第59話 堀口正宗②
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中学三年の四月。
この頃には、もはや優希は学校で知らない奴がいない程で、優希の下にはひっきりになしに告白する奴が現れては、優希によって玉砕する日々が続いており、中学で一番モテる野球部のエースでさえ、優希には袖にされていた。
「あーもう! 腹立つ!」
そして、優希に敗れた男共は、今度は同じように可愛い環奈のところへアプローチをするという、環奈にとっては失礼極まりないとなっていた。
「大体、優希にフラれたからって私に乗り換えだなんてあり得ないでしょ!」
「でも、そんな奴だけでもないんだろ?」
「そ、それはそうだけど……」
そう言うと、環奈はチラリ、と俺の顔を見る。
「……ねえ、まーくんはその……う、ううん……」
そう呟くと、環奈は下を向く。
その頃の環奈は、こんな仕草をすることが多くなっていた。
だから俺はそのたびに、環奈の頭を少し強引に撫でる。
「わ!」
「何だよ。環奈にそんな顔、似合わねーって」
「まーくん……えへへ」
今から考えれば、ずっとこんなことばかりしてたから、高校になっても環奈の頭をつい撫でちゃうんだよなあ。
環奈だって、今じゃあんなに綺麗なのに。
おっと、話が逸れた。
それで、優希への想いを募らせていた俺は、一つの決心をする。
優希に告白しよう、と。
この時の俺は、優希にフラれるって未来を想像できていなかったから、優希と付き合ったらどこへデートしようとか、手をつないでみたいとか、キスしたいとか、思春期全開の妄想ばかりしていた。
そして。
「優希……話があるんだ。放課後、校舎裏に来てくれないか?」
「……ええ、いいわよ」
いつもと変わらない様子で優希がそっけなく了承する。
「! じゃ、じゃあ放課後!」
そう言うと、俺は優希と別れてガッツポーズをした。
俺はこの時、有頂天だった。
これで優希と付き合えるもんだとばかり思っていた。そう信じて疑わなかった。
「まーくん……」
「おう! はは、どうした環奈!」
浮かれている俺は、いつもよりも大きな声で、最高の笑顔で環奈に返事する。
逆に環奈は、今までにないくらい落ち込んだ表情を見せていた。
「……優希に告白、するの?」
「っ! な、なんでそれを……!」
環奈に言い当てられ、俺は思わずたじろぐ。
「ねえ……そんなの、やめなよ」
「は?」
俺は突然の環奈の言葉に、俺の中で怒りが湧いてくる。
なんで幼馴染なのに、俺と優希のこと祝福してくれないんだよ! って、そう思った。
だから、俺は環奈に怒鳴ってしまう。
「なんでだよ! 環奈には関係ないだろ!」
「だって! ……だってえ……!」
すると、環奈はぽろぽろと泣き出してしまった。
俺は“あの環奈”が泣き出してしまったことに困惑してしまい、ついオロオロとしてしまう。
「あーその、わ、悪い……」
「まーくんのバカ!」
そして環奈はそう叫ぶと、走ってどこかへ行ってしまった。
「な、何なんだよ……」
俺は頭をポリポリ掻きながら、自分の席に座って放課後を心待ちにしていた。
◇
いよいよ放課後。
俺はカバンもそのままに、校舎裏へとダッシュする。
悲しそうに見つめる、環奈の視線にも気づかずに。
それからどのくらい時間が経ったんだろう。
実際にはほとんど経っていないにもかかわらず、優希を待つ俺には一時間にも、二時間にも感じられた。
そして。
「あ、ゆ、優希!」
校舎の陰から、優希の姿が現れる。
さ、さあ正宗! 覚悟を決めろ!
緊張からか、口の中はカラカラに乾き、俺は拳を強く握りしめる。
「……それで、何の用?」
優希はけだるそうにしながらそう話す。
普段の俺だったら、優希の様子が違うことに気づいたはずだけど、この時の俺はテンパっていて、とてもそんなことに気づく余裕もなかった。
「あ、そ、その、俺……!」
「……早く言って」
面倒臭いと言わんばかりに、俺ではなく傍に生えている木を眺めながら催促する。
「俺……! 優希のことが好きだ!」
言えた! 言えたぞ!
俺は優希に告白したんだ!
その事実に、俺の心は歓喜に震える。
これで俺は、あれ程想い焦がれていた優希と恋人同士になれるんだ! そう信じて疑わなかった。
だけど。
「……は? バカなこと言わないでよ」
「…………………………へ?」
返ってきたのは、残酷な言葉だった。
「正宗くんが私のことが好き? それで?」
「え? え? だ、だから俺は優希が好きで……」
「はあ……それはさっき聞いた」
優希の予想外の反応に俺は訳が分からず、困惑してオロオロする。
だが、優希は深く溜息を吐くと。
「だから、正宗くんは何がしたいの?」
「え? な、なにがって、お、俺は優希とその、付き合いたい、って……」
俺はどうしていいか分からず、尻すぼみに俺の想いを告げる。
「……なんで私が正宗くんと付き合わなきゃいけないの?」
「な、なんでって……」
「大体、私は正宗くんなんて好きでもなんでもないし」
そう言うと、優希は踵を返して立ち去ろうとして、だから。
「ま、待ってよ! ど、どうして!?」
「どうして? おめでたい頭してるのね……」
呼び止める俺に、優希は額を押さえてかぶりを振った。
「この際だからハッキリ言っておく。私はずっと、あなたが鬱陶しいと思っていたの」
「っ!?」
優希の口から出た言葉に、俺は言葉を失う。
「え? いや、だって俺達は幼馴染で? え? え?」
「ふう……それはあなたが勝手に思っていたんでしょ?」
え? 俺、優希と幼馴染じゃなかったの? なんで?
「私には正宗くんは邪魔な存在でしかなかった。大体、私と正宗くんで釣り合うと思ってるの? なんの取り柄もなく、容姿だって人並み。あの環奈さんがあなたの傍にいることだって不思議で仕方ないくらい。多分、環奈さんは趣味が悪いんでしょうね」
「あ……」
「本当に、勘違いも甚だしい。せっかく中学ではあなたとクラスも離れて喜んでいたのに、三年になった途端こんな真似するなんて……周りに勘違いされたらどうするのよ……」
「……………………………」
「とにかく、金輪際私に近づかないで。じゃあね……おバカな“エセ幼馴染”さん」
そう言うと、今度こそ優希はその場から去っていった。
そして。
「ああああああああああああああ!?」
俺はその場で頭を抱え、意識を失った。
お読みいただき、ありがとうございました!
次話は22~23時の間に投稿予定です!
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