第82話
ご覧いただき、ありがとうございます!
「なんだよ、聞いてりゃクソみたいな会話してんな。京言葉って、もっと綺麗なモンじゃねーのかよ」
俺達が昼メシを済ませて、最後に環奈と鴨川で座るために来てみたら……優希達が地元の高校生カップルと険悪な感じになってるし、それにコイツ等は一体なんなの?
ただ、一つだけ分かっていることがある。
それは、優希が身体を震わせてるってことだ。
「なんやねん! いきなり後ろから蹴りよって!」
俺に蹴られた地元の女子高生が激昂して突っかかってくる。
「ハア? オマエ等こそ、うちのクラスメイトに何絡んでんの? つか、ガラ悪いな」
「なんやて! オマエ、坂口の知り合いか!」
おおう、今度はもう片割れの男が絡んできた。
「あ? オマエ耳悪いの? 俺、今クラスメイトっつったよな?」
「ああ! ……ああ、なるほど」
俺の煽りを受けて掛かってくるかと思ったら、急に物知り顔でニヤニヤし出した。
と思ったら、隣の女も同じくニヤニヤと……気持ち悪っ!
「はあ……アンタ、可哀想やさかい言うといたる。あんな? コイツは男やったら誰にでも股を開くビッチなんよ。アンタ、要は騙されてんねん。ま、相手はちゃんと選ぶんやなー」
俺はチラリ、と優希を見やると……ああ、なるほどな……。
身体を震わせながらむせび泣く優希を、俺はこのクソ共から庇うように前に立った。
「ああ、とりあえずオマエ等がクズだっつーことは分かったわ。んで、ドッチがそのクソみたいな噂流したの?」
俺は見下すような視線で二人を見る。
「ハア!? 何言うてんねん! せっかく私が親切心で言うたってるのに、アンタ、アホちゃうか!」
「そ、そうやそうや! 何証拠もないのに適当なこと言うてんねん!」
煽られてると理解した女が吠える中、その隣では、男が合いの手を入れながら目をキョロキョロさせてやがる……分かりやすっ!
「フーン、オマエがデマ流したのか。大方、コイツにフラれたその腹いせってところか?」
「なっ!?」
「なっ!?」じゃねーよ。マジでクズだな。
「ア、アンタ! 私の彼氏バカにするのも大概にしいや!」
「ハ? ……ああ、どうせオマエも、このクズがコイツに惚れちまったモンだから、嫉妬してイジメてたってところか。うわ、クズカップル、超お似合い」
「「なんやて!」」
ハハ、息もピッタリだ。
「とにかくさあ、善良な修学旅行生に構ってないで、クズはクズらしく仲良くしてりゃいいじゃん。俺達の視界の外で」
「コノヤロウ!」
あ、都合の悪くなったクズが、お約束とばかりに殴りかかってきた。
ふむ、ここは華麗に躱して、このクズに無様な姿を晒してもらおう……と思ってだんだけどなあ。
「ふむ……おい貴様、私の正宗に何をしようとした?」
「イ、イテテテテ!?」
クズの後ろから姉ちゃんが現れ、振り上げたクズの腕を捻った。
うん、オイシイところ、持ってかれた。
「ハア、ハア……まーくん、いきなり走り出さないでよ……」
「ハア……そ、そうですね……こういう時は、一言言っていただかないと……」
すると、環奈とハルさんが息を切らしながら合流した。
「ハア……で、今ってどういう状況?」
「事実を指摘されて立場が悪くなったクズが、姉ちゃんに腕を捻られてるとこ」
「うわー……羽弥さんって合気道の有段者だよね?」
「そう。しかも実戦系の」
うん……あの腕、完璧に極まってるから、絶対に逃れられない。痛そう。
「な、なんやねん! 悪いんは坂口やないか! コイツが私の彼氏に色目遣うさかい……!」
「はあ……私も色々察しちゃった……」
そう呟くと、環奈はスタスタと女の前へと歩いていくと。
——パアン!
環奈はクズ女を思いっきり引っ叩いた。
「イジメしてるようなクズが何言っても説得力ないのよ。そんなだから、男がフラフラしてるんじゃないの?」
おおう、辛辣う……。
「で、どうするの? どうせ修学旅行が終わったら地元に戻るんだし、このまま大人しく私達の前から消えてくれると嬉しいんだけど?」
環奈に叩かれて尻もちをつくクソ女を、環奈は正面に立って威圧的に見下ろす。
「あ、う……い、行ったらええんやろ! こんな女なんか知らんわ!」
「うるさい。さっさと消えて」
「あう……」
クソ女は捨て台詞を吐くが、環奈に気圧されてたじろいだ。
姉ちゃんも男の腕を離すと、よほど痛かったのかしきりに腕を押さえている。
そして、クソカップルは逃げるようにこの場を去っていった。
アレ? そういえばハルさんは?
俺はキョロキョロと見回すと……あ、オロオロしてる。可愛い。
「もう……まーくんは……でも、だけど……」
いつの間にか環奈が傍に来ていて、俺を見て少し呆れ……というより、不安、なのかな……そんな複雑な表情をしていた。
すると。
「あ……正宗、くん……」
優希が涙を流したまま、こちらを見ていた。
◇
■坂口優希視点
気がつけば、私は彼の名を呟いていた。
だって……だって、助けてって願ったら、まさか本当に現れて、あっさり追い払ってくれて、そして、助けてくれたんだから。
そう、小学生のあの時と同じように。
今の私の中には安堵と嬉しさと、そして、今までの私にはなかった、異性……ううん、正宗くんに対する特別な感情が芽生えていた。
そして、涙も拭かずに私はずっと正宗くんを……正宗くんだけを見つめ続ける。
「えっと……大丈夫、か……?」
彼は、少し照れ臭そうにしながら、私を気遣う言葉を投げかけてくれた。
「っ! う、うん……!」
ああ……やっぱり正宗くんだ。
私には、正宗くんしかいなかったんだ!
私は正宗くんに触れたくて、正宗くんを感じたくて、思わず手を伸ばそうとした。
だけど。
「……そっか、それなら良かった。俺達はもう行くから」
え?
どうして?
どうして行っちゃうの?
イヤだ! 私はもっと正宗くんと一緒にいたい!
私は……私は、初めて好きになった、正宗くんと一緒にいたいんだ!
私は慌てて彼を追いかけようとして。
そして。
「じゃあね……“坂口さん”」
その言葉に、私の身体がピタリ、と動かなくなる。
そうしているうちに、正宗くんは、環奈さん達と一緒にその場を去っていった。
「あ……ああ……」
ああ……そうだよね……。
私は……ずっと前に手に入れていたのに、自分から手放しちゃったんだよね……。
もう……もう……君は……!
「あああああ……」
私はその場で崩れ落ち、そして。
「ああああああああ……!」
いつまでも正宗くんの姿が消えた場所を見つめ続けながら、自分の犯した過ちに後悔して慟哭した。
お読みいただき、ありがとうございました!
次話は明日の夜投稿予定です!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、ブクマ、評価、感想をよろしくお願いします!




