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第58話 堀口正宗①

ご覧いただき、ありがとうございます!

 俺には幼馴染が二人いる。


 坂崎環奈と、坂口優希。


 優希と知り合ったのは、幼稚園の年長組の時。


 転勤族の父親の都合で俺達のいる幼稚園にやってきた時のことを今でも鮮明に覚えている。


 光り輝く金色の髪に透き通るような水色の瞳。


 俺はそれをとても綺麗だと思って、ずっと釘付けになっていた。


「えへへ、僕は堀口政宗、よろしく!」

「私は坂崎環奈!」

「……坂口優希」


 俺と環奈は早速優希に自己紹介すると、優希は恥ずかしいのか、おずおずと上目遣いで自分の名前を告げる。


「へえー、“坂口”だったら、僕と環奈ちゃんの名字を半分こずつしたみたいだね!」

「あ! ホントだ!」


 そんなことを言いながらはしゃぐ俺と環奈を、優希は訝し気に見つめる。


「? どうしたの?」

「……別に」


 そう言って、優希はプイ、と顔を背けた。


 まるで俺や環奈を拒絶するかのように。


 ——それが、俺達と優希との出逢いだった。


 ◇


「ねえねえ! 僕達と一緒に遊ぼうよ!」

「……あっち行って」


 それからというもの、俺はしつこいくらい優希を構うけど、優希はそっけない態度で相手にしてくれない。


「もー。まーくん、優希は放っておいて、向こうのブランコで遊ぼうよ!」


 しびれを切らした環奈が俺の腕を引っ張る。


「環奈ちゃんもそんなこと言わないの! ねえ、優希ちゃん!」

「……やだ」


 そう言い残し、優希はすぐにどっか行ってしまう。


「ほらあ、優希は私達のこと嫌いなんだよ!」

「う、うん……」


 そんなことを繰り返しながら、俺達は幼稚園を卒業し、小学校に入学する。


 小学校では環奈と優希と同じクラスになり、俺は喜んだものだ。


 そして。


「なあなあ優希、僕達と鬼ごっこしよう!」

「……仕方ないから正宗くんだけとだったら、遊んであげてもいい」

「ちょっと! 私だってまーくんと遊びたいんだから!」


 あれから優希も変化し、いつしか一緒に遊ぶようにまでになった。

 とはいえ、俺がしつこく絡んでたから、優希の奴は渋々といった様子だったし、環奈とは相変わらず仲が悪いままだったけど。


 それから小学校でも上の学年に上がっていくにつれ、優希の日本人離れした容姿と誰に対してもそんな態度……いや、他の奴にはもっとひどかったかな、そんな感じだったから、同級生からよくはいじめられていた。


 ……まあ、男子の場合は優希が可愛いからちょっかい出してた、っていうのが正しいかもしれない。


 そんな小学五年生のある日。


 優希の机が、悪意に満ちた文字の羅列で埋め尽くされていた。


『ブス』

『死ね』

『二度と学校に来るな』


「こんなくだらないことしたの、誰よ!」


 その机を見た環奈が教室中に響くほどの大きな声で叫ぶ。


 すると、クラスメイトの何人かが目を逸らした。


 だから。


「イテッ!?」

「キャッ!?」


 俺はそっと近づいて、ソイツ等を後ろから思い切り蹴飛ばしてやった。


「正宗! 何すんだよ!」

「そ、そうよ!」

「は? なんで蹴られたか分からないの? ソレ、本気で言ってる?」


 俺が皮肉を込めてそう言ってやると、男子は気まずそうにし、女子は逆ギレする。


「な、何よ! だからって蹴ってもいいって思ってるの!」

「は? お前バカ。やっぱりお前がやったんじゃないかよ!」

「え!?」


 俺の指摘に女子が狼狽える。


「で、言うことがあるんじゃないの?」


 俺はこんな真似をしたクラスメイトを睨みつけると。


「ウッセーバカ!」

「わ!?」


 クラスメイトの男子が逆ギレして殴りかかってきたので俺は驚いて尻もちをつく。


 すると。


「ふげっ!?」

「まーくんに手を出すな! バカ!」


 怒り狂った環奈の投げつけた筆箱が、その男子の顔面にモロに当たった。


「う、うわあああああん!」

「フン! 泣くくらいなら、初めからこんな真似しなきゃいいのよ!」


 号泣する男子を尻目に、環奈は一瞥した後、他のクラスメイトを睨む。

 すると、クラスメイト達はもはや何も言えずに俯いた。


 そういえばこの時の環奈、男勝りでケンカも強かったもんなあ……。


「ごめん環奈、ありがとう」

「あ、ううん、お礼なんていいよ!」


 そう言って、恥ずかしそうにしながら環奈が手をわたわたさせたのが印象的だった。


 で、当の優希はというと、そんなことお構いなしに、落書きされたままの机に普通に座っていた。

 まるでこんなイタズラ、屁とも思ってないみたいに。


 その時の俺は、なぜだかそんな優希をカッコイイと思って、じい、と見つめていたのを覚えている。


「……何?」

「え、あ……そ、その机、綺麗にしようよ」

「……別にいい」


 そう言って、優希はプイ、とそっぽを向いた。


「ちょっと! まーくんが綺麗にしようって言ってるんだから、そうしようよ!」

「……環奈さんには関係ない」

「ムキー! 何よ!」


 怒り狂う環奈に苦笑しつつも、俺はロッカーから雑巾を取り出すと、水道で雑巾に水を含ませ。


「「…………………………」」


 二人の横で、俺は優希の机の落書きを一生懸命こすって落としていた。


「……おせっかい」

「かもね」


 少し恥ずかしそうにそう呟く優希に、俺もニカッと笑いながら返事した。


 ◇


 それからは、環奈が睨みを効かせていることもあって、優希に対するいじめは目に見えてなくなり、その代わり、今度は優希をあからさまに無視するようになった。


 まあ、元々優希もクラスメイト達を相手にしてなかったこともあって、特に問題にはならなかったんだけど。


 そして、俺達三人はまた一緒に同じ中学校へと進学する。


 今度は俺と環奈は同じクラスで、優希だけが別のクラスになった。


 そうなると、元々積極的に話をしない優希だということと、俺も慣れない中学生活ってこともあって、あまり優希と会話する機会も少なくなった。


 それでも、優希のことは気がかりで、俺と環奈はちょくちょく様子を見に行ったりしてたんだけど。


 そして、この頃になると優希の容姿はさらに磨きがかかり、中学校のほとんどの生徒が、優希のその美しさに見惚れていた。


 ……それは、気づけばこの俺も。


 この時の俺は姉ちゃんが注いでくれた愛情もあって、自分のことが分かってなくて、俺は愛されてもいいんだって勘違いしちゃっていて、だから、優希を好きになっても不釣り合いだなんてこれっぽっちも思っていなかった。


 それから、俺の中にある優希への想いは膨らむばかりで、用もないのに優希のクラスを覗きに行くようになって。


 あの頃、よく環奈には引き留められていたなあ。「優希のところに行かないで」って。


 ……うん。環奈には分かっていたのかもしれない。


 俺が、壊れてしまうことを。

お読みいただき、ありがとうございました!


ちょっと過去話が長いのと、その次も一気に行きたいので、今日は21~22時の間に過去話の後編、そして、22~23時の間にもう一話投稿します!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、ブクマ、評価、感想をよろしくお願いします!

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