第65話
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「店長……長い間お休みいただいてすいませんでした……」
放課後、俺は店長に今まで休んでいたことについて謝罪し、深々と頭を下げる。
「アラアラ、そんなのいいのよ! それより正宗クン、いい顔するようになったわね!」
「へ? そ、そうすか?」
「ええ! それもこれも、誰かさん達のおかげかしら?」
そう言うと、店長はチラリ、とハルさんと環奈を見やる。
だから。
「はい!」
俺はそれを全肯定するため、店長に大声で返事した。
「ウフフ、青春ねえ……ワタシも若い頃は……」
店長、その話、聞かなきゃダメですか? ……って、二人ともどこ行くの? ねえ!?
結局俺は、店長の恋愛話(百パーセント店長の片想い)を三十分間、延々と聞かされていた……。
「ふ、ふふ……お疲れ様です……」
「あ、あははー……まーくんお疲れ……」
店長が厨房へ戻るなり、二人が引きつった顔で近寄ってきた。
コ、コノヤロウ……。
「……二人も一緒に聞けばよかったんじゃないの……?」
「え、ええと……お客様がいらっしゃったので……ね、ねえ環奈さん?」
「ふえ!? そそそ、そうですねー! お客さんがいたらしょうがないですよねー!」
二人で結託しやがった。ちくせう。
「はあ……まあいいや。それよりハルさん、明日なんですけど……」
俺はいよいよ明日に迫った文化祭の打ち上げについて説明する。
環奈とも話していたんだが、せっかくなのでハルさんと環奈には俺の家に合流してもらって、四人で会場のファミレスに行こうということになったのだ。
「それで、昼の一時に俺の家に来て欲しいんですけど……」
「あー……すいません、それはムリですよ……?」
「え? ど、どうして?」
俺はまさかハルさんに断られるとは思ってなくて、ついハルさんに詰め寄る。
俺のわがままだってのは分かってるけど、俺はハルさんとも一緒に行きたかったから。
「いえ、その……ほら、明日はステラの……」
「「……あ」」
しまった! 明日は月に一度のステラの棚卸の日だっけ!?
「てことは俺達も……」
「だよね……」
俺達三人、明日は朝からステラでバイト、だな……。
「じゃあ姉ちゃんにもステラに来てもらって、ここからみんなで一緒に向かうか」
「そうだね。それにここからなら、会場のファミレスも近いし」
「ですね」
と、話がまとまったところで。
「いらっしゃいませ!」
俺達は終了時刻までバイトにいそしんだ。
◇
「あらあ! 羽弥ちゃんにも手伝ってもらって、助かるわ!」
「いえいえ、いつも正宗がお世話になっておりますので」
打ち上げ当日、姉ちゃんも一緒にステラに来てもらったんだけど、ついでだからと姉ちゃんも棚卸を手伝ってくれることになった。
だけど姉ちゃん、メチャクチャ手際がいいんだけど!?
「ね、姉ちゃん、バイトなんてしたことあったっけ?」
「ん? それはないが……ああ、棚卸も生徒会の準備作業も、することは似ているからな。だからだろう」
「へえー、そうなの?」
俺は隣にいる環奈を見やると、環奈は大きくかぶりを振った。違うじゃん。
「なんだ正宗、ひょっとして惚れ直したか?」
姉ちゃんが悪戯っぽくそんなことを聞いてきたので。
「うん……惚れ直した」
「な、ななななななななな!?」
そう切り返してやったら、姉ちゃんが顔を真っ赤にしてわたわたする。
ああ……姉ちゃん、可愛いなあ。
「まーくん……?」
「は、はい……」
そして俺は、そんなちょっとした悪戯を環奈に咎められた。
環奈さんや……そんなに睨まないでおくれ?
「あら? これ……」
「どうしました?」
奥で作業をしていたハルさんの元に近寄ると。
「ああ、クリスマスの」
段ボールの中身は、サンタの衣装やクリスマスツリーの飾りなどが入っていた。
「店長ー! コレ、どうします?」
「あらあら、何かしら?」
厨房で作業していた店長がやって来て、しげしげと段ボールの中身を見る。
「ウーン、まだ一か月以上も先だから、さすがに出すには早いわね」
「ですよねー」
「だけど、クリスマスにはみんなにサンタの恰好をしてもらうわよ!」
「「「はい?」」」
へ? 俺達がサンタの衣装を着るの!?
「アラアラ、当然じゃない。クリスマスイブに、店頭でその衣装を着て売ってもらうわよ!」
え、ええと、まあ俺は全然構わないんだけど、そうするとハルさんと環奈は……。
「す、すいません店長……もちろん、ハルさんと環奈は俺とは違う衣装ですよね?」
「もちろん! 二人にはミニスカサンタを着てもらうから、正宗クンも期待していいわよ!」
な、なんですと!?
ミニスカサンタ……良き! 良きですぞ! …………………………はっ!?
「「正宗くん(まーくん)……」」
俺は慌てて振り返ると、ハルさんと環奈がジト目で俺を見ていた。
「むう……ならば、その日は私もサンタの衣装を着るぞ!」
「はあっ!? ね、姉ちゃん!?」
「む、当然じゃないか。そうでなければフェアじゃないだろう?」
フェアってなんだよ! フェアって!?
「ま、まあそうですね……よし!」
ハルさん!? 何で気合入れてるの!?
「わ、私だって……!」
環奈まで!?
「アラアラ、三人ともやる気十分ね! これは……面白いことになってきたわね……!」
や、店長、楽しんでません?
そんな感じで楽しく? 棚卸作業を行い、集合時間の三十分前になった。
「それじゃみんな、楽しんでらっしゃい!」
「「「「はい!」」」」
店長に挨拶した後、俺達はステラを出て打ち上げ会場のファミレスへと向かう。
「ふふ、今日は楽しみですね」
「まーくん! 一緒の席に座ろうね!」
「む! 正宗の隣は譲らんぞ!」
などと、三人が三人、今日も姦しいことこの上ないんだけど……。
でも、俺はそんな三人をこうやって眺めているのが大好きだ。
ずっと、こんな時間が続けばいいのにな……。
「あ、着いたよ!」
さすがにステラからだとファミレスまですぐだな。
まあ、どっちも駅前にあるんだから当たり前だけど。
俺達はファミレスの自動ドアをくぐり、店内へと入ると……お、まだ十五分前なのに、もう結構来てるな。
「おーい堀口!」
すると、早速佐々木が手を振っている。
「おー、来たぞー」
「つかなんだよ! 美人三人引き連れやがって! どこぞのハーレム主人公かっての!」
「マテ、俺のどこがハーレム……ハッ!?」
俺は佐々木の言葉に思わず振り返ると……確かに、三人とも超美人だし、その中に俺だけいるこの状況……ヤバス!
これは間違いなくヘイトを一身に集めてしまう状況だぞ!?
だけど。
「あー……佐々木よ、何と言われようと、俺は今の状況を譲る気はない! ハーレム万歳!」
「開き直りやがった!?」
スマン佐々木、俺は最高に幸せだ。
「まあそれより……」
俺は佐々木のいる席をチラリ、と見る。
「デュ、デュフフ……いい加減拘束を外して欲しいのでござるが……」
「は、はあ? ア、アンタを野放しにしたら、とんでもないことになるでしょうが! だ、だからこうやって私が監視してるの!」
「そ、それにしてもこれはヒドイでござる……」
長岡の足が山川によってテーブルの足に手錠で拘束され、その席から離れることができない状況になっている。
……これ、何のプレイだよ。
「あ、あははー……雫もやり過ぎだと思うなあ……」
山川よ、そんなに長岡に恨みでもあるのかなあ……まあ長岡、ご愁傷様。
「まあまあ、それより俺達も席に……」
そう言って俺が席に座ろうとすると、姉ちゃんに肩をつかまれ。
「正宗、帰るぞ!」
怒りの形相に満ちた姉ちゃんが、突然吠えた。
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次話は今日の夜投稿予定です!
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