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第16話 DNAが暴き出す真実とはッ?

 司佐はホテルの一室に鳴り響く、ドアベルの音で目を覚ました。

「ん……ハイハイ」

 起きたてで機嫌が悪かったが、今日も学校があるために怒ってもいられない。

 ドアを開けると、コトハがいた。

「コトハ!」

 司佐は一気に眠気を吹き飛ばし、驚いて隣にいた昭人に説明を求める。

「ごめん、司佐。コトハがどうしてもって泣いてきかないから……」

 昭人が言う通り、すでにコトハは涙で頬を濡らしている。

「……ま、まあ中へ入れ」

 そう言って、司佐は二人を招き入れる。

「で、どうしたんだ? コトハ」

 すっかり会いづらかったことを忘れ、司佐は泣いているコトハを宥めるようにそう尋ねた。

「ごめんなさい、司佐様……でも、今朝も私だけ別に学校へ行けと言われて、どうしても司佐様にお会いしたかったんです。私、司佐様に謝ってもいない……」

「謝る?」

「だって司佐様、私を怒っていらっしゃるんでしょう? だから会いたくないと……私、司佐様に嫌われたら、どうしていいかわかりません!」

 泣きじゃくっているコトハに、司佐は事情を察して頷いた。

「そうか、ごめん。でも、俺にもいろいろ事情があるんだ。少しコトハに対して突っ走りすぎたから、距離が置きたかったのも事実だ。でもコトハに説明しづらくて、言葉足らずだったな。ごめん」

 コトハ相手にプライドなど持たず、司佐は正直にそう言った。

「……じゃあ、私のことを怒っていらっしゃらないのですか?」

「怒ってないよ。何を怒ることがあるんだ?」

「そうですか……よかった。本当によかった……」

 無邪気に喜ぶコトハを、司佐は優しい瞳で見つめる。

「コトハ……おまえ、父親は誰なのか知らないんだったな?」

 突然、司佐はそう尋ねた。

「え? はい。以前、別荘で仕えていた使用人だったと聞きましたけど、ちゃんと聞く前に、お母さんもおばあちゃんも亡くなってしまったので……」

「そうか」

「それが、どうなさいましたか?」

「いや……なんとなく、俺たちは境遇が似ていると思ってね。昭人も両親がいないし、俺はいるけど、海外ばかりで俺は放っておかれている」

 司佐はそうごまかして、タオルを肩にかける。

「昭人。シャワーを浴びてくる。朝食のルームサービスを取っておいてくれ」

「わかった」

「あの、私は……」

 コトハは申し訳なさそうにしてそう尋ねる。ここへ来るなと何度も昭人に止められたが、押し切って来たため、居づらくもあった。

「おまえもここにいていい。一緒に学校へ行こう」

「ありがとうございます!」

 司佐はシャワーを浴び、朝食を食べ、コトハと昭人とともに学校へと向かっていくのだった。


 昼休み。食堂へ向かう途中、司佐が口を開いた。

「昭人。作戦決行するぞ。コトハの髪の毛を取って来い」

「え? どうやって……」

「それはおまえが考えろ」

「無茶苦茶言うなあ……」

 だが、司佐の命令となれば無視出来ない。昭人は様々なシチュエーションを考え、食堂へ向かった。

「司佐様。昭人」

 食堂にはすでにコトハがおり、その横には貴一と藤二もいる。

「お邪魔虫が何してる」

「ひどいなあ。昨日はちゃんと、コトハと食事したって報告しに来たのに」

 司佐の言葉に、藤二が言う。

「それはありがとう」

 そう言って、司佐はコトハの前に座り、昭人は食事を取りに行った。

「で、昨日はなんで早退したんだよ」

 貴一の言葉に一瞬止まりながら、司佐は不敵に微笑む。

「なんだっていいだろ」

「昭人まで連れて?」

「試験前なんだ。たまには息抜きも必要だろ」

「試験か。嫌なこと思い出させるなあ」

 学校では、もうすぐ学力試験がある。そのため、心なしか食堂にいる生徒も少ない。みんな食事を惜しんでまで勉強しているのだ。

「はい、司佐」

 そこに、昭人が食事を持って来た。

「ありがとう。じゃあ、いただきます」

「いただきます」

 昼下がり、そのテーブルには華があった。司佐をはじめとし、男性陣はみんな垢抜けて輝いている上、昭人を除く全員が金持ちの男。そんな中に紅一点、コトハがいるだけで華やかさを増し、そこは一目置かれている。

 しばらくして、貴一が立ち上がった。

「お先にごちそうさま。僕、今日は先に戻るよ」

「なんだよ、貴一。やけに早いな」

「もうすぐ試験だからな。復習しないとヤバイんだ。最近、遊んでばっかだったしな」

 そう言う貴一に、藤二も立ち上がる。

「じゃあ僕も行こう。お先に」

 去っていく二人に、司佐は苦笑した。

「騒がしいやつら」

「でも、お二人までそんなに勉強しているなんて……私も早めに教室に戻ります」

 コトハが慌ててそう言った。

「コトハは家でも勉強してるんだろ。あいつらは別だよ。貴一は遊んでばっかりだし、藤二は部活三昧で、あの二人は勉強してないもん」

「でも心配です。ただでさえ、授業についていくのに精一杯なのに……」

「おまえは、家でいくらでも教えてやる。昭人が……」

「え、僕?」

 急に振られた昭人が、苦笑する。

「まあ、だからゆっくり食え」

 司佐の言葉に、コトハは微笑んだ。


 やがて食事を終え、一同は立ち上がる。

 その時、昭人がコトハの肩を叩いた。

「あ、肩にゴミが……」

 わざとらしいセリフだったが、コトハは屈託のない笑顔で微笑む。

「ありがとう、昭人。じゃあここで、失礼します。ごちそうさまでした」

 コトハはそう言うと、一年生の校舎へ去っていった。

「取ったのか?」

「取った……」

 昭人はコトハの肩についていた毛を、慎重に司佐に見せる。これでコトハのDNA鑑定が出来る。

「昭人。失くさないようにどこかに貼っておけよ」

「うん。でも今は何も持ってないから、とにかく教室に行こう」

 コトハの毛髪は失くさないように昭人の指の間にあり、教室に着くなり、その毛髪はノートの空いているページに挟まれた。

「これでよし」

「じゃあ、昭人。今日中にDNA鑑定を頼んでくれ。本田先生に頼めば、すぐに回してくれる」

 司佐は知り合いの医師の名を出し、自分の髪を一本抜いた。

「わかった。帰りに病院に寄ってくるから、先に帰っててくれ」

「オーケー」

 昭人は司佐の毛髪をコトハの毛髪と別のページに挟み込む。

 すると、教師が入って来て授業が始まった。授業中、昭人は頬杖をつきながら、二人の毛髪を挟み込んだノートを見つめる。万一、二人が兄妹だったらと思うと、司佐の苦しみが目に浮かぶ。だがそんなことはないだろうと、別所が言っていたことを信じて、昭人はノートを閉じた。


 その日のうちにDNA鑑定に出された二本の毛髪は、司佐の依頼ということもあり、すぐに鑑定に回された。

 そして数日後、早くもその鑑定結果が司佐のもとに届く。

 コトハを早めに遠ざけ、司佐は昭人を傍に呼ぶ。一人で開けるには、あまりにも勇気がいるからだ。

「昭人……おまえが開けてくれないか?」

「……いいよ」

 断る権利などない。昭人は病院のロゴが入った、かっちりとした封筒を開ける。

「いい? 司佐。開けるよ」

「ああ。頼む……」

 昭人は息を呑んで、封筒の中に入っていた鑑定書を開けた。

「……昭人?」

 数秒間、何の反応もなかっただろうか。司佐は不安を浮かべてそう呼んだ。

「あ? ああ……」

「それで、どうなんだ?」

「いや……」

 明らかに動揺している昭人に、司佐は奪うようにして診断書を見つめる。

“同親、血縁関係にあることが極めて高い”

 診断書には、そう書かれていた。

 司佐は思わず、その診断書を丸める。

「ちくしょう! 俺は……これからどうコトハに接すればいいんだ……!」

 昭人も目を伏せ、もう何も言えなかった。司佐のことを思うと、不憫でならない。だが、どうしようも出来ない自分に、もどかしさを感じていた。

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