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第104話

ご覧いただき、ありがとうございます!

「坂崎環奈! 坂崎環奈を、よろしくお願いしまーす!」

 

 生徒会長選挙を明後日に控えた放課後、今日もクラスのみんなで呼びかけを行っている。

 

 例の投票用紙については長岡の策もあってバッチリ何とかなったし、選挙の当日、杉山が慌てふためく姿を想像しただけで笑いがこみ上げてくる。

 

「よろしくお願いしまーす!」

 

 はは……優希の奴も、頑張って声を出してるなあ……。

 

 思えば、環奈の選挙戦が始まってから、優希はいつも率先して選挙活動に協力してくれた。

 あの修学旅行で、あんなことがあったのに、だ……って、おっと、ビラがなくなっちまった。

 

 さすがに二日前ともなると、生徒達も受け取ってくれるようになったなあ。

 などと感慨深げにウンウン、と頷くと、俺はビラを取りに教室へと戻る……んだけど。

 

「「あ……」」

 

 俺と同じく、ビラがなくなった優希と鉢合わせをしてしまった。

 

「よ、よう……お前もビラなくなったのか?」

「あ、う、うん……」

 

 うう、ちょっと気まずいぞ。

 

「だ、だったら、お前の分のビラも、俺が取って来てやるよ」

 

 いたたまれない俺は、そんなことを提案してみるが。

 

「! だ、大丈夫! 自分で取りに行くから!」

「そ、そう……?」

 

 結局、二人で教室までビラを取りに行くことになった。

 

 そして。

 

「ええと……ホイ」

「あ、ありがとう……」

 

 段ボールからビラを取り出して渡すと、優希がおずおずと礼を言った。

 本当に、修学旅行の前後でこの変わりようは一体なんなんだよ……。

 

「さて、戻ろうぜ」

「う、うん……」

 

 俺と優希は、そのまま教室を出て戻ろうとするところで。

 

「……なあ」

 

 俺は、よせばいいのに優希を呼び止めた。

 

「ゆ……坂口さんは、どうしてこの生徒会長選挙で、こんなに手伝ってくれるんだ?」

「……どうして、って?」

 

 いや、質問に質問で返しちゃいけないんだぞ。

 だけど……うう、そんな顔されちまったら、そういうことも言えないなあ……。

 

「あ、いや……ホ、ホラ、坂口さんは俺達と仲悪いし、それに……あんなこと(・・・・・)があったし……」

「…………………………」

 

 そう言うと、優希はキュ、と唇を噛んで(うつむ)いてしまった……。

 

 しばらく、沈黙が続く。

 

 そして。

 

「私、ね……馬鹿だったの……」

 

 優希がそう、ポツリ、と呟く。

 

「私……中学の時は、今まで私のことをイジメてた奴まで手のひらを返してきて、チヤホヤされて、勘違いしてた。私は“特別”なんだって……私と釣り合うような人なんて、いないんだって……」

 

 その言葉を聞いた瞬間、あの日のことがフラッシュバックする。

 三人のおかげで乗り越えることができたけど、それでも……やっぱり心にくるなあ……。

 

「でね? 自分で手放してみて、私は知ったの。私は“特別”なんかじゃなかった。私が“特別”だと思えたのは、私のことを“特別”だって想ってくれた人がいたからだって」

「…………………………」

「……だけど、気づいた時には遅かった。私のことを“特別”だって想ってくれた人にとって、もう私は“特別”じゃなくなっていた。たとえ、その人が私の“特別”になったとしても……」

 

 はは……今さらかよ。

 だけど……もう俺は、優希は俺の“特別”なんかじゃない。

 

 俺の“特別”は、あの女性(ひと)なんだから。

 

「だからね? これは私なりのけじめ……ううん、違うわね……私が、勝手に想いを託した(・・・・・・)、ってところかな……」

「……どういう意味、だよ……」

「ふふ……だって環奈さんは、ずっと正宗くんのことが好きだったから。私と違って」

 

 そう言うと、優希がクスクスと笑う。

 コイツ……こんな表情するような奴だったっけ?

 

「それで……正宗くんは、誰を選ぶの?」

「うえ!?」

 

 突然そんなことを聞かれ、俺は思わず変な声を出してしまった。

 

「あ……その反応を見ると、もう決まっていたりするのかな……?」

「うぐう」

 

 チ、チクショウ! なんでそんなに鋭いんだよ!?

 

「ふふ……あなたが選んだのなら、間違いないわね……」

「…………………………」

 

 い、いや、三人共素晴らしい女性(ひと)なのは間違いないけど、それでも……俺は、あの女性(ひと)が一番好きなんだ。

 

「あーあ! 私も今度こそ、素敵な人を見つけるんだから! それも、正宗くんと同じくらい!」

「あ……」

 

 まるで吹っ切るかのように、優希は笑顔でそう言い放つ。

 でも、その瞳には薄っすらと涙が浮かんでいた。

 

「はは……まあ、“優希”は可愛いからな……」

「っ! あ……ああ……!」

「な、何だよ……幼馴染(・・・)なんだから、下の名前で呼んだっておかしくないだろ……」

「うん……うん……!」

「ホ、ホラ! 行くぞ!」

 

 俺は泣きじゃくってしまった優希を必死でなだめ、校門前に戻ってきた時には既に人もまばらになっていた。

 

 だけど。

 

「坂崎環奈を、よろしくお願いしまーす!」

 

 まぶたを腫らしながら、笑顔で一生懸命にビラを配る優希を見て、俺は口元を緩めていた。

お読みいただき、ありがとうございました!


はい! ちょっとだけフライング……というか、一話多めに更新といったところでしょうか。


次回の更新は、10/10の日曜日です!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、ブクマ、評価、感想をよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] おおおお!? なんだかいい感じに和解しましたね!! それもしこりの無い(優希はまだ引きずっていますが)関係になれて本当に良かった!!
[一言] 優希も想いにケリをつけましたか。 一応、和解した、ということになるのかな。環奈はまだ許せないだろうけれど。 さて、投票本番も近づいてきたようですねえ。
[一言] ぐはっ!! つ、続きが気になりすぎます!!
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