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第84話

ご覧いただき、ありがとうございます!

「……まーくん」


 廊下の陰から、ジャージにパーカーを羽織った環奈が現れた。


 うむ、時間通りだ。


「よう環奈」

「よう環奈、じゃないよ。こんなメッセージ送ってきて、一体どうする気なの?」


 そう言って、環奈はスマホの画面を見せる。


『二十一時半に厚着してフロント横に集合。誰にも見つかるなよ』


 うむ、俺が送ったメッセージだな。


「それより、誰にも見つかってないだろうな?」

「う、うん……部屋のほうは雫と七海に口止めしてもらうようにお願いしてきたし、部屋を出てからも誰にも見つかってないと思う……」

「よしよし。なら早速行こうか」

「行くってどこに!?」

「もちろん外にだよ」


 そう告げると、環奈は驚いた表情を見せる。


「だ、だけど入口付近は先生も見張ってるし、ホテルを出るなんて無理だよ!?」

「ん? ああ、それは大丈夫」


 だって、ちゃんとホテルの従業員のお姉さんに根回ししといたもん。


 まあ、あのお姉さんが特別っぽいけど……だって、ダメ元でお願いしたら、すごくにニヤニヤしながら即答でオッケーしてくれたんだから。


 ……ホテル側の対応としてどうかとは思うけど。


「ということで、従業員用の通用口を使わせてもらえるから、早く行こうぜ」

「あ、ま、まーくん!?」


 俺は環奈の手を握り、見つからないように従業員用の出入口へと向かう。


 すると、フロントの陰からサムズアップするお姉さんの腕が見えた。ホント、男前だな!?


 そして無事、俺達はホテルの外へ出て。


「そ、それで、どこに行くの?」

「ああ……そうだったな。その、鴨川に行こうか……」

「あ……」


 うん……だって、環奈だけ一緒に座れなかったから。


 というか、俺が環奈と座りたかったから、というのが大きいんだけどな……。


「環奈は、いいよな……?」

「う、うん! もちろんだよ!」


 環奈は咲き誇る花のような最高の笑顔を浮かべ、俺の手を強く握った。


「そ、それじゃ、行こうか……」

「うん……」


 ◇


「うわあ……こんな時間でも、結構人が座ってるんだね……」

「そうだな……ま、まあ、大人のカップルがすごく多いけどな」


 鴨川のほとりに降りた俺達は、等間隔に並ぶカップルを見て少し緊張する。


 や、だって昼間は学生も結構いたしそんなに浮いた感じじゃないけど、高校生って見る限り俺達だけだし、しかも俺達の恰好、ジャージだし……って、ええい! 気後れしてる場合じゃないだろ!


「か、環奈! 俺達も座ろう!」

「う、うん!」


 俺は環奈の手を引き、空いている場所に等間隔になるように腰を……って、ハンカチがねえ!?


「あ、そ、その……悪い、ハンカチ忘れた……」

「あはは、ジャージで出てきちゃったんだもん、そんなのいいよ。それよりその……嬉しかったよ……?」


 特に気にする様子もなくそのまま腰掛けた環奈は、俺を見てニコリ、と微笑んだ。


 街の灯りに照らされて煌めく鴨川の様子と相まって、環奈のその姿に俺は思わず胸を打たれる。


「だけど、こんな時間だからちょっと寒いね……」


 そう言うと、環奈はパーカーを寄せた。


 だから。


「あ……ま、まーくん……」


 俺は自分が着ていたマウンテンパーカーを環奈にかけてやった。


「ふ、風呂上りで風邪引いたらいけないから……」

「うん……ありがとう」


 そう言って、環奈は俺のパーカーをギュ、と握りしめ、顔を少しうずめた。


「えへへ、まーくんの匂いがする」


 嬉しそうにはにかむ環奈に、俺は……。


「そ、そうか……なあ……」

「? なあに?」

「その……もっとくっついたら、あったかいんじゃない、かな……だ、だから……もう少し、その……くっついても、いい、か……?」

「う、うん……もちろん……」


 環奈のお許しを得たので、俺は環奈と身体をくっつけた。


 ……環奈の温もりを感じる。


 だけど、俺の心臓の音、聞かれてないだろうか……。


 環奈とここに来てからずっと高鳴っている、この鼓動を。


「まーくん、あったかいね」


 微笑みながらそう言って見つめる環奈が、すごく綺麗で、魅力的で……。


「……ねえ、まーくん」

「あ、な、なんだ……?」

「その……キ、キス……してみない……?」


 恥ずかしそうにパーカーに顔をうずめながら、環奈がそんな提案をする。


 俺は……。


「あ、あはは、その、じょ、冗だ「環奈……」」


 慌てて取り繕おうとする環奈の言葉を遮り、俺は環奈を抱き寄せた。


「あ……」

「か、環奈のせいだからな……環奈が、可愛いから……」


 月明りで輝くその潤んだ瞳で見つめる環奈の顔に、俺は顔を近づけ。


「ん……」


 環奈の唇に、そっと口づけた。


 それは、触れたのかどうかも分からないような、ほんの少しだけの口づけ。


 だけど、俺にとって初めての……俺の意志でした初めての口づけだった。


 そして、その唇をそっと離すと。


「あ……」


 環奈は頬を染めて蕩けるような瞳をしつつも、少し残念そうな、もっとしていたいかのような、そんな声を漏らした。


「環奈……その……」

「う、ううん……私が言ったことだから……」


 俺が何か言おうとすると、環奈が少し悲しそうな表情になる。


 ち、違うだろ……そうじゃないだろ、俺……。


「だ、だけど……俺、環奈が初めて、だから……」

「っ! ……私も、まーくんが初めて、だよ……?」

「そっか……」

「うん……そう……」


 それから、俺は環奈と身体を寄せ合い、手を強くつなぎ合いながら、静かに流れる鴨川を見つめ続けていた。

お読みいただき、ありがとうございました!


次話は明日の夜投稿予定です!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、ブクマ、評価、感想をよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] やばい、表情筋のマッスルコントロールができない 口角が上がる笑 これはマスク越しでもわかるニヤケ顔笑笑
[一言] 環奈推しのワイ歓喜
[良い点] エンダアアアアアイアアアウィルァアルウェイズラァァァァビュウウウウウアアアア (And I will always love you...) え、あと2回叫ばなければいけないのですか? …
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