第63話
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「はよー」
俺と環奈が教室に入ると、佐々木、長岡、山川がこちらへとやってきた。
「おい堀口! その……大丈夫なのかよ!」
「ああ、すっかり良くなったぞ。心配してくれてありがとな」
「文化祭の後に続いて昨日もだから、心配したでござるよ……」
「何だよ長岡、柄にもないこと言いやがって」
「デュフフ、堀口氏は拙者の数少ない親友でござるからな」
佐々木も長岡も何だよ……嬉しくなっちまうだろーが。
「ああ、堀口くん、長岡の話は半分程度に聞いといたほうがいいと思うよ? 長岡は明日の打ち上げの心配してるだけだから」
「そそ、そんなことないでござるよ!? ほ、堀口氏が来ないと酒池肉林イベが中止になると困るとか、そんなことは決して……ホゲエ!?」
「考えてんじゃないの!」
おおう、山川の膝が長岡の顔面に……。
「デュ、デュフフ……今日は縞、でござるよ……ガク」
「な!? こ、このおおおおお! 死ね! 死ね!」
倒れた長岡に、山川が顔を真っ赤にしながらゲシゲシと踏みつけている。
だけど山川、ソレ、長岡にとってはご褒美にしかならないと思うぞ?
その時。
「おはようございます」
教室に入ってきたのは、優希だった。
俺はその姿を見た瞬間、脚から力が抜けていくのを感じ、そして、身体が震え……………………え?
「か、環奈……」
「ん……」
環奈が俺の手をそっと握ると、俺を庇うように前に立つ。
そして、俺は身体の震えが止まり、環奈の手の感触が、手の温もりだけが俺の心を満たしていく。
「ありがとう……」
「ん……」
俺の口から、自然と感謝の言葉がこぼれる。
「なあ環奈、今日は休み時間も、ずっと俺の傍にいてくれないかな」
「っ! もちろん!」
俺がそう言うと、環奈の表情がパアア、と明るくなる。
うん……環奈ってこんなに可愛かったんだよな……。
「しっかし、坂口さんって転校してきて早々、すごい人気だよな」
佐々木の言葉に俺達が優希を見ると、待ってましたとばかりに数人のクラスメイトが優希に群がる。
そして、その中には杉山の姿もあった。
アイツ、節操ないなあ。
「デュフフ、まあ、あれだけ可愛ければそれも納得でござるよ。拙者としては使用済みの靴下でも……ウゲエ!?」
「へえ、長岡。今日は本当に死にたいようね」
「ウググ……さすがにもう耐えられないでござる……よ……」
毎度毎度、懲りない奴だ。
でも。
「……俺は、環奈のほうが可愛いと思う、けど……?」
ヤベ、俺、今なんて呟いた!?
だ、誰にも聞かれてない……?
「っ! ま、まーくん……!」
環奈が顔を上気させ、キラキラした瞳で俺を見ている。
ハイ、環奈にバッチリ聞かれてました。
けど、まあいいか。
だって、本当のことだから。
「つーかさ。堀口、お前なんか雰囲気変わった?」
「え? そうか?」
「おう。何つーか、後ろめたさというか、遠慮というか、そういうのがなくなったような気がする」
「あー……」
それは、ハルさん、環奈、姉ちゃんのおかげでな。
「! 環奈! チャンスだよ!」
「ふえ!? な、何がよ!?」
「何がって、今なら堀口くんも……!」
「う……も、もちろん!」
環奈が山川と話しながらフンス! とガッツポーズをしているけど、ま、いいか。
「デュフフ、それより明日の打ち上げの件でござるが……」
——キーンコーン。
「あ、時間だ。とりあえず打ち上げの件は、次の休み時間な」
「ああ」
「デュフフ、拙者の案を聞けば、堀口氏ならば必ず同意してくれるはず……そして、デュフフフフフフフ!」
「長岡、気持ち悪い」
「や、山川氏!? それはないでござるよ!」
ということで、俺達は全員席に着き、一時間目の授業を受けた。
◇
「それで、打ち上げはどこでやるんだ?」
「デュフフ、打ち上げの会場は駅前のファミレスでござる! バッチリ予約してるでござるよ!」
「ていうか、いつの間に長岡が幹事に!? 私、不安でしかないんだけど!?」
一時間目が終わった後の休み時間、俺達はまた集まって文化祭の打ち上げの話で盛り上がる。
「打ち上げには何人くらい来れそうなの?」
「デュフフ、出欠確認は杉山氏がしているので、ハッキリとは存しておらぬが、少なくとも我々とハル様、マリア様はエントリーしてますぞ!」
「マテ、ハルさんに様付けはいいとして、マリア様ってひょっとして……」
「もちろん堀口氏のお姉様、マリア様でござるぞ! そして当日は、マリア様に男子全員が踏んでもらうという楽しいイベントが……ゲボア!?」
「「「死ね!」」」
俺、環奈、山川が一斉に長岡に攻撃を仕掛けると、憐れ長岡、教室のゴミと化した。
姉ちゃんに何させる気だよ!
すると。
「センパーイ! 明日の文化祭の打ち上げ、よろしくお願いしまーす!」
「ゲ」
なんと、佐山の奴が教室へとやってきた!?
しかも、打ち上げの話を知ってるばかりか、参加するだと!?
「さ、佐山、お前その話、誰から……」
「へ? やだなあ、長岡に決まってるじゃないですか」
俺達は一斉に、床に転がる長岡を見る。
「なあ長岡、佐山に声掛けたの?」
「デュ、デュフフ、もちろんでござる……佐山は拙者の同志ゆえ……ガク」
「同志って……」
コイツ等が組み合わさると、碌なイメージが湧かないんだけど。
「はあ!? 聞いてないんだけど!?」
そしてなぜかキレる山川。
「デュ、デュフフ、言ってないでござるからな……グハア!?」
「バカ! バカ! 死ね!」
ヤベ、これは本格的に止めたほうが……。
俺が山川を止めようとすると、なぜか環奈が俺を制止し、そして首を左右に振った。
「か、環奈、何で止めるの? むしろ止めなきゃいけないのは向こうなんだけど?」
「アレは長岡くんが悪い」
「そ、そうなの?」
環奈が無言でコクリ、と頷く。
悪い長岡、お前の味方はここにはいないようだ。
「うふふ~! センパイ、楽しみですね~!」
「お、おお……」
俺は嬉しそうに詰め寄る佐山から一歩後ずさる。
「ハイハイ、そろそろ休み時間も終わるから、睦月ちゃんは教室に戻る!」
環奈が俺と佐山の間に割って入り、キッと佐山を睨みつける。
「えー! ずるいです! 卑怯です! 横暴です!」
「なんでよ!」
環奈と佐山がやいのやいのとじゃれ合う中、俺はチラリ、と窓際の席を見やる。
そこには、ニヨニヨしながら嬉しそうに話す杉山達男子数人と、優希の姿があった。
その光景に、俺の心は……なぜか、何も感じなくなっていた。
「まーくん……」
環奈が俺を心配そうに見つめる。
「ん? ああいや……俺、環奈がいて良かったな、って」
「へ!? ふええええ!?」
俺の言葉に環奈が顔を真っ赤にしてあたふたする。
俺はそんな環奈が可愛くて、つい環奈の頭を撫でてしまう。
「えへへ……まーくんに頭を撫でてもらうの、好き」
「そうか。じゃあ、いくらでも……って、みんな!?」
見ると、佐山や佐々木、長岡、山川からジト目で見られていた。
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次話は今日の夜投稿予定です!
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