第45話
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「お、そろそろ終了だな」
チラリ、と時計を見ると、あと五分で終了時刻の夕方の四時になるところだった。
さあ、あとひと踏ん張りだ。
そして。
「「「「「終わったー!」」」」」」
文化祭一日目が無事終了し、みんなが歓声を上げる。
「いやーしかし、こんなにお客さんが来るなんて……」
ホント、ケーキも途中で足らなくなって、無理やり店長に追加で持って来てもらったくらいだからなあ……。
オマケに大量のチケットを消費して居座る客が若干二名いるわ、妨害しようとした輩がこれまた二名いるわ……。
などと物思いにふけっていると。
「まーくんお疲れ!」
「ふふ、正宗くんお疲れ様です」
環奈とハルさんから、二人同時に肩をポン、と叩かれた。
「二人ともお疲れ様!」
いやホント、この二人は今日一日大活躍だったからなあ。
ハルさんはお客さん(女性)の人気が高すぎて、常に指名を受け続けてたし、それにステラの経験を活かしてホールでみんなのフォローまでしてくれてたし。
環奈もハルさん程じゃないにしろ、それでもお客さん(男性)の人気が高くて指名も多く受けつつ、裏方としても色々と差配して、結局交替もできなかったもんなあ……。
や、本当に二人には頭が上がらない。
「明日の最終日も今日みたいに忙しいのかなあ……」
「「あはは……」」
うーん、明日のことを考えると、ちょっと憂鬱になるのは仕方ないと思う。
ホラ、ハルさんと環奈も苦笑いしてるし。
「ねえねえ! 杉山くんすごく人気だったね!」
「ホントホント! だって、お客さんの数も、その、青山さんの次に多くて二位だもんね!」
「はは、ありがとう」
おおう、杉山が女子に囲まれてわちゃわちゃしてる。
や、イケメンはモテることで。
……ひがんでないよ?
「さて、それじゃ今日はもう解散にしよっか! みんな、明日もよろしくね!」
「「「「「はーい!」」」」」
うむうむ、うちのクラスは団結力がすごいな!
これは今回の文化祭、売り上げ一位も狙えるんじゃないか!?
などと考えていると、みんなが帰り支度を始め、次々と帰っていく。
俺? 俺はまだ帰らんよ。
だって。
「ええと、店長がケーキを搬入してくれるのって、夜七時過ぎですよね?」
「はい、そう言ってました」
うーん、じゃああと二時間以上、ここで待ってないとだなあ。
「ケーキの受け取りは俺がやっとくから、二人とも今日は帰ったほうがいいよ」
「「え!?」」
そう言うと、二人が驚いた表情を見せた。何で?
「いや、二人とも今日は本当に大変だったし、明日に疲れが残ってるといけないから」
うんうん、早くメシ食って風呂入って寝て、明日に備えてもらわないと。
絶対明日も忙しくなるしなあ。
「「だ、大丈夫だから(ですから)!」」
お、おおう……二人が口を揃えてのアピールがすごいな。
「ダメだって。二人とも、絶対今日は疲れてるはずなんだから」
「だ、大丈夫だもん!」
「そうです! それに、疲れてるというのなら、正宗くんだって同じです!」
「や、俺は二人みたいに疲れるほど働いてないから……」
「「嘘だよ(です)!」」
二人はさらに身体をずい、と近づけて迫り、俺の言葉を否定する。
「まーくんこそ、いっつもみんなのフォローばっかりしてたじゃん!」
「そうです! みなさんの様子を常に気をかけて、トラブルがあった場合も真っ先に対処して……」
「そうそう! あの時なんか……!」
二人はどんどんエスカレートし、やたらと俺のことを褒めちぎってくれるんだけど、聞かされる俺としては恥ずかしいやらむずがゆいやら……とにかく、いたたまれないぞ。
「あーもう! 分かったよ! じゃあこのまま三人で店長を待とう! ただし、絶対に疲れるようなことはしない! いいな!」
「うん!」
「はい!」
ハア……この二人、意外と頑固だし似た者同士かも……。
◇
「ヤ、ヤンバルクイナ!」
「な、な……納豆!」
「ウ……ウーバー〇ーツです!」
「ツ、ツンドラ!」
「ブブー! それはさっき言いましたー!」
——ガララ。
「みんなお待たせ! ケーキ二百個、持って来たわよ! ……って、アナタ達何やってるの?」
「「「罰ゲームです」」」
店長を待っている間、暇つぶしに俺達はしりとりをすることになり、んで、ただするだけじゃ面白くないからって、負けた人は罰ゲームをするってことにしたんだけど……。
……結局俺が四戦全敗で、手と膝をついて四つん這いになりながら、ずっと二人が俺の背中に腰掛けているという……。
ヤバイ、俺の腕と脚がプルプルしてきた。
でもコレ、絶対罰ゲームじゃなくてご褒美だよね。
「つまり、正宗クンの一人勝ちってこと?」
「「違います」」
あ、でも、やっぱり店長もそう思いますよね?
「ハイハイ、それじゃコレを冷蔵庫にしまってちょうだい」
「「「はい」」」
俺達は店長からケーキを受け取り、冷蔵庫にしまう。
しかし、元々は百個て言ってたのに、その倍用意してもらうことになって、本当に店長には申し訳ないことをしたな。
「ハイ、じゃあこれで納品完了! アナタ達、明日もがんばるのよ!」
「「「はい!」」」
もちろんがんばりますとも!
……まあその前に、姉ちゃんと佐山にチケット連続一〇枚は禁止だって言っておかないと。
「さて、それじゃ私は帰るわね!」
「「「はい! ありがとうございました!」」」
店長は手をヒラヒラさせて、教室を出て行った。
「うん、じゃあ俺達も帰ろうか」
「うん!」
「はい!」
そしてようやく俺達は帰路につく。
まずは一番近いハルさんを送り、その後俺と環奈は一緒に帰っているんだけど。
「ねえ、まーくん」
「ん?」
「そ、その、明日……」
「明日? 明日がどうかしたか?」
ハテ? 明日がんばろうってことかな。
「あ、明日! 後夜祭なんだけど、その! い、一緒に……」
後夜祭後夜祭…………………………あ。
「ア、アレか……」
そうだった……うちの学校、後夜祭にキャンプファイヤーのフォークダンスイベがあるんだった……。
や、カップルにとってはむしろメインイベといっても過言ではないんだけど、お独り様にとっては血の涙を流しながらただただ遠巻きに眺めてるだけという、あの地獄のイベントが。
「そ、それで、わ、私と一緒に……!」
「え、ええと環奈、その、俺なんかと踊ったりしたら、ヘタしたら他の奴等に勘違いされたりするぞ?」
「い、いいの! ……そ、それに、そのほうがむしろ好都合というか……(ゴニョゴニョ)」
さ、最後のほうが聞き取れなかったけど、ま、まあ俺もこのままだとただボーッと眺めてるだけになりそうだし……。
「お、俺でよかったらその、いいぞ?」
「! ホ、ホントに!」
「お、おう」
俺がそう返事すると、環奈が今日一番の、最高の笑顔を見せる。
……つーか、環奈のくせに何でそんな可愛い顔するんだよ。
「まーくんありがとう!」
「お、おう……」
俺は隣でこれ以上ないくらい嬉しそうにする環奈に、胸がチクリ、と痛みながらも、それを悟られまいと素っ気ない態度で必死に隠して家に帰った。
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次話は今日の夜投稿予定です!
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