第47話
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「だ、だああああ……働きづめじゃねえか……」
結局、朝から続いた行列は夕方になるまで途切れることはなく、俺達は全員その対応に追われた。
本当だったらシフトで自由時間があるはずだけど、そんなことも言ってられない程の盛況ぶりだったので、みんな昼休憩とトイレ休憩だけ手早く取るだけだった。
「はあ……まーくんとの文化祭巡りが……」
「ふう……正宗と一緒に文化祭を楽しむ予定だったのに……」
ガックリとうなだれる環奈と姉ちゃんを眺めながら、俺とハルさんは苦笑する。
「……ハルはいいよな。正宗と昨日のうちに一緒に文化祭巡りをしたんだから……うらやましい……」
「うふふ……そういう意味ではラッキーでした」
そう言って、ハルさんはペロッと悪戯っぽく舌を出した。
その仕草、最高に可愛い。
「なによー、羽弥さんだって昨日はまーくんを独り占めしたんだからいいじゃん!」
「む、あれは客として当然の権利だ」
環奈が机に突っ伏しながら姉ちゃんをジト目で睨むが、姉ちゃんは何食わぬ顔で切り返す。
いや姉ちゃん、そんなことを無駄に凛とした表情で言われても。
「とにかく……あと五分で文化祭も終了、かあ……」
そう考えると、なかなか感慨深いものがある。
今年の文化祭は色々なことがあったけど、みんなで作った『執事喫茶』は大盛況のまま終わったし、クラスメイト達だけじゃなくてハルさんや姉ちゃん、店長も助けてくれて……。
うん、俺、この文化祭は一生忘れないと思う。
「ナニナニまーくん、まるでもう「終わったー」みたいな顔して」
見ると、環奈がにしし、と笑いながら俺の顔を覗き見ていた。
「ん? いや、さ……チョット胸にきたっていうか……」
「……ねえ、まーくん……ひょっとして昨日の約束忘れてるってこと、ないよね……?」
すると環奈が、不安そうな表情で俺を見る。
「忘れる訳ねーだろ。ただ、あれは文化祭じゃなくて“後夜祭”だからな」
だから、俺の中では別物なのだ。
「わ、忘れてなかったらいいんだ……えへへ」
「ええと、失礼ですが“後夜祭”って?」
俺達の会話を聞いていたハルさんが不思議そうな顔をして尋ねる。
「ああ……“後夜祭”っていうのは、文化祭の後の打ち上げみたいなものだ……一般参加が可能な文化祭と違って、“後夜祭”は生徒しか参加できない……くそ」
ハルさんに説明しながら、姉ちゃんは悔しそうに唇を噛む。
……姉ちゃんやハルさんを含めての、文化祭なんだけどな。
「だったらさ……後夜祭とは別に、文化祭の打ち上げをみんなでしようよ。俺だって、この面子でやり遂げたんだって証が欲しいし」
俺は環奈やハルさん、姉ちゃん、そしてクラスのみんなを見ながら、そう呟く。
すると。
「まーくん……うん、そうだね! しようしよう!」
「お? なんだ、打ち上げの話? 当然するに決まってんだろ!」
「デュフフフ……隷属執事喫茶の夢が果たせなかった今、打ち上げという名の酒池肉林でリベンジするでござ……フゲエ!?」
「全く……アンタ、全っ然懲りてないじゃない!」
俺の言葉を耳聡く聞いていたクラスメイト達が、打ち上げの話で盛り上がる。
や、ホント、みんなノリいいな!
「ということでハルさんと姉ちゃんも、打ち上げに参加決定な!」
「あ……は、はい!」
「うむ……ぜひ参加させてくれ!」
ハルさんと姉ちゃんも嬉しそうな表情を浮かべる。
うん、良かった。
「つーことで、打ち上げやるなら今度の土曜日でどうだ? それならみんな来やすいだろうしさ!」
「お、いいじゃん佐々木! たまにはいいこと言うな!」
「“たまに”は余計だ!」
俺達は文化祭をやり遂げた興奮に酔いながら、打ち上げについて色々と話し合った。
◇
「あ! 環奈さん! センパーイ! コッチコッチ!」
クラスメイト達が教室の片づけをしている中、俺と環奈は体育館脇の用具室前に来ていた。
そこには既に佐山が来ていて、俺達に向かって手を振っていた。
「えへへー! センパイも手伝ってくれるんですか?」
「おう、こういった力仕事は任せろ」
そう、後夜祭の運営も生徒会の仕事なので、当然キャンプファイヤーの準備も環奈と佐山が担当することになるんだが、船田と松木は昨日、姉ちゃんが手を回してくれたおかげで教頭先生にあえなく御用となり、文化祭が終わって沙汰が出るまで謹慎中なのだ。
そうなると、当然男手が足りないわけで、俺が助っ人として名乗り出たわけだ。
つーか俺、もはや半分以上生徒会の人間と言っても過言じゃねーな。
「じゃあまーくん、よろしくね!」
「おう」
俺はキャンプファイヤーに放り込む薪を台車に積み、グラウンドへと運んでいく。
グラウンドの中央には、既に業者が組んでくれた櫓があり、先生達がその傍に控えていた。
「先生、薪を持って来たっす」
「おお、お疲れさん。それにしてもお前達、大変だったな……」
先生達が、俺達にねぎらいの言葉を掛けてくれる。
うん、昨日を含めたこれまでの件を知ったんだろうな。
まあ、教頭先生が出張った時点で、知れ渡っていても当然か。
「だけど、まーくんが全部助けてくれました!」
「マテ。俺は大したことしてねーだろうが」
全く……一番がんばったのは環奈だろうが。
「ハハハ! 相変わらずお前達は仲が良いな」
や、幼馴染だから、仲が良くて当然……でもないか。
……まあ、環奈とは仲が良いのは間違いないけど。
でも。
俺は、つい余計なことを考えてしまい、陰鬱な気持ちになる。
すると。
「まーくん……」
環奈が俺の手を握り、心配そうな表情を浮かべる。
おっと、余計な気を遣わせちまった、な……。
「……大丈夫だよ」
俺は環奈の頭を少し強引に撫でる。
まるで自分の中にある黒い感情を掻き消すように。
自分の中にある想いを、掻き消すように。
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次話は今日の夜投稿予定です!
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