第78話
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「あ……」
環奈達の部屋から自分の部屋に戻った俺は、喉が渇いてロビーにお茶を買いに来たんだけど……。
そこには、窓から差し込む月明りに照らされた、優希がいた。
その姿は幻想的で、まるで京都の街に迷い込んだ、美しい妖精のように見えた。
だけど……優希、泣いてる……?
「…………………………」
そして優希は無言のままその場を立ち去ろうとして。
「ま、待てよ」
なぜか俺は、優希を呼び止めてしまった。
……何考えてんだよ、俺。
「……何?」
「あ、ああいや、別に用ってほどじゃないんだけど……」
優希の視線と問いかけに、俺は思わずしどろもどろになる。
「……何もないなら、私、行くから……」
「あ、ああ……」
そして、優希はその場を去って行った。
本当に、なんで俺は……。
◇
「ふああ……」
チクショウ、優希の奴に遭ったせいで、気になってあまり寝られなかった……。
って、気にしてる俺の自業自得だけど。
「堀口ー、長岡ー、朝メシ食いに行こうぜ」
「おー」
「了解でござる」
俺達は手早く着替えを済ませると、一階の朝食会場へと向かう。
「あ! まーくんおはよ!」
「はよー」
うむうむ、今日も環奈は元気だな。
「あれ? まーくん何だか眠そうだね」
「ん? おお、あんまい寝付けなくてな」
「そっかー、じゃあ今日はあんまり無理しないほうがいいね」
「や、自由行動で無理しなくてどうすんだよ。せっかく、その……一緒に回るんだし……」
「あ……うん、えへへ」
「ハイハイ、朝っぱらから雰囲気出してんじゃねーよ。あ、葉山ー、おはよ!」
おっと、佐々木に釘刺された。
だけど、葉山を見つけるなりすぐ尻尾振ってるオマエには言われたくないぞ。
「ま……一緒に朝メシ食おうぜ」
「うん!」
てことで、俺達は一緒のテーブルで朝食を取るんだけど、バイキング形式だったので、調子に乗って食い過ぎた……。
「あはは……もう、そんなに食べるからだよ」
「全くだ……こりゃ、自由行動ではできる限り歩いて腹ごなししないとな」
「えへへ、うん!」
そういや姉ちゃんとハルさん、朝食会場にいなかったな……。
朝メシはどうするんだろ?
ま、いいか。
◇
「んじゃ、また夕方な」
「おう……つかお前達、がんばれよ!」
「デュフフフ、堀口氏が何を言ってるか分からないでござるよ」
「「本気で言ってんの!?」」
「?」
ヤバイ……長岡の奴、普段はあんなに女心をくすぐる変態なのに、いざ自分のことになるとここまで鈍感だとは思わなかった……。
山川よ、ガンガレ。
「おーい、まーくん!」
「正宗くん! お待たせしました!」
「さあ正宗! 行こうか!」
三人が揃ってロビーに出てきたところで。
「んじゃ、行こうか」
「「「うん!」」」
俺達は宿を出ると、特に目的もなく河原町通のほうへ向かって歩く。
「ええと、それでみんなはどこに行きたいの?」
「えーとね、三人で協議した結果、まず朝はまーくんと羽弥さんが一緒に鴨川沿いに座って、お昼はまーくんとハルさんが一緒に鴨川沿いに座って、夕方は私とまーくんが一緒に鴨川沿いに座るの」
「俺、座りっぱなしじゃねーか!?」
つか、そんな風に分けなくても四人一緒に座れば……って、三人が俺をジト目で睨んでる!?
「はあ……まーくんだから仕方ないか……」
「ですね……」
「全く……少しは女心というやつを理解して欲しいものだ」
何だかディスられてるけど、とりあえず姉ちゃんには言われたくないぞ!
「まあいいや……それじゃ、姉ちゃん行こうか」
俺は姉ちゃんの前にスッと手を差し出す。
「む、正宗これは?」
「え? 一応姉ちゃんをエスコートしようと……」
「な、なななななな!?」
ええー……ナニ姉ちゃんのその反応。
「えーと、じゃあこれはナシで「まま、待て! 手をつなぐ! つなぐから!」……了解」
そして、俺は姉ちゃんと手をつないで鴨川沿いへと降りる。
「姉ちゃん、足元気をつけてね」
「うう、うむ!」
何だよ姉ちゃん。普段はあんなに遠慮もなしにスキンシップ取るのに、たかだか手つなぎくらいでこんなに緊張して……チョット可愛い。
しかし。
「本当に等間隔に座ってるんだなあ」
テレビで観たように、鴨川沿いにはカップルがキッチリ等間隔に離れて座っていた。チョット感動。
おっと、忘れるとこだった。
俺はポケットからハンカチを取り出すと、地面に敷いた。
「はい姉ちゃん、どうぞ」
「あ……ありがとう……」
姉ちゃんが顔を真っ赤にして、おずおずとハンカチの上に座る。
うん……なんだか俺がドキドキしてきた。
俺はそれを悟られないように、何食わぬ顔で姉ちゃんの隣に座る。
「姉ちゃん、寒くない?」
「あ、ああ……うむ、大丈夫だ。正宗こそ大丈夫か?」
「俺はちょっと寒いかな」
そう言うと、俺はブレザーの前ボタンを留めた。
すると。
「こ、こうすればあったかいぞ……?」
そう言って、姉ちゃんが俺の身体に寄り添い、手を腰に回した。
「……ホントだね」
「あ……」
俺も負けじと姉ちゃんの肩を抱き寄せた。
「ふふ……正宗、あったかいな……」
「うん……そうだね、姉ちゃん……」
俺は姉ちゃんの温もりを感じながら、目の前の鴨川のせせらぎに包まれながら、しばらく幸せな時間を過ごした。
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次話は明日の夜投稿予定です!
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