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第13話 やってきた、嵐ッ?

 コトハを有森家から連れ戻した夜、車の中で、司佐は口を尖らせていた。

「やっぱり油断ならない兄弟だ! 俺への当てつけじゃないだろうな?」

 コトハのことが好きだという宣戦布告を二人から受け、司佐の気持ちは完全にぐらついていた。

 プレイボーイで名高い二人。貴一は軽いが女性に優しく、扱いにも慣れている。藤二は落ち着いているが、好きとなったら押しまくるタイプである。どちらも美系で、女性に苦労したことはないため、いつコトハが傾くか、気が気でなかった。


 数日後――。

「セバスチャン。銀座へやってくれ」

「ぼっちゃん。私は坂木ですってば」

 運転手の愛称・セバスチャンが、苦笑して答える。

「いいから銀座だ。宝石店へ」

「宝石店? こんな時間じゃ、どこもやっていませんよ」

「開けさせる」

 暴君・司佐の復活だ。司佐はこの年にして、願いが叶わなかったことなど一つもない。

 結局、行きつけの宝石店を営業時間外に開けさせた司佐は、コトハとともに指輪を見つめる。

「派手すぎず地味すぎず、この子に合う指輪を」

「ええ? 私、そんな高価な物……」

 たじろくコトハに、司佐は息を吐く。

「おまえは俺の恋人だろう。もっと胸を張っていけ」

「は、はい……」

 結局、コトハは司佐に高価な指輪を買ってもらった。

「はい。これは俺の愛の証」

 帰りの車で、司佐はそう言って、コトハの左手の薬指に指輪をはめる。

「こ、こんな高価な物、どうしたら……」

「仕事や勉強の邪魔になるかもしれないけど、出来るだけはめておけ。俺たちの関係が定着したら、取ってもいい。秘密だと言ったことも、もうなしだ」

「……こんな物がなくても、私は司佐様のものですよ?」

 その言葉を聞いて、司佐はコトハを抱き寄せた。

「ハハハ。超可愛い。なあ? 昭人」

「え、僕に振るの?」

 甘々な二人の横で、呆れたように昭人が答える。

「おまえも好きな人がいるなら、付き合ってもいいんだからな」

 昭人の脳裏に、一瞬コトハが浮かんだが、それを打ち消して笑う。

「いないよ、そんな人」

 車は静かに、山田邸へと戻っていった。


 家に戻ると、司佐は長椅子に座り、溜息をついた。コトハを大事にしようと思っても、どうしても強気に出てしまい、命令のような形で終わってしまう。また、貴一と藤二の存在も、脅威に感じていた。

「ああ、もう。寝つけないな……」

 司佐はそう言うと、読み終わった本を持って図書室へ向かう。

 広い図書室だが、興味のある本はほとんど読み古した感じだ。

「そうだ。あの資料、確か親父の書斎で見たんだよな……」

 司佐はふと何かを思い出し、父親の書斎へと向かった。


 父親の書斎は、あまり入ったことがない。それは、父親がいた頃は入るなと禁じられていたし、面白い物があるわけでもない。

 だが大きくなってこの部屋に入ってみると、書斎の本棚には興味をそそる資料がたくさんある。

 司佐は読書好きというわけではないのだが、将来、大財閥を継ぐに当たって、小さい頃から英才教育を受けていた。そのため、資料とあらば活字を読むのは苦ではないし、今でも勉強は自主的にしているほど努力していた。

「ん? この棚は……」

 ふと、部屋の奥にある棚に気が付いた。鍵が掛かっているが、ガラス窓で中身は見える。

「うわ。あの本読みてえ! ったく、なんで鍵なんか掛けてるんだよ」

 司佐は辺りを見回すと、父親の机に向かった。引き出しを手当たり次第に開けるが、そこに鍵らしきものはない。

「となると……」

 司佐は机の下に入り、天板の裏を見つめる。するとそこには、目当ての鍵があった。

「やりぃ」

 そう言って、司佐は鍵を手に取る。子供の頃にそんな父親の癖というか秘密を知ったのだが、それを覚えていた自分にも感心する。

 案の定、鍵の掛かった棚は開いた。

「いい本持ってるじゃん。これと……こっちも借りとくか」

 その時、取った本の奥に、封筒があるのに気付いた。

「ん?」

 なんの気なしに封筒を開いた司佐は、足元をふらつかせるほどの衝撃を受けた。

 封筒の中には、一枚の写真が入っている。そこに写っていたのは、自分の父親と、そして司佐の初恋の人でもあるコトハの母親の通称・鳩子さん、その間には赤ん坊がいた。

 司佐の脳裏を、様々な思いが駆け巡る。だが何度考えても、一つの答えしかない。

「まさか……もしかして、コトハは……」

 それ以上は言えず、司佐は唇を噛む。

 写真から見て、二人の間に好意があることは確実だ。父親は女性の肩を抱き、女性は優しい笑顔を向けている。赤ん坊の正体はわからないが、女の子らしい服装をさせている。司佐の推理が正しければ、きっとコトハであろう。

「……クソッ!」

 司佐はもう本など読む気すら失くし、原状復帰をして部屋へと戻った。だが、その疑惑の写真は持って帰り、自らの部屋にある鍵のかかった棚に入れた。父親と同じように――。


 次の日の朝。司佐はコトハに起こされた。

「おはようございます、司佐様」

 コトハはそう言いながら、司佐の言いつけどおりに、その頬にキスをしようとした。

 だが、とっさに司佐はそれを拒み、立ち上がる。コトハのことが直視出来ない。

「す、すみません……お飲み物は?」

「……いらない。先に食堂へ行け。シャワーを浴びたらすぐに行く」

「は、はい」

 昨日とは打って変わってピリピリした様子の司佐に、コトハは戸惑いを覚えた。


「……何かあったの?」

 学校の教室で、昭人が尋ねた。司佐は口をつぐみ、席を立つ。

「司佐?」

「サボる。先生にうまく言っておいてくれ」

「ちょっと、司佐……」

 司佐は教室を出ると、生徒会室へと入っていった。会長である司佐は、自由に出入り出来る。

 しばらくして、昭人がやって来た。

「やっぱりここだったのか」

 長椅子で寝そべる司佐に、昭人がそう言う。

「なんだ。おまえもサボりか」

「司佐がサボるならね。何があったんだよ。コトハのこと?」

「違う。いや……そう」

 昭人は首を傾げた。

「何があったの? 昨日は指輪も買って、あんなに機嫌がよかったのに」

 それを聞いて、司佐は静かに胸ポケットを探った。そこには封筒が入っている。もう一度じっくり見ようと、出掛けに持ってきたものだった。

 司佐は封筒を開けると、昭人に写真を見せた。

「これは……」

「親父の書斎で見つけた。鍵の付いた棚に、隠すように入ってた。そんなの、答えは一つだろう……?」

「嘘だろ? コトハは……司佐の妹?」

 昭人も自分と同じ答えを導き出し、司佐は顔を顰める。

「考えてみると、いろいろ重なるんだ。たとえば、俺も親父もコトハも極度の癖っ毛だろ? コトハの母親はストレートだったし。最初から俺になびかなかった子も初めてだし、本能で俺を避けてたのかも……他にもいろいろ、細かいことばかり目につく」

「司佐……」

「だから惹かれたのかな……あんなに好きな子、運命とまで思ったのに……」

 悲しく微笑む司佐に、昭人は胸が締めつけられる思いでいた。

「……命じてくれよ、司佐」

 昭人の言葉に、司佐は昭人を見つめる。昭人は真剣な眼差しで口を開く。

「コトハのことを調べろって、僕に命令してくれ」

「昭人……」

「調べたらわかることもあるかもしれないだろう。辻さんたちにそんなこと聞いたって、知ってたって答えるもんか。僕たちだけで調べるしかないだろう」

 昭人がそう言ったのは、司佐の命令ならば、学校も堂々と休める権利を持つからだ。

 熱い昭人に、司佐は頷いた。

「そうだよな。まだ諦めるのは早いよな。よし、昭人。コトハの出生を調べてくれ」

「わかった。とりあえず、コトハが住んでいた軽井沢の別荘に行ってみるよ」

「そうだな。それが一番早いだろう。俺も一緒に行く」

「司佐も? 僕一人で十分だ」

「居ても立ってもいられないんだ。それに今、コトハの顔を見たくない」

 司佐の気持ちを察し、昭人は頷いた。

「わかった。一緒に行こう」

 そのまま二人は、学校を早退して軽井沢へと飛んだ。


 その日の昼。コトハは食堂で司佐と昭人の姿を探した。だが、いくら探してもいない。

「コトハ」

 そこを呼び止めたのは、藤二である。

「藤二様」

 司佐から注意を受け、藤二の登場に身構える。

 そんなコトハに、藤二は苦笑した。

「傷つくなあ、そんなに身構えられると。それに、様付けは司佐だけにしなよ。貴一と同じでいいよ」

「では藤二さん……司佐様を知りませんか?」

「その司佐様から伝言」

 藤二はそう言って、司佐から預かっていたメモをコトハに渡す。

“コトハへ。今日は気分が悪いので、昭人と早退する。藤二にこの伝言を託すから、癪だけど今日のランチは藤二に奢ってもらえ。(おまえに金を渡しそびれていたから、今度小遣いを渡す)学校が終わったら、いつも通りセバスチャンが迎えに来るから、それに乗って帰ること。以上”

 それを読んで、コトハは藤二を見つめる。

「藤二さん。司佐様も昭人も、どうかしたんでしょうか……」

「さあ。腹の具合でも悪いんじゃない? それより、ランチ何にする?」

「でも、藤二さんに奢っていただかなくとも、お金はあるので大丈夫です」

 そう言ってコトハは、小さな財布のチャックを開ける。中には、千円と少しの小銭があるだけだ。

「うーん。残念だけど、ここの食堂、それだけじゃパンと牛乳くらいしか買えないかな」

「じゃあ、あっちのリーズナブルの食堂に……」

 その時、コトハは誰かに肩を抱かれた。するといつの間に、貴一がいる。

「貴一。せっかく二人きりになれたのに」

「兄貴を抜け駆けするとはふてえ弟だな、藤二。そんなんだから、コトハに意地張らせるんだよ。コトハ、付いて来い。僕が奢ってやる」

 貴一はそう言って、強引にコトハを連れて歩き出す。

「で、ですから、私はパンでも全然構わないです」

「でも、君に奢るって司佐からの指示でしょ? 僕たちが奢らなかったら、後で僕たち、司佐に何されるかわかんないよ? 僕たちが半殺しの目にあってもいいの?」

 貴一はうまくコトハを乗せて、そのままランチは続行された。

 コトハは、司佐のことが心配だったが、貴一と藤二の存在により、その心配を少しだけ薄れさせてくれていた。

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