表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/108

第50話

ご覧いただき、ありがとうございます!

「っ!? 正宗くん!?」

「ウ……オエエエエエエエエ!?」


 俺はこみ上げてきた胃の中の物を止めることができず、その場でうずくまって吐いてしまった。


 ハ、ハルさんにかかったりしてないだろうか……。


 ああ、チクショウ……あれからもう二年も経ってるのに、まだこんな……!


「ま、正宗くん! 正宗くん!」


 ハルさんが顔面蒼白になりながら、俺の背中をさすってくれている。


「ハ、ハルさん……そ、その、汚れ……オエエエエエエ……!」

「正宗くん!」


 あ、ああ、ダメだ、止まんねえ。

 と、とにかくハルさんを俺から離れてもらわないとハルさんにかかっちまう。


「ハルさん、汚れちゃう、よ……離れて……」

「いいから! そんなことはいいですから!」


 そう言うと、ハルさんは必死に俺の背中をさすり、俺の顔を泣きそうな表情で見つめる。


「ウ……グウウウウウ!」


 チクショウ! なんで……なんで止まんねえんだよ!


 ほ、ほら見ろ……ハルさんの服も汚れちまって……!


「ハルさん……ふ、服、すんません……その、後で……」

「だから! そんなことより正宗くんが……正宗くんがあっ!」

「お、俺は、大丈夫……しばらくしたら治まりますから……」


 俺は心配するハルさんを手で払い除けるように遠ざける。


「ま、正宗くん……」


 と、とにかく落ち着くんだ……吐いた原因は、分かってるんだから。


 俺が余計なことさえ考えなければ、思い上がった感情さえ抱かなければ、すぐに治まるから。


 俺は目を瞑り、ゆっくりと深呼吸を繰り返す。


 その呼吸に合わせ、暴れていた俺の胃袋も落ち着きを取り戻し始める。


「…………………………ふう」


 ……うん。胃袋も、あれだけ激しく脈打っていた心臓も、ようやく落ち着いた。


「ハルさん、すいませんでした……もう、大丈夫です」


 俺はスックと立ち上がると、いまだ心配そうに俺を見つめるハルさんに微笑みかける。


「正宗くん……」

「あ、そうだ。服、汚しちゃってすいません。また弁償しますから……」

「正宗くん!」


 俺がまくしたてるように話をしていると、ハルさんに名前を強く呼ばれて遮られる。


「そんなことはどうでもいいんです! ただ……ただ、私は正宗くんが心配なんです……!」


 そう言ってハルさんが俺に近づいて来ようとする。


 だから。


「っ!?」

「はは、俺なら大丈夫っすから」


 俺はハルさんに腕を突き出して制止する。


 まるで、近寄るなと言わんばかりに。


「とにかく、その服は弁償します。それより、こんなことになっちゃってすいませんでした……今日のところはお開きにしましょうか」


 俺は少し強めの口調でそう言うと、空気を変えるために少しおどけながら微笑んだ。


「……はい」


 ハルさんは俺を悲しそうな瞳で見つめた後、顔を俯けたまま屋上から去っていった。


「はあ……」


 屋上の扉が閉められ、ハルさんの姿が完全に見えなくなると、俺は力なく溜息を吐いた。


「……俺、何やってんだよ……アイツに言われたこと、忘れたのかよ……」


 ああ……また勘違いするところだった。


 ハルさんだって、環奈だって……俺なんかが好きになっても、絶対迷惑だって……俺のことなんか気持ち悪いって……そう思ってるって、分かってたはずなのに……。


 ◇


 フォークダンスの音楽も流れなくなり、グラウンドでは撤収作業が始まっている。


 もちろんその中には環奈も。


 ……俺も、手伝いに行くかな。


 俺は屋上の扉に鍵をかけ、用務員のオッチャンに返す。


「お! ずいぶんゴキゲンな顔だな! さては……女の子だな!」

「はは! 分かっちゃいます?」


 俺が頭を掻きながら照れ笑いする仕草をすると、オッチャンもニヨニヨしながら俺をいじる。


 うん……もう大丈夫だ。


 俺は笑顔でオッチャンと別れ、グラウンドへと駆け足で急ぐ。


 お、いたいた。


「環奈、悪い。遅くなっちまったな」

「あ! もー、まーくんどこに行って……」


 そう謝りを入れたところで、小言を言おうとした環奈が急に表情を変える。


「まーくん……何があったの?」

「へ? 何がって? 何もねーけど?」


 俺はわざととぼけるけど、環奈はズイ、と詰め寄る。


「嘘だよ」


 どうやら環奈は俺の言葉を信用してはくれないらしい。


「んなことねーって。あるとしたら、ラストまで暇だったってことくらい……」

「まーくん」


 環奈が俺の頬を両手でギュ、と挟む。


「じゃあなんでそんな悲しそうな顔してるの? なんで今にも泣きだしそうなの?」

「そ、そんなこと……」

「……言いたくなければ言わなくてもいい。だけど、これだけは忘れないで」


 そう言うと、環奈はジッと俺を見つめる。


 その瞳は、透き通っていて、だけど、すごく力強くて……俺の心に深く入り込んでくる、そんな輝きを持っていた。


 俺はその瞳を見続けることができなくて、サッと目を逸らしてしまう。


「私は、いつだって、どんな時だって、まーくんの味方だよ」


 そして、ニコリ、と微笑んだ。


 何だよソレ。


 何でそんな顔するんだよ。


 俺は……俺は、もう勘違いしないって決めたんだ……!


「あっ、まーくん……」


 そう心の中で呟くと、そんな環奈を払い除けるかのようにその場を離れ、後片付けに没頭した。

お読みいただき、ありがとうございました!


次話は明日の朝投稿予定です!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、ブクマ、評価、感想をよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] それにしても・・・ 環奈ちゃんとお姉ちゃんの2人の隙間を縫って入り込んだ上に、正宗君を傷付けた何者かがいるって事が確定と。 吐く位のトラウマって、前を向くとかそんなレベルの傷じゃないのでは…
[良い点] これの理由が知りたい!!
[気になる点] これほどのものならもっと前に出てもおかしくないと思いますが.....
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ