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第79話

ご覧いただき、ありがとうございます!

「「むー」」


 三十分ほど鴨川沿いで眺めていた俺と姉ちゃんは二人と合流すると、とてもとても睨まれてしまった。


 何で!? 決めたの三人じゃん!


「はあ……まあいいです。お昼になれば次は私の番ですから……」


 ハルさんが額に手を当て、かぶりを振る。


「むー……私は夕方まで待たなきゃいけないのか……順番選び、失敗したかも……」


 環奈が悔しそうに唇を噛む。


「はあ……正宗、温かった……」


 姉ちゃんは蕩けるような微笑みを浮かべながら、さっきまでの余韻に浸っていた。


 ……これをあと二回繰り返すのか。


 俺のメンタルもつかな……。


 ◇


 俺達は祇園の街並みの中を歩いていると。


「あ、舞妓さんだ」


 二人連れの舞妓さんが、俺達の横を通り過ぎる。


「ふふ、あれは舞妓さんじゃなくて芸妓さんですね」

「へ? どう違うの?」

「ほら、あの履物を見てください」


 ハルさんは舞妓……いやいや、芸妓さんの履いている下駄を指差す。


「ね? 高くないでしょ?」

「はあ……それが何の関係があるんですか?」

「ふふ、舞妓さんが履く下駄は『ぽっくり下駄』といって、もっと底が高いんです。ですが、あの芸妓さんが履いている下駄は普通の下駄ですよね?」

「あ、本当だ。だけど、そもそも舞妓さんと芸妓さんの違いって何なんですか?」

「はい、舞妓さんは芸妓さんになるために修行中の方を言うんです」

「へえー」


 そうだったのか。

 でも、ハルさん物知りだなあ。


「ハルさん、よく知ってましたね」

「あ……うふふ。実は、京都に来るからと、あらかじめ調べておいたんです」


 そう言うと、ハルさんはペロ、と舌を出した。

 うわあ……この仕草、可愛いなあ。


「ウオッホン! ハル、ちょっとあざといような気がするが?」

「そうだよねー、ちょっと反則じゃないかな」


 二人がハルさんをジト目で睨む。


「ふふ、そうですか? でしたら、二人も同じようにしては?」

「むむ……またそういうことを……!」

「そうか……よし、私も!」


 ハルさんの返しに、二者二様の反応を示した。


 姉ちゃんは、ああいう仕草に抵抗でもあるのかな……。


「……姉ちゃんも、今みたいな仕草したら、可愛いと思うけど?」


 俺はわざとそう言ってみると、姉ちゃんは頬を赤く染めた。


「そ、そうか……?」

「うんうん」

「そうか……よ、よし! 私も今度……!」


 うん、姉ちゃんも少し自信を持てたみたいだ。

 やっぱり姉ちゃんには自信なさそうな、まるで諦めているような表情、して欲しくないよ。


 すると。


「「むー!」」


 ハルさんと環奈が、少しむくれている。


「い、いいんです! 私もお昼になったら正宗くんと鴨川で……!」

「わ、私だって……!」


 良かれと思って姉ちゃんに言ったけど、かえって二人を煽る結果になってしまった……。


 ◇


「ふふ、次は私の番ですね」


 お昼になり、ハルさんが嬉しそうに微笑む。


 昼メシを食べてから、とも思ったんだけど、ハルさんが先に一緒に座りたいと希望したので、昼メシを後回しにして鴨川沿いへと来たのだ。


「じゃあ、ハルさん」

「ふふ、はい……」


 ハルさんが差し出した俺の手に自分の手を添えると、鴨川沿いの空いている場所へと移動し、姉ちゃんにしたようにハンカチを下に敷く。


「ありがとうございます……」


 ハルさんがハンカチの上に座るのを見届け、俺もその隣を座る。


「ふふ、朝と違ってポカポカしてきましたね」

「ええ、そうですね」


 俺とハルさんは、秋晴れの空を眺めながら、そう呟く。


「気持ちいい……」


 ハルさんは伸びをすると、ゴロン、横になる。


「あ、じゃあ俺も」


 その姿が本当に気持ちよさそうだったので、俺も真似をしてハルさんの隣でゴロン、と横になった。


「ふふ、楽しいですね」


 隣で寝そべるハルさんがこちらに顔を向けてはにかんだ。


 うわあ、ハルさんの顔が近い。可愛い。


「あ、あの……お願いしたいことが、ある、んですが……」


 ハルさんがもじもじと恥ずかしそうにする。


 お願いってなんだろう?


「ええと、俺にできることなら……」

「は、はい……その、う……」

「う?」

「腕枕……して、くれませんか……?」


 な、何ですと!?


 う、腕枕……い、いや、もちろん俺はウエルカムだけど、そ、その……いいのかな……?


「え、ええと……本当に……?」


 すると、ハルさんは顔を真っ赤にしながら無言で頷く。


 こ、ここまで言われてしないのは、それこそ男がすたる、よな? な!


 俺はなぜか一度周りを確認した後、おもむろに左腕を伸ばし……。


「あ……うふふ、ありがとうございます……」

「は、はいい……」


 そっと頭を腕に乗せるハルさんに、俺はカチコチになりながら見ると……ち、近い……!


 それこそ、ハルさんの息遣いが聞こえるほどに……。


 あ、頭がクラクラする……。


「あ……正宗くん……」


 ハルさんが潤んだ瞳で俺を見つめる。


 ハルさん……。


「ん……」


 俺は、なぜか無意識のうちに、ハルさんの額にキスをしてしまった……キスを……キス!?


「うわあああ!? そ、その!?」


 俺は慌てて身体を起こそうとしたら、ハルさんに抱きしめられ、それを阻止されてしまう。


「ダメ、ですよ……? まだ私の時間ですから……ね?」

「は、はい……」

「それに……う、嬉しかった、です……」


 …………………………グハッ!


 結局俺は、時間いっぱいまでその状態でドキドキしながらハルさんと一緒に寝そべっていた。

お読みいただき、ありがとうございました!


次話は明日の夜投稿予定です!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、ブクマ、評価、感想をよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] がは なんでおれは1人でバイクなんで漕いでるんだ? 目から汗が笑笑
[良い点] う、腕枕ぁ…………? へ、へへへ……へぇ [一言] あ"あ"あ"あ"!!!羨ましいぃぃぃぃ!
[良い点] 舞妓さんネタ知らなかった〜!← なんとなく後の人になるにつれてスキンシップが激しくなっていくような!?ゆくゆくは、まさかまさかの二週目に突入パターンか!?笑 環奈のターンも楽しみ!
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