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第14話 探偵・司佐(助手・昭人)、秘密を探れッ!

 司佐と昭人は軽井沢へ向かうと、すぐに山田家所有の別荘へと向かっていった。

 司佐が子供の頃はよく来たが、今は大人たちが来賓を招く時くらいしか使われていない。

「これは、司佐おぼっちゃま! どうなされましたか?」

 別荘での執事である別所が、突然の司佐の登場に、驚いて声を上げる。

「久しぶりだな、別所。突然すまない。ちょっと調べたいことがあって……」

「左様でございましたか。さあ、どうぞ中へ。本当にお久しゅうございます。先日、旦那様がいらした時も、司佐様はおいでになりませんでしたので、我々も残念に思っていたところでした」

 別所もまた、古くから山田家に仕える執事だ。

「僕も久々に会えて嬉しいよ。父さんがこの間来たのは、急な接待のためだったらしいね。本宅にも顔を出さずに海外へ飛んで行ったから」

「旦那様もお変わりなく、世界中を飛び回っていらっしゃいます様子ですね」

「まあ慣れてるけどね。少し話せるかな、別所」

「はい。もちろんでございます」

 応接室に案内された一同。司佐は堂々と椅子に座り、昭人はその横でじっとしている。前には別所が座り、話が始まった。

「今日来たのは、小桜琴葉のことだ。」

「はい。本宅での働きぶりはいかがでしょうか? なにぶん、この町から出たことのない田舎者ですし、一人前になる前に本宅異動を命じられたので、我々も心配していたのですが……」

「働きは申し分ない。だが、彼女の身辺調査をしたい」

 深刻な話に突入し、別所の顔も曇る。

「身辺調査……はやり何かしでかしたのでは?」

「いや……でもそうだな。突然来て話せというのは、話しにくいだろう。だが、コトハの異動を命じた父さんもおらず、コトハが持って来たのは、異動通知と、コトハの簡単な経歴書だけ。我々はコトハの出生から知りたいんだ。あなたなら、コトハが生まれた時から知っているはずだ」

「わかりました。どのようなご事情があるのかは存じませんが、私が知っている限りのお話でよろしければ、お答えいたしましょう」

「でも、くれぐれも内密にお願いします」

 やっと口を出したのは、昭人である。

「もうまだるっこしいな。これを見てもらおう。でも昭人の言う通り、内密に」

「わかりました……」

 別所はゴクリと息を呑んで、身構える。

 司佐はポケットから封筒を取り出すと、中の写真を見せた。

「これは……」

 別所はそれを手に取って、やがてその反応を見ている司佐を見つめた。

「懐かしい。これは、私が撮ったものですよ」

「え?」

 司佐と昭人は、拍子抜けの答えに互いの顔を見合わせる。

「十五年ほど前の写真ですけどね」

「これは父さんで、これはコトハの母親だよな?」

「ええ。この赤ん坊は、コトハですよ」

「我々は、コトハが父さんとの子供かと疑っているんだ」

 ズバリと言った司佐に、別所は驚いた後、笑った。

「そうでしたか。それで……」

「コトハは自分の父親は死んだと言っていた。でもそれが嘘で、父親が父さんだったとしたら? 親戚を失くし一人身になったコトハを、本宅で預かると父さんが言い出すかもしれない」

「なるほど、辻褄が合うということですね。しかしながら、コトハの父親は旦那様ではございませんよ。少々お待ち下さい」

 別所はそう言って、席を立った。

 残された二人は溜息をつく。

「一先ずよし、か……」

「でも、隠している可能性はあるよ」

「そうだな。どうとでも言える」

 そこに別所が戻って来て、大きなアルバムを差し出した。

「旦那様の書斎にございましたアルバムの一つです。ご覧くださり少々お待ちください。私はお飲み物のご用意が遅れているようですので、少し様子を見て参ります」

 司佐は了承して、それを開ける。そこには若かりし頃の司佐の両親や、いろいろな人物が写っている。

「あ、この写真……懐かしいな」

 自分の小さい頃の写真を見て、司佐が言った。

「小さい頃の司佐か」

「昭人ももう、この時にはいたよな」

「うん」

「ああ、思い出したぞ。この日に鳩子さんに会ったんだ」

 懐かしい写真に、司佐が口を開く。

「そうだっけ?」

「そうだよ。俺が着てるこの服、覚えてるもん」

「でも、どうして鳩子さんっていう名前だと思い込んだんだろうね?」

 昭人の言葉に、当時の記憶を呼び起こす。写真を見ると、当時のことが蘇ってきた。


 回想――。

 別荘で行われているパーティーの最中、まだ小さな司佐はパーティーに飽きて、テラス下の土に、絵を描いて遊んでいた。

「ったく、昭人のやつ、トロいんだから……」

 司佐がそう言っているのは、パーティーを抜け出そうとして、昭人だけつかまってしまい、怒られているからだ。おかげで一人で遊ぶ羽目になり、それはそれでつまらない。

「こんなところで何をなされているのですか?」

 そこに、綺麗で儚げな女性が、突然顔を出した。

 司佐はその美貌に一瞬にしてやられたように、開いた口が塞がらない。

「いえ……あなたは?」

 やっと口にした司佐に、女性は苦笑する。

「身分もわきまえず、こんな素敵なパーティーに出させていただいたのに、やはり慣れなくて疲れてしまって……」

「僕もだ。疲れたし、つまらない」

 互いに意見が合ったように、二人は微笑んだ。

「でも司佐様は、もう戻られないと。皆さん心配なされますよ」

「そんなもの、心配すればいいんだ」

「いけませんよ。私も同じくらいの娘がおりますが、姿が見えなくなっただけでとても心配になります。私もそろそろ帰ります」

 そう言って、女性は静かに立ち上がった。

「娘がいるんだ……」

「ええ。さあ、参りましょう」

「あ、ねえ、名前は?」

 司佐の言葉に、女性は静かに微笑んで、司佐が持っていた木の棒を掴むと、司佐の左側に座り、土に「コトハ」と字を書いた。

「ハ……ト、コ」

 幼く、左側から字を読むという概念がまだなかった司佐は、自分の近くからそれを読んだ。

「ねえ。それから……」

 振り向いた司佐だが、そこにもう女性の姿はなく、パーティーに戻っても、会うことはなかった。

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