第53話
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「まーくん、おはよ!」
「おう、はよ」
文化祭が終わった次の日、今日も環奈が元気に迎えに来てくれた。
昨日のことがあるからちょっと気まずいけど、それでもこうやって何もなかったかのように環奈が接してくれている。
環奈って、本当に優しい奴だよな。
……おっと、勘違いしないようにしないと。
「む。環奈、おはよう」
「あ、羽弥さんおはよー!」
姉ちゃんもリビングから出て来て、環奈といつものようにあいさつを交わす。
「さて、んじゃ行くか」
「うん!」
「うむ」
「「え?」」
俺と環奈は思わず姉ちゃんを見たあと、お互い目を見合わせる。
「何だ? 私も一緒に家を出るだけだ」
「ええと……姉ちゃんって今日の授業、朝イチからだっけ?」
「いいや、授業は二コマ目からだ」
「「はい!?」」
や、だったらまだ家を出る必要なくね?
「じゃ、じゃあ朝早くから何か用事でもあるの?」
「いや、ない」
「じゃあ何で!?」
「決まっている。少しでも正宗と一緒にいるためだ」
「「はああああああ!?」」
姉ちゃんいきなり何言ってるの!?
「や、姉ちゃん、俺と一緒にって、学校にまでついて来る気!?」
「? そうだぞ?」
「「はああああああ!?」」
ホント姉ちゃん一体どうしたの!?
「とにかく、私は正宗達と一緒に行く! これは決定事項だ!」
そう言って姉ちゃんは腕組みし、フンス、と仁王立ちした。
ダメだ……こうなったら姉ちゃんは絶対に折れねえ……。
「な、なあ環奈……」
俺は環奈に相談しようと声を掛けようとして。
「……そう。羽弥さんも本気、ってことね」
「環奈さん?」
「ええいいわ。羽弥さんも一緒で」
「環奈さん!?」
オイオイ!? なんで勝手に決めるの!? 俺の意見は!?
「うむ、話もまとまったところで行こうじゃないか!」
姉ちゃんが靴を履き、嬉しそうに玄関を開ける。
ハア……まあ、しょうがねえか……。
◇
「お、おはようございます!」
いつもの通学路、いつものようにハルさんに出逢うと、ハルさんは俺のところまで大急ぎで駆け寄ってきた。
「ハ、ハルさん、そんなに慌てなくても」
「あ、す、すいません……」
「あ、ああいえ、そんな意味で言ったわけじゃ……」
俺とハルさんの間に微妙な空気が流れる。
……そりゃそうだよな。
あの時、俺はハルさんの前でみっともなく吐いて、おまけにハルさんに対してあんな態度を取って。
全く、俺は……。
「あ、あはは! 昨日はご心配おかけしました!」
「え、あ、ええ……」
俺は少しでもこの微妙な空気を変えたくて、ハルさんに余計な心配をかけたくなくて、わざと明るく振舞う。
「いやー、たまーにああいうことがあるんですよねー。それより、服とか汚しちゃってスイマセン。本当に弁償し……「正宗くん」」
ハルさんが真剣な表情で俺の言葉を止め、どこまでも透き通っていて、何もかも見透かしているかのような、そんな瞳で俺を見つめる。
そして。
「大丈夫、ですよ」
ハルさんはただ、柔らかな表情で微笑んだ。
「あ……」
俺はそれこそ一瞬で、ハルさんに目を奪われてしまった。
「まーくん!」
「正宗!」
「え……は? え?」
環奈と姉ちゃんに大声で呼びかけられ、我に返る。
「ふふ」
そして、そんな様子の俺を見て、ハルさんが笑った。
か、可愛い……!
「むう……やはりハルが最大の敵か……!」
「絶対……絶対負けないんだから!」
で、二人はなんでそんな不穏な発言をしてるんだ?
「さて、それじゃ私も大学に行きますね。羽弥、行きましょ?」
「へ? あ、いや、私は正宗と……「行きますよ」……むう、分かった……」
まだなお俺について来ようとする姉ちゃんを、笑顔ながらも圧倒的なプレッシャーでハルさんが念を押すと、渋々姉ちゃんが折れた。
つかハルさん、あの姉ちゃんよりも上だなんて……恐るべし。
「じゃ、じゃあハルさん、またステラで!」
「ええ」
「ま、正宗! 私もステラに行くぞ! 行くからな!」
「なんで!?」
俺と環奈は、ハルさんと、ハルさんに無理やり引っ張られる姉ちゃんを、手を振って見送った。
「……行くか」
「あ、あはは……そだね」
「「はあ……」」
俺と環奈は盛大に溜息を吐いた。
だけど……ハルさん、ありがとう。
◇
「うーす」
俺達は教室に入って自分の席に座ると。
「よう堀口! 早速だけど明後日土曜日の文化祭の打ち上げだけどさ……」
佐々木が待ってましたとばかりに絡んできて、文化祭の打ち上げの話をし始める。
すると。
「デュフフフ……拙者の酒池肉林イベ、しっかりと計画を練って成功に導き……ゲボア!?」
「まだ言うか!」
長岡がいやらしい笑みを浮かべながらそんなことをのたまいだすと、どこからともなくやってきた山川が、強烈なボディーブローをかました。
「せ、世界を獲れるでござる……ガク」
「「…………………………」」
長岡よ、安らかに眠れ。
——キーンコーン。
お、始業のチャイムだ。
「よし、んじゃ昼休みにでも打ち合わせしよーぜ!」
「おう」
「デュフフフ、了解でござる」
そう言って、俺達は各々自分の席へと戻る。
そして。
「よーし、おはよう」
いつものように担任の桐山センセが眠そうな顔で入って来て……。
「わ、誰!?」
「転校生?」
「ヤベ、超可愛くない?」
桐山センセの後に続いて入ってきた女の子にクラス中が注目し、そして、教室内が騒がしくなる。
その転校生は、金髪ショートに水色の瞳、高く整った鼻筋、薄い唇を真一文字に結んでいた。
また、身長は一五〇センチを少し上回る程度だが、そのスタイルは圧倒的で、髪の色やその瞳とも相まって、とても日本人とは思えないほど美しい容姿をしていた。
そして、俺はその転校生を知っている。
それは。
「優希……どうして……」
俺のもう一人の幼馴染……“坂口優希”だった。
お読みいただき、ありがとうございました!
今回から新章突入しました!
この章では正宗の過去、そしてそれをヒロイン達の献身で乗り越えていく姿を描いていきます!
お楽しみに!
次話は今日の夜投稿予定です!
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