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第66話

ご覧いただき、ありがとうございます!

「正宗、帰るぞ!」


 席に座ろうとする俺の肩をつかみ、怒りの形相に満ちた姉ちゃんが、突然吠えた。


「なあ!? ね、姉ちゃん!? 一体どうして……」


 俺が困惑の声を上げても、姉ちゃんは俺に一瞥もくれず、ただ店の奥一点を凝視し続けている。


 俺もその視線を辿り、そちらへと見やると。


「あ……」


 そこには、杉山達に囲まれている優希がいた。


 そうか……参加者の調整は杉山がしていたっけか。


 そして、優希に気づいたのは俺だけじゃないようで。


「そうだね……学校でもないのに、あんな奴と同じ空気を吸いたくない!」


 環奈も同じように優希を睨みつけながら、眉根を寄せる。


 そんな中。


「へえ……あれが……ですが、まあいいじゃないですか」


 ハルさんだけがのんびりした口調で、しずしずと席に着いた。


「な!? ハ、ハル! 君だって聞いたんだろう!? なら……!」

「そ、そうだよ! なんで!?」

「二人とも落ち着いてください。大体、正宗くんの意見も聞いていないんですよ?」

「だ、だが!」

「落ち着いてください」

「む、むう……」


 ハルさんにピシャリと言われてしまい、さすがの姉ちゃんも口をつぐむ。


 ハルさん……強ええ……。


「それで正宗くんはどうしたいですか?」

「お、俺!?」


 微笑みながらハルさんは俺を見つめるが、その瞳は一切笑っていない。


 多分……二人と一緒で、ハルさんも怒ってるんだろうな。


 だけど。


「俺は……ここでみんなと打ち上げしたい、かな」

「な!?」

「ど、どうして!?」


 意外だったのか、二人が俺に詰め寄る。


 だって。


「今回の文化祭、生徒会のこととか色々あったけど、ハルさん、環奈、姉ちゃん、そしてみんなで成功させたんだ。だから、みんなでそれを祝いたい。二人が心配してくれる気持ちも分かるけど、俺なら大丈夫だから。だって……」


 そう言って、ハルさん、環奈、姉ちゃんを見る。


「だって、俺には三人がいるから」

「「「っ!」」」


 その言葉に、三人が一斉に息を飲んだ。


「正宗くん……」

「まーくん……う、うん!」

「そうだとも! 私はいつだって……!」


 そして、三人の表情がパアア、と明るくなった。


 うん、やっぱり三人は笑っているほうが綺麗、だな……。


「そ、そういう訳だからさ、わがまま言って悪いけど、打ち上げ、楽しもうよ!」


 そう言うと、ようやく納得してくれた二人が席に着いた。


「正宗くん」

「はい?」

「やっぱり、正宗くんです……」


 ハルさんが微笑みながら、そっと膝に手を置いた。


 や、なんかすごく恥ずかしいというか、照れるというか、嬉しいというか……。


 すると。


「お待たせしました! それじゃ、今から文化祭の打ち上げ、始めるぞー!」

「「「「「おー!」」」」」


 少し調子に乗ってる杉山の合図で、打ち上げがスタートした。


 しかし。


「長岡……なんだか顔色が悪いけど、大丈夫か?」


 山川の隣に座る長岡が、一人苦悶の表情を浮かべていた。


「デュ、デュフフ……よくぞ気づいてくれたでござる……拙者、そろそろ漏れそうでござ……る……」

「「「「「「あ……」」」」」」


 そ、そうだった!? コイツ、手錠で拘束されてトイレに行けないんだった!?


「うわあああ!? ゴ、ゴメン!」

「い、いいでござるよ……」


 山川が慌てて手錠を外すと、長岡はヨチヨチ歩きでトイレへと向かった……。


「や、やっちゃったあ……」

「ま、まあまあ雫……」


 思いのほか落ち込む山川を、環奈が親身になってなだめる。


 つか山川の奴、いつもあれだけ長岡に殴ったり蹴ったりしてるのに、アレくらいで、なあ……。


「センパーイ! 遅れちゃいましたー、テヘ!」


 佐山がペロ、と舌を出しながら、笑顔でやってきた。


「つーか、遅刻じゃねーか」

「えへ、すいませーん!」

「反省してねーだろ……」


 このあざとい後輩に深く溜息を吐くと、姉ちゃんが露骨に顔をしかめた。


「ふむ……生徒会役員として、たるんでいるのではないか? オマケに、私の正宗にあざとくアピールするとは……これは先達として、生徒会役員の何たるかをキッチリ叩き込んでやる! そこになおれ!」

「ヒイイ」


 憐れ佐山は、姉ちゃんに捕まって公開処刑を受ける羽目になった。合掌。


「そういやさあ。文化祭も終わったし、あと二週間後には修学旅行じゃん? 一緒に同じ班になろーぜ!」

「当然!」


 ポテトをかじりながらの佐々木のお誘いに、もちろん俺も乗っかる。


「デュフフフフフフ! もちろん拙者も二人と同じ班に加えて欲しいですぞ!」

「「お、おう……」」


 もちろん長岡も一緒のつもりだったけど……それにしても、トイレから戻ってきた長岡の表情の清々しさたるや……うん、気持ち悪い。


「あ! もちろん私達も一緒だよね!」

「「もちろん!」」


 環奈が勢いよく手を挙げ、俺達の班に立候補するが、そんなの答えは決まっているよな。


「そうだ、せっかくだから葉山も俺達の班に入らない?」


 俺達と同じ席の隅で、無言で座っていたクラスメイト“葉山七海(ななみ)”に、佐々木が声をかける。


「え……そ、その、私、こんなだからあんまり楽しくない……よ?」


 だけど、葉山は少し困ったというか、遠慮しているというか、そんな表情で俺達を見る。

 や、確かに葉山ってクラスでも一人でいることがほとんどだから、あんまり騒がしいのとか苦手なのかな……。


 でも、こうやって打ち上げに参加してるんだから、そうでもないと思いたい。


「えー! いいじゃん、俺達と一緒に楽しもうぜ!」


 お、佐々木の奴、いつになく積極的だな。


「で、でも、坂崎さんも山川さんも、い、いいの……?」

「へ? そんなのいいに決まってるよ! ねえ雫」

「そうそう! コイツ等のお守り、ぜひ葉山さんにもお願いしたい!」


 コラコラ、問題児は長岡だけで、俺達はいたって普通だぞ。


「あ、うん……だ、だったら、よろしくお願いしましゅ!?」


 あ、舌噛んだ。

 ちょっとカワイイかも……って、そこの四人、なんでコッチを睨んでるの!?


「じゃあ決まり! 修学旅行はこの六人で!」

「デュフフフ、これは楽しい修学旅行になりそうでござるな……お風呂のノゾキから始まり、女子の部屋への侵入、果ては……グエエ!?」

「いい加減にしろ!」


 ハイ、お約束のように長岡が山川にヘッドロックを……って、コレ、ひょっとしてご褒美なんじゃ……。


「デュ、デュフフフ……わが生涯に一片の悔いなし……ガク」


 うん、長岡の奴、頭に山川の胸が当たって、メッチャ幸せそうな表情してる。


 そんな中。


「えええええ!? 私、一緒に行けないじゃないですかー!」

「当たり前でしょ、一年生なんだから」

「むー! 環奈さーん! 生徒会として修学旅行を視察しましょうよー!」

「何でよ!」


 だだをこねる佐山に、環奈が頭を抱える。


 大変だなあ……。


 そして。


「むむ……これは、このままでは……!」


 姉ちゃんが、なにやら怪しげに呟いてる……。


 うん、聞かなかったことにしよ。


 ◇


「盛り上がってるところなんだけど、時間になりましたので、打ち上げはお開きでーす!」


 さらにゴキゲンになっている杉山の声で、打ち上げは終了となり、クラスメイト達がぞろぞろと席を立つ。


 そして、優希も杉山をはじめとした男子達に囲まれながら俺達の前を通る。


「「チッ!」」


 姉ちゃんと環奈が、優希とすれ違いざまにそれぞれ舌打ちするが、当の優希はそんなこと気にも留めずに、飄々と通り過ぎて行った。


 だけど、杉山達とにこやかに会話している優希を見て、俺は違和感を覚える。


 あれは……怯え……?


「正宗くん……?」


 ハルさんが心配そうに俺の顔を覗き込む。


「あ、ああいえ、何でもないっす」

「そう、ですか……?」

「はい」


 俺は優希の様子をこれ以上気にしないようにし、みんなと一緒にファミレスを出た。

お読みいただき、ありがとうございました!


次話は明日の朝投稿予定です!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、ブクマ、評価、感想をよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 3人とも一方的に優希に敵意持ちすぎだと思うな〜 あの話聞いた限りやと正宗が思いがってて、まぁ優希の 断りかたは辛辣やったけど、正宗が圧倒的悪い?と思うし、 あの3人が、あんなに敵意向け…
2020/09/29 13:20 退会済み
管理
[一言] あ、4人か。 政宗+3人でw いや、あの不可侵領域に入る気しない。 消し飛びそう。
[良い点] 姉ちゃん 政宗と楽しもう3人で! だが、佐山。てめぇはダメだ! (ボボボーボ・ボーボボ風)
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