第64話 坂崎環奈④
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■坂崎環奈視点
「ええ!? 昼休み、一緒にメシ食えないの!?」
「う、うん……」
三時間目が終わった後の休み時間、私は昼休みに一緒にお昼ご飯を食べられないことを告げると、まーくんはあからさまにガッカリした。
「な、なあ、どうして……?」
不安そうな表情で、まーくんが私を見つめる。
私はガッカリした様子といい、不安そうな表情といい、文化祭前では考えられなかったまーくんの態度が、嬉しくて仕方ない。
だって……だってこれは、まーくんが前を向いて、私と真剣に向き合ってくれている証拠だから。
「ゴメン! 生徒会の仕事でどうしてもしとかなきゃいけないことがあって!」
「せ、生徒会? それなら俺も……」
「あ、ううん、次の生徒会長選挙のことだから、いくらまーくんでもお願いできないの……」
これは半分本当で半分嘘。
生徒会長選挙に関することは、公平性の観点から部外者を入れられないのは間違いない。
ただ、それを今日の昼休みにすることはないってだけ。
「そ、そうか……で、でも! もし俺の力が必要なら、いつでも言ってくれよ!」
「う、うん! もちろん、頼りにしてる!」
嬉しい!
まーくんがこんなにも私に積極的に関わってくれる!
私は嬉しさのあまり、やっぱり昼休みも一緒にいたいと思ってしまう。
でも、今日は我慢。
だって、これはどうしてもしておかなきゃいけないことだから。
「本当にゴメンね……?」
「あ、いや、いいんだ……俺のほうこそ、わがまま言って悪かったな」
「ううん、まーくんの気持ち、本当に嬉しかった……ありがとう」
「あ、お、おう……」
あはは、まーくんが照れてる……っていうのとはちょっと違う、のかな。
だけど、私は今、すごく幸せだ。
だって、まーくんが私を見てくれてるんだもん。
後は……優希のことと、ハルさん、羽弥さんとの勝負に勝つだけ。
私は、絶対に負けないんだから!
「あ、そういえば」
すると、まーくんが少し気の抜けた声で思い出したかのように呟く。
「? なあに、まーくん?」
「や、生徒会で思い出したんだけど、船田のバカと松木のバカはどうなったんだ?」
「ああ……」
まーくんの言葉に、私も思わず頭を抱える。
結局、生徒会長の船田は一か月の停学処分、顧問の松木は減給処分の上、教育委員会預かりとなった。
実害がないからと、大袈裟にしたくない校長や一部の先生は軽い処分程度にしようと言ったらしいけど、今回のことを重く見た教頭先生が、教育委員会に報告するとの一点張りで、結局そうしたそうだ。
この辺りは、羽弥さんの働きかけが大きいんだと思う。
ただ、その分私と睦月ちゃんへのしわ寄せが結構来てるのも間違いないんだけど……。
とはいえ、今の生徒会ですることは、今度の生徒会長選挙のための選挙管理委員会の設置と人選、生徒会会計の引継ぎだけなんだけど。
「はあ……まあ、これ以上環奈に迷惑がかからなきゃ、それでいいんだけど……」
「あはは……」
「「はあ……」」
私とまーくんは、揃って深い溜息を吐いた。
◇
昼休みになり、私は体育館の裏で、一人壁にもたれかかる。
そろそろ来てもいいはずなんだけど……。
すると。
「……来たわね」
体育館の陰から、優希の姿が見えた。
「……こんなところに呼び出して、何の用ですか?」
「そうだね……ちょっと話がしたいなー、って」
眉根を寄せながら私を睨む優希に、私は煽る意味もあってわざとおどけて答えた。
「ふざけないでください。あなたがこのメモを寄越したんじゃないですか」
そう言って、優希はノートの切れ端を広げる。
『昼休み、体育館の裏まで来い。 環奈』
「うん、そうね」
私はそのメモをさも珍しそうに眺める仕草をする。
「……なんですか? その態度は私への当てつけですか?」
「そうだけど?」
当たり前じゃない。
私がオマエを許すなんて、そんなことをするとでも思ってるのかな?
だとしたら、相当なバカだよね?
「……まあいいです。それで? 環奈さんは私に何が言いたいんですか?」
「ん? そうね……とりあえず、私とまーくんの前から消えて欲しいかな」
だって、本当に目障りだもん。
この女さえいなくなれば、もうまーくんがあのことを気にせずに済むし。
「そんなこと、できるわけ……」
「そうね。じゃあ、私にこんなこと言われることくらい、覚悟の上でうちの学校に転校してきたんだよね? だって、元々この辺りに住んでたんだもん。私達がどの学校に通ってるか、あらかじめ知ることだってできたでしょ?」
「…………………………」
「なのに……なのにオマエは、うちの学校に転校してきた」
私は視線を逸らす優希をキッと睨む。
まるで、視線だけで殺してしまうんじゃないかと思うほどに。
「これ以上、まーくんに何をする気なのよ! 私は! 絶対にオマエを許さない!」
私は叫ぶ。
私の世界一大切なまーくんを壊そうとした、この最低の女に向けて。
だけど。
「はあ……それで?」
「…………………………は?」
この女は、私の叫びも意に介さず、面倒臭そうに髪をかき上げる。
「だから! とっとと私達の前から……!」
「だから、今さらそんなことできるわけないでしょ? それくらい、ちょっと考えれば……」
「オマエの事情なんか知るか! いいから出て行け! 私達の前から消えてなくなれ!」
「はあ……心配しなくても、私にはあなた達に関わる気はないわ……だから、私のことは空気だとでも思っていればいいじゃない? で、話はそれだけ?」
「なっ!?」
「じゃ、私は行くから」
そう言うと、優希は手をヒラヒラさせてその場を去って行った。
「……そう、あくまで私達の邪魔をする気なんだ」
私の中を、黒い感情がぐるぐると駆け巡る。
「だったら……だったら、私だって容赦しない! まーくんは私が護るんだ!」
私は優希のいなくなった体育館の裏で、宣言する。
もう、まーくんを同じ目になんて遭わせないんだから!
お読みいただき、ありがとうございました!
次話は明日の朝投稿予定です!
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