第103話
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佐山が俺に告白した次の日の放課後。
俺は、長岡、山川、佐々木と葉山の四人と一緒に、ステラのイートインスペースにいる。
もちろん、選挙管理委員の交友関係についての調査結果の報告を受けるために。そして、今後の対策について話し合うために。
「それで……どうだった?」
「デュフフフ……堀口氏の読み通りだったでござるよ……」
「そうか……」
つまり、やっぱり佐山が言っていた選挙管理委員の三人は、杉山の息がかかっていたってことか……。
「ホントに卑怯な奴だよね! ムカツク!」
「そうですよ! 正々堂々、環奈さんと勝負すればいいのに!」
山川と葉山が声を荒げる。
まあ、二人は環奈の親友でもあるし、こんなに怒るのも無理はないか。
「だけどさあ、これからどうするんだ? 仮に選挙管理委員が杉山の手先だとして、それを言ったところで『はい、そうですね』なんてアッサリいくとも思えねーんだけど……」
確かに佐々木の言う通り、このことを環奈の友人である俺達が直接申し立てたところで、選挙管理委員会はそれこそ俺達と環奈との関係から変に思われかねない。それどころか、逆に環奈にとって不利になるおそれだって……。
「デュフフ……堀口氏、ならば色分けの投票用紙自体を逆に利用すればいいのでござるよ」
「「「「投票用紙自体を逆に利用する!?」」」」
長岡の言っている意味が分からず、俺達は思わず聞き返した。
「そうでござる。色分けの投票用紙を使用することで投票者を特定するというのは、実は穴がかなり多いでござるよ。そもそも、杉山氏の企み通りにしようと思えば、各部活動の数だけ色分けしなければいけないでござる」
「「「「あ……」」」」
た、確かに……!
「それだけじゃないでござる。そんな真似をすれば、選挙管理委員会そのものに負担がかかるでござるよ。元々、嫌々で選挙管理委員をしているのでござる彼等は、本音ではそんな面倒なことしたくないはずでござるからな」
「「「「おおおおお……」」」」
長岡……コイツ、とんでもない男だぞ……!」
「デュフフ……伊達に、『孫子』を愛読しているわけではござらんよ」
な、なんだよチクショウ! 長岡のくせに、ちょっとカッコよく見える……って。
「長岡……」
おーおー山川の奴、うっとりしながら長岡を見つめてやがる。
まあ、その気持ちも分からないわけじゃないけど。
「それで、次に俺達がすることは?」
「そうでござるな……選挙管理委員会として投票用紙の色分けを認めた以上、それは実行されるでござる。なので……」
「「「「……おお!」」」」
確かに、それなら上手くいきそうだ!
「デュフフフフフフフフ!」
高笑いする長岡を眺めながら、俺はコイツが俺の心強い親友でよかったと、心から思った。
◇
「ふふ……もう話し合いはよかったんですか?」
今もイートインスペースで談笑しているみんなから離れてバイトに戻った俺に、ハルさんがクスリ、と笑う。
「はは、もう話は終わりましたから。さて……サボった分、キッチリ働きますから!」
そう言って、俺がガッツポーズをしてみせた。
「そういえば、環奈さんはどうしたんですか? やっぱり選挙活動で忙しく……」
「ああいえ、今日はバイトも生徒会の仕事も、両方休ませたんですよ。あと二日が勝負ですからね」
そう……生徒会長選挙は、いよいよ三日後の金曜日。明日と明後日は最後の大詰めだ。
環奈には、万全を期して生徒会長選挙に挑んでもらわないといけないからな。
「それで、今度の選挙は勝てそうですか?」
「もちろん! だって、環奈には最高の友達がたくさんいますから!」
そうとも。
いつも一生懸命みんなのために頑張ってる環奈には、山川が、佐山が、葉山が、長岡が、佐々木が、クラスのみんながいる。
その絆こそが、環奈の最強の武器だ。
「ふふ……そして、最高の幼馴染もいますしね」
「あ、あはは……」
微笑みながらそう告げるハルさんに、俺は苦笑するしかない。
だって、俺は最高の幼馴染なんかじゃないから。
いつも迷惑ばかりかけて、優希にフラれて勝手に落ち込んで、ずっと心配ばかりかけさせて……。
今だって、優柔不断な俺のせいでずっと縛り続けて、悩ませ続けて、困らせて……。
「……俺にできるのは、これくらいしかないですから」
少し視線を落としながら、俺は自虐的に告げる。
すると。
「へ!? ハルさん!?」
突然、ハルさんに両手で顔を挟まれてしまった!?
「正宗くん。これくらいしかできないじゃなくて、あなたしかできない、なんですよ? あなただけが、環奈さんを支えて、守って、優しく包んであげることができるんです」
「あ……」
「ですから、もっと自信を持って、胸を張ってください! ね!」
ああ……ハルさんはいつも、こんな俺に欲しい言葉をくれる……。
「はい……!」
俺は力強く頷くと、背筋を伸ばして胸を張った。
ハルさんの期待に、精一杯応えるために。
「うん! それでこそ正宗くんです!」
そう言うと、ハルさんは最高の笑顔を見せてくれた。
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