第77話 坂口優希②
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■坂口優希視点
正宗くんから告白されてから一週間経ち、今日もいつものように私に尻尾を振る男の子達に愛想を振りまいていると。
「優希……話があるんだけど」
環奈が突然教室にやって来て、クイ、と顎で合図して私について来るように促す。
……大方、正宗くんのことだろう。
私は環奈さんの後をついて行くと、そこは私が正宗くんをフッた場所……校舎裏だった。
本当に……正宗くんが私にフラれたおかげで、あなたにチャンスが回って来たんだから、むしろ感謝して欲しいくらいなんだけど。
だけど、コイツもバカだから、そんなこと考えもつかないんだろうな。
「ねえ優希……アンタ、まーくんに何て言ったの?」
「……“何て”、って?」
「とぼけないでよ。まーくんがアンタに告白したの、知ってるんだから」
それは、私は今まで聞いたことがないほどの環奈の低い声だった。
そして、環奈の視線に、その威圧感に、私は思わず息を飲む。
「わ、私は正宗くんに告白されたから、だからフッた。それだけよ……」
私は一歩後ずさりしながら、かろうじてそれだけを告げた。
だけど。
「嘘。単にフッただけなら、まーくんがあんな風になるわけがない。早く、サッサと言いなさいよ」
「あ……う……」
私は、目の前にいる環奈さんが怖かった。
そんな環奈さんから一刻も早く逃れるために、あの日のことを全部話した。
正宗くんに価値がないと言ったこと。
正宗くんの勘違いを指摘したこと。
そして、二度と関わらないで欲しいと告げたこと。
「そう……」
私が洗いざらい話した後、環奈さんは俯き、さっきまでの威圧がなくなった。
私は安堵し、ホッと胸を撫で下ろした、その時。
——パアン!
私は環奈さんに、思いきり頬を叩かれた。
「フザケルナ! まーくんの気持ちを弄んで、まーくんの気持ちを踏みにじって、そして……そして、まーくんの存在まで否定して!」
叩かれた拍子で尻もちをついた私の前に、環奈さんがぽろぽろと涙を零しながら憤怒の表情で仁王立ちする。
「あ……あ……」
その姿に恐怖し、私の身体がガタガタと震える。
「まーくんは……まーくんはなあ! 五歳の時に両親と死に別れて、今の家に引き取られてからもずっと負い目を感じてて、いつも遠慮ばかりしてて……それでも、今のご両親や羽弥さん達に支えられて、やっと今みたいに自然に笑えるようになったんだ! アンタ、幼馴染なのにそんなことも知らないの!?」
「え……?」
知らない。そんなの、聞いてない。
だって……だって正宗くん、そんなこと一言も言ってなかった。
「大体、アンタが今そうやってチヤホヤされるようになったのだって、小学校の時にいじめられてたアンタを見かねて、まーくんが同級生達にいっつも根回ししてくれてたからじゃない! なのに……なのにアンタは!」
「…………………………は?」
え? え? 何を言ってるの?
みんなが私のことを好きだって言ってくれるのは、私が特別だからでしょ?
「な、なにを言って……!」
「フン、本当におめでたいバカ。小学校の時にあんなにいじめられてたのに、いきなりそんな風に手のひら返すようなこと、あるわけないでしょ? それこそ小学五年のあの時から……中学校に入ってからも、まーくんと私が、アンタがまたいじめられたりしないように、目を光らせてたからに決まってるでしょうが」
だ、だって、そんなの……そんなの、私知らないもの、聞いてないもの。
「……アンタはまーくんに金輪際近づくなって言ったけど、その言葉、そっくりそのまま返してやる。二度とまーくんと私に近づくな。そして、以前のいじめられて何も言えずにウジウジしてたアンタに戻ればいいんだ」
そう言うと、環奈さんは振り返りもせずに校舎裏から去って行った。
「だって……だって、そんなの聞いてないもん……知らないんだもん……だから、しょうがないんだもん……!」
私は叩かれた頬よりも環奈さんの言葉に打ちのめされたまま、その場でうずくまった。
◇
それから私は、正宗くんの教室に足繁く通うけど、正宗くんの姿を一度も見ることはなかった。
そして、教室で私の姿を見かけた環奈さんからは、ただ「帰れ」と罵倒され、自分の教室へと引き返す日々が続いた。
そんな中、父から仕事の都合で京都へと転勤になり、私も一緒に引っ越すことになった。
今の学校にいられるのは、一学期が終わるまで。
それを聞いた時、ホッとしている自分がいた。
これで、私は逃げられる、と。
◇
京都へと引っ越してきた私は、夏休み明けの二学期から新しい中学校に通うことになる。
だけど、待っていたのは地獄だった。
最初のうちは、転校生の私をみんな優しく接してくれていたけど、男の子の一人が私のことを好きになったことがきっかけで、それも終わりを迎える。
その男の子のことが好きだった女の子の一人が嫉妬し、執拗に私をイジメるようになったのだ。
だから、早々にその男の子に断りを入れ、何とも思っていないことをその女の子に伝えるけど、むしろ逆効果でますますイジメられるようになった。
さらにはフッた男の子からは根も葉もないうわさを立てられ、私は学校で完全に孤立した。
それも、高校に入るまでだと我慢し続け、いざ高校に進学すると……その高校に、イジメていた女の子もいたのだ。
結局、高校に入ってからもイジメは続き、当然嫌なうわさも立てられ、二年の春……気づけば、私は不登校になっていた。
それを見かねた両親は、以前いたあの街に引っ越しすることを決意する。
両親曰く、あの時の私が一番笑っていたから、とのことだ。
私は、今度こそ一からやり直そうと決心する。
だって……あの街には、正宗くんがいるから。
正宗くんだったら、万が一私が同じような目にあっても、きっと私のことを助けてくれる。
そしたらまた、私は中学の時のように輝けるんだ!
そう信じて疑わなかった私は、両親に頼んで正宗くんが通っている高校を希望し、そこへと転校した。
◇
「……なんて、私もおめでたいわね……」
結局、転校してきて分かったのは、環奈さんからの敵意と……正宗くんからの拒絶だった。
当然だ。
私はそれだけのことを彼に、彼女にしたんだから。
なのに私は……。
「あ……」
そんなことを考え、眠れずにロビーにいた私の前に現れたのは——正宗くんだった。
お読みいただき、ありがとうございました!
次話は明日の夜投稿予定です!
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