第106話
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「まーくん、おはよ!」
いよいよ生徒会長選挙当日の朝、環奈が俺の家に迎えに来た。
「ああ、おはよう!」
「えへへー、今日は私、頑張るからね!」
元気いっぱいの表情を見せる環奈。
もちろん俺は、今日もそんな幼馴染を全力でバックアップするだけだ。
「ふふ……環奈、おはよう」
「あ! 羽弥さん、おはようございます!」
「うむ! 結果を楽しみにしているぞ。なあに、あの学校において、環奈ほど生徒会長に相応しい者はいない。生徒会長の先輩として、この私が保証する」
「あ……はい!」
姉ちゃんに太鼓判を押されて嬉しかったのか、環奈が瞳を潤ませながらはにかんだ。
で、俺達三人は家を出て、途中まで一緒に向かうんだけど。
「ふふ、おはようございます」
「ハルさん! おはようございます!」
向こう側からハルさんがやって来て、元気に挨拶を交わした。
「環奈さん、今日は頑張ってくださいね!」
「はい! もちろんです!」
ハルさんと環奈が向き合いながら、お互いフンス! と気合いを入れるポーズを見せる。
「店長も、今日はお祝いをするって張り切ってましたよ!」
「「店長が!?」」
はは……いつも思うけど、うちの店長はオカマだけど男前なんだよなあ……。
「私も店長と一緒に準備して待っています! だから……」
「うん! 絶対に、吉報を届けますから!」
「はい! じゃあ羽弥、私達は行きますよ」
「むむ……も、もう少し……「駄目です。環奈さんにも心の準備とか、色々とあるんですから」……むむむむむ」
結局、姉ちゃんはハルさんい引きずられながら、大学へと向かった。
「あはは……羽弥さんはブレないね……」
「ま、まあ、ああ見えて実は結構気を遣うタイプではあるけどな」
「えへへ、知ってる」
そうして、俺と環奈は今度こそ学校へと向かった。
杉山と、決着をつけるために。
◇
「では、“杉山亮一”さん、お願いします」
一時間目の授業を生徒会長立候補者による最終演説の時間に充てられ、全校生徒が体育館に集まっている。
そして、舞台に上がった杉山による、最後の演説が始まろうとしていた。
「えー……今回、生徒会長に立候補しました、“杉山亮一”です。僕は、この学校をよりよくするため、三つのことをお約束します」
そう言うと、杉山は聞いている生徒達に向かって三本の指を突き立てて見せた。
「一つ目、校内のトイレを全てウォシュレット完備にするとともに、食堂など生徒達が快適に過ごせるようにするための改善をします!」
その言葉に、生徒達からどよめきが起こる。
杉山の奴、軽々しくそんなこと言ってるけど、そんなことを学校側が認めなかったらアウトだろ。できない公約掲げてるんじゃねーよ。
「デュフフ……杉山氏、生徒会長の座さえ奪ってしまえばよいという考えでござるな」
「……だろうな」
俺達はまた杉山へと視線を向ける。
「二つ目、部活動ごとに割り当てられている経費について、単純な大会成績や人数に縛られることなく、その活動の素晴らしさなどを公平、公正に総合的に判断して、再分配を行うよう配慮します!」
はは……この言葉だけを聞くと、弱小部やマイナーな部活からすれば希望が持てるかもしれないけど、実際は今回の投票結果に応じて便宜を図りながら差配するだけだよな?
「最後に三つ目、現在、アルバイトについては学校で認められているところですが、生徒会からもアルバイトをあっせんすることで、より好条件で安心なアルバイトができるように、バックアップしていきます!」
そして……これが俺達への嫌がらせってわけか。
生徒会であっせんするとか言いながら、コッチには自由に選ばせないようにするんだろ? 当然、ステラのバイトの求人は弾いた上で。
「以上、僕が生徒会長に選ばれた暁には三つの公約を必ず約束し、絶対に生徒の皆さんの学校生活をよりよいものにすると約束して、僕の演説を終わります」
杉山が深々と一礼し、自分の席へと戻る。
一応、買収されている部活動のキャプテン連中から拍手はあったみたいだけど、そもそも生徒会長選挙に興味がない連中ばかりだから、それもまばらだ。
そして……次はいよいよ、環奈の番。
環奈が席を立ち、舞台へと上がる。
俺は……無言で拳を突き上げた。
環奈を激励するために。
すると。
「っ! はは……!」
なんと、俺達のクラスの全員が、俺と同じように拳を突き上げた。
それを見て俺は、思わず口元を緩める。
それは環奈も同じで、俺達に向かってギュ、と小さくガッツポーズをして答えてくれた。
「……今回、生徒会長に立候補しました、“坂崎環奈”です」
生徒達が、環奈の言葉に耳を傾ける。
といっても、俺達のクラス以外は杉山の時と同じで、さして興味もあさそうにしていた。
「まず、私は最初、生徒会長に立候補するつもりはありませんでした」
すると、生徒達からほんのわずかにどよめきが起こる。
それもそうだ。生徒会長に立候補してるくせに、『立候補するつもりはなかった』なんて言われれば、じゃあなんで立候補してんだよってなるよな。
「生徒会って、本当に大変な仕事なんです。色々な学校行事の企画立案、準備、そして当日の進行管理。それだけじゃない。普段の生徒の皆さんの言葉に耳を傾けながら、必要なことは先生達と交渉して改善するんです。これらを、限られた少ない予算の中で」
はは、俺達からしたら、環奈の愚痴を聞かされてる気分だな。
「でも……それでも、私は生徒会長に立候補しました。だって、私は応援したいから。いつだって……誰にだって頑張る人の、背中を目一杯押してあげたいから」
そう言うと、環奈はチラリ、と俺を見た。
環奈……。
「私がそんな気持ちになったのは、私の周りにいる人達が、同じように私の背中を押してくれるからです。文化祭の時も、今回の生徒会長選挙でもそうでした。みんな、大変なことが分かっているのに、笑顔で背中を押してくれるんです。励ましてくれるんです。『頑張れ』って」
「「「「「…………………………」」」」」
「だから……私は、みんなの背中を笑顔で押してあげたい。『頑張れ』って、応援してあげたい。この学校にいる、みんなに。だから」
環奈は、すう、と息を吸うと。
「だから! みんなの背中を押すための資格を……勇気を、私にください! お願いします!」
そう宣言し、環奈が深々と頭を下げた。
すると。
――パチ。
――パチ……パチ……。
――パチパチパチパチパチパチパチパチ!
まばらに起こった拍手をきっかけとして、体育館の隅々まで……いや、外にまで聞こえるような大きな拍手が沸き起こった。
はは! どうだみんな! これが、俺の最高の幼馴染、“坂崎環奈”だ!
俺は、拍手を浴びながら頭を下げている環奈を眺めながら、誰にも負けないくらい強く手を叩き続けた。
お読みいただき、ありがとうございました!
環奈と杉山の演説合戦も終わり、とうとう投票、そして開票です!お楽しみに!
次回の更新は、予定通り10/17の日曜日です!
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