第30話 青山晴⑤
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■青山晴視点
「そう……じゃあ、ちょっとキツイけど、ハルちゃんお願いできる?」
「任せてください!」
私は店長に正宗くんも休みであることを伝え、今日のアルバイトに入る。
「いらっしゃいませ!」
そして、私は今日もステラにお越しいただくお客様に笑顔で応対する。
「あら、今日も素敵な笑顔ねー!」
「ありがとうございます」
常連のお客様が、私の笑顔を褒めてくれる。
良かった、上手に笑えているみたい。
これなら、この後も大丈夫。
それから私は、一生懸命仕事に取り組んだ。
彼がいないことに、気づかないようにするために。
彼がいないことが、マイナスになったりしないようにするために。
……どれくらい時間が経っただろう。
私はチラリ、と時計を見る。
一心不乱にアルバイトの業務をこなしていたため気づかなかったけど、いつの間にか夜の七時を少し過ぎており、お客様もイートインにいらっしゃるお一人だけだった。
「はあ……」
この溜息は決して仕事が忙しかったからじゃない。
これは、正宗くんに逢えないから。
正宗くんが一緒にいれば、どんなに大変でも、どんなトラブルがあっても、絶対に笑顔でいられる自信がある。幸せな気持ちでいられる確信がある。
だけど。
そんな彼は、今日は用事のためにいない。
そして、幼馴染の環奈さんも。
……多分、正宗くんは環奈さんのために、色々とがんばっているんだろう。
私はそんな彼だから、そんな優しい正宗くんだから、こんなに惹かれたんだと思う。
でも……やっぱり彼のいないステラは寂しい。
つい最近まで、ステラのアルバイトは私一人だったのに。
昔から私はひとりぼっちだったのに。
なのに。
正宗くん……あなたがたった一日いないだけで、たった一日逢えないだけで、私はこんなにも寂しい。つらい。苦しい。
だから。
「正宗くん、明日は来てくれますか……?」
あなたのいないショーケースの裏で、ついそんなことを呟いてしまう。お願いしてしまう。
——カラン。
お客様? こんな時間に?
不思議に思いながら、私はお店の入口へと視線を向ける。
すると。
「「すいません! 遅くなりました!」」
正宗くんと環奈さんが、二人揃って入口から入ってきた。
え? え? 今日は用事で来れないはずじゃ……。
なのに、どうして?
「あらあ? 二人とも、今日は休みだったんじゃないの?」
厨房から出てきたマスターが、キョトンとした表情で二人に尋ねる。
「は、はい、その用事も終わりましたんで、間に合えばバイトに入ろうかと」
「アラマア! それは助かるわ! もうお店閉めるところだったから、後片づけ大変だなって思ってたところなのよ!」
店長が嬉しそうに二人にそう話す。
「ふふ、今いらっしゃるお客様がお帰りになられたら、お片づけをしましょうか」
ああ、正宗くんに逢えただけで、自然と笑みがこぼれてしまう。
多分、今の私の顔を鏡で見たら、これ以上ないくらい、だらしなく映っているんでしょうね。
ところが。
「…………………………」
「え、ええと……正宗くん?」
「……え? あ、ああ、すいません……その……ハルさん、その笑顔は……」
「ええ!? へ、変な顔してましたか?」
「い、いえ! その、逆です……す、すごく魅力的で……」
「え? ………あ、あわわわわわわわわ!?」
まさか正宗くんから、そんな風に言ってもらえるなんて思ってなかった。
わ、私の顔、もっと変だと思っていたのですが……。
「ウフフ。ハルちゃんたら、今日一番の笑顔だったじゃない!」
「そ、そうでしょうか……」
「ええ、そうよ!」
いまいち自信がない私は、つい店長に聞き返してしまうけど、店長から返ってきたのは肯定の言葉と、豪快なサムズアップだった。
「……負けないから」
「はい?」
「私だって、明日からは毎日バイトに入れるんだから!」
環奈さんはそう高らかに宣言し、ビシッと私を指差した。
「ええと……ですが環奈さんは、生徒会があって不定期では……」
「私、生徒会辞めたんです!」
え、ええ? ど、どういうことでしょうか?
私は訳が分からず、思わず正宗くんを見ると、ウンウン、と頷いていた。
「ですから! 私も明日からバイトにフルで入りますから!」
どういうことかは後で正宗くんにお尋ねするとして……環奈さん、すごく良い表情をしています……。
それも、正宗くんが環奈さんを何かから救った……そういうことでしょう。
「はい。明日からもどうぞよろしくお願いしますね」
「ええ、もちろん!」
私と環奈さんは笑顔で握手を交わす。
だけど、お互いの視線は決して笑顔じゃなく、これから正宗くんをめぐってお互い譲らない……譲れない想いをぶつけ合う、そんな意思表明。
たった今日一日だけでこれなのだ。
もう、私には正宗くんなしだなんて考えられない。
だから。
「環奈さん……私、負けませんから」
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次話は明日の朝投稿予定です!
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