!? そ、それはその……」
そう尋ねると、雫はガックリとうなだれた。
私は話題を逸らそうと、わざと長岡くんとのことについて話を振ったんだけど……ちょっと失敗した!?
「え、えーと……悪くはなかったんだけど、アイツ、どうにも鈍いというか、そもそも私のことを恋愛対象として見てくれないというか……」
「そ、そっか……」
でも、別に長岡くん自身、雫のこと嫌ってるわけでもないんだし、脈がないわけじゃないと思うんだけど……とりあず、その辺りはまーくんに聞いてみるとして。
「と、とにかく! 長岡くんって自分のことになると鈍そうだから、雫はどんどんアピールしたほうがいいよ!」
「そそ、そうですよ! 長岡くんは、多分気づいてないだけですよ!」
私の励ましの言葉に、待ってましたとばかりに七海も合いの手を入れた。
「ホ、ホントに?」
「「うんうん!」」
「そ、そっかー……ア、アイツ、普段は変態のくせにこういうことは鈍そうだもんね! よ、よし! だったら明日こそ……!」
雫が小さくガッツポーズをしてフンス、と気合を入れる。
うん、雫も元気を取り戻したみたい。
「って、私のことばっかでゴメン! そ、そうだ! 七海はどうだったの?」
すると、我に返った雫が今度は七海に矛先を変えた。
「よ、よくぞ聞いてくれました!」
「「へ?」」
ガバッと勢いよく身を乗り出した七海に、私と雫は思わずたじろぎ、お互い顔を見合わせる。
え? え? ひょっとして佐々木くんと上手くいったってこと!?
「いやあ! 佐々木くんすごくいいリアクションするんですよ! あの有名な池に行った時なんか、私の説明を聞いた途端、すごく顔が真っ青になってですね……」
それから七海は、延々と心霊スポットの話やその時の佐々木くんのリアクションにつて嬉々として語った。
というか、一時間も語り続けるの、どうかと思うんだけど……。
「……で、その時の佐々木くんときたら……」
「「ちょ、ちょっと待ったー!」」
さすがにキツくなってきた私と雫は、たまらず七海を止めた。
「え? どうしました?」
「そ、そのー……その話、あとどれくらいかかるかな……?」
私は楽しそうに話していた七海にちょっと申し訳ないと思いながらも、そろそろ終わりたいという思いを伝えるために、やんわりと尋ねた。
「ウーン、今やっと半分くらいですので、同じくらいの時間はかかるかと……」
「えーと……続きはまた明日、ってことにしない? それより、七海は佐々木くんと、その……進展した?」
雫が上目遣いでおずおずと尋ねた。
「え、ええと……それは恋愛的な……?」
「「(コクコク)」」
私と雫は無言で頷く。
すると。
「そうですね……とりあえずは修学旅行から戻ったらデートをする約束をしました」
「「おお!」」
いつの間にそこまで進展を!?
佐々木くん……がんばったなあ……。
まあ、それくらい報われてもいいくらい、つらい思いもしたみたいだけど……。
「フフフ……早速デート向けの心霊スポットを調査しておかないと!」
「「そ、そう……」」
うん……佐々木くん、ご愁傷様……。
「で、肝心の環奈はどうなの?」
「ふえ!?」
え? もう終わりの流れじゃないの!?
「そうですね、私達のことは聞いて環奈さんだけ話さないのは不公平です」
「あ、あはは……」
私はごまかすように乾いた笑いをしてみたけど……うん、ダメかあ……。
「ええと、私はその……ハルさんと羽弥さんも一緒だったから……特に……」
うん……自由行動では、ね。
「えー! もっとがんばらないと、堀口のこと取られちゃうよ!」
「そ、そうですよ! もっとグイグイいかないと!」
うわあ……雫はともかく、七海も結構グイグイくるなあ。
「だ、大丈夫だよ! あ、明日もあるんだし!」
「「…………………………」」
二人が私をジーッと見つめる。
「え、ええと……?」
「「はあ……」」
溜息吐かれた!?
「環奈……とにかく、明日は死ぬ気でがんばらないとダメだよ! あの二人、強敵中の強敵なんだから!」
「は、はい!」
う、うーん……二人とも、心配して言ってくれてるだけに、何とも言えない……。
「と、とりあえず明日がんばるから、今日のところはもう寝よ! あ、明日も早いし! おやすみ!」
私は無理やり話を打ち切るために、自分の布団にもぐって、寝るフリをした。
「えー……まあいっか、おやすみ」
「は、はい、おやすみなさい」
そして電気を消した後、二人も布団の中に入った。
「ふう……」
私は軽く溜息を吐き、そして……人差し指で自分の唇をなぞった。
私……まーくんとキス、したんだ……。
あの時のことを思い出し、私の頬が熱くなる。
あ、あれ……?
気づけば、私の瞳から涙が零れた。
でも、それも仕方ない。
だって……だって、まーくんとキスしたんだもん……!
それだけで、私の胸は苦しくて、張り裂けそうで、そして……幸せだった。
だけど、キスした直後のまーくんの瞳……半分は罪悪感に満ちていた。
多分、優しいまーくんのことだから、付き合ってるわけじゃない私とキスしたことに対してと、ハルさんと羽弥さん、二人に対してってことだと思う。
それでも、残り半分には……ちゃんと、私がいた。
今は、それだけで充分……ううん、むしろ、もらい過ぎなくらい……。
いつか……いつか、まーくんは三人のうち誰かを選ぶ時が来る。
その時、私がまーくんに選ばれない未来だって当然ある。
だけど、今日の思い出と一緒に、どんな未来だって私は胸を張って受け入れよう。
まーくん、あのね?
私……君を好きになって、本当によかったよ。
お読みいただき、ありがとうございました!
次話は明日の夜投稿予定です!
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