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48  ジャストキル

 





 今日は8人が殺される。

 そんな噂が流れたせいか、モンス居住区には誰も歩いていない。

 僕は宿の窓から閑散とした通りを眺めていた。


「1人足りない気がする」


 ちょうど宿を訪れていたソレイユが、部屋を見渡しながら言った。


「ラビーくんは大事な用事があるって出てっちゃったから」

「こんな時に!?」


 ソレイユの驚きはもっともだ。

 そもそも、こんな状況で営業している店があるのだろうか。

 それとも、店ではなく個人的に”サルタ”という女性と逢引しているのか。


「あのラビーって男、変なこと口走ったりしてなかったか?」

「いつも通りと言えばいつも通りのラビーさんだったと思います」


まあ、変と言えば変だったけども。


「ならいいんだが。最近は商人ギルドの連中が居住区に妙な薬を流したりしてるらしいから、殺人鬼のことを差し引いてもあんまり1人で歩いて欲しく無いんだよ」


 ベッドの上であぐらをかきながら、ソレイユは不満そうに言った。


「安価で依存性も高い。使っちまったら一発で人格がぶっ壊れるような代物だ」

「違法なんちゃら、ってやつ?」

「違法かどうかは知らないが、労働者ギルドで取り締まりはしてる。それでも、薬欲しさに敵に情報を流したり、中には爆弾を仕掛けたアホが出てきたりと厄介なことに変わりはない」

「そんなものがあるなんて、ラビーくんほんとに大丈夫なのかな……ねえ岬、止めに行かなくていいの?」

「大丈夫でしょ、僕たちより年上なんだから。それより問題は殺人鬼の方じゃないの? 今朝の死者は何人だったんだろ」

「ほとんどみんな家から出てないから、把握が出来てないってのが現状かな。でも……」

「本部の中に忍び込んで、気づかないうちに殺してしまうような相手です。家に閉じこもっていても逃れられるとは思えません」


 エルレアの言うとおり。

 凶器で家の扉をこじあけ、また体が真っ二つにされておしまいだ。

 こちらから動かない限り、今日も順調に8人の死者が出るだろう。


 商人ギルドに対する大規模作戦の予定は、当初は明日のはずだった。

 しかし、労働者ギルド全体の士気は下がり、アニムスの整備も進んでいない。

 「たぶん延期になると思う」とソレイユは言っていた。

 それでも全く戦闘が行われていないわけではなく、アニムス同士の小競り合いは散発的に発生していた。

 小規模とは言え、戦闘の度に資材は減っていく。

 タヴェルナという帝国との繋がりが失われた今、労働者ギルドの持つ資材は減少する一方だ。

 早く決着を付けたい。

 そんなフォードキンたちの思惑をあざ笑うかのように、殺人鬼は今日も躍動する。


 しかし予想に反して、その日の死者は3人に留まった。

 3人は全員が、町をパトロールしていた構成員たちだった。

 もちろん労働者ギルドは悲しみに包まれたものの、そこには幾分かの安堵も混じっていた。

 彼らを責めることは出来ない。

 3人が死んだと考えたのではなく、5人が助かったと考えてしまっただけの話なのだから。

 だけど僕は、また違う考え方をしていた。

 残り5人は、一体どこで補った(・・・)のかと。




 ◇◇◇




 その翌日、16人の日。

 昨日の比べると、ちらほらと外を出歩いている人の姿を見かける。

 幻覚はあまり見ない、殺人鬼が近くに居ないからかもしれない。

 ラビーは今日もサルタに会いに行った。

 百合とエルレアはそんな彼を冷めた目で見ていたけれど、表情から読み取る限りでは、彼のサルタへ向ける熱は、昨日に比べるとかなり冷めているように思えた。


 「もしものことがあったら困るわ」と、ラクサに可能な限り外を出歩かないように釘を刺されていたので、今日も宿で一日を過ごす。

 退屈だけど、百合とエルレアさえ居れば出来ることはいくつもある。

 僕らは堕落した1日を過ごした。


 その日、夜までに居住区で発見された死者は40代の男女2名、2人は夫婦だったのだという。

 発見場所は民家。

 家の入口は鈍器のようなもので破壊されていたものの、周囲の家の人々は口を揃えて『そんな音は聞いていない』と話しているらしい。

 今日は、14人をどこで補ったのだろう。


 更に翌日、32人の日。

 昨日から空は曇天だったが、この日ついに雨が地面を濡らした。

 湿った空気に気だるさを感じ、朝から2人と一緒にベッドでゴロゴロする。

 ラビーはこんな天気なのに、起きた時にはすでに出かけていた。

 サルタに会いに行ったんだろう。


 昼ごろ、ソレイユとフォードキン、ラクサに連れられてそこそこ高い店に昼食を食べに行った。

 厄介事に巻き込んでしまったお詫びだそうだ。

 モンスの名物料理に舌鼓を打ち、会話も自然と弾む。

 この場にラビーが居ないことが残念でならない。

 いや、彼も彼で上手くやっている(・・・・・・・・)のなら問題は無いのだけれど。


 その日の死者は1名、仕事を終えて酒場に向かう途中で殺された鉱夫だった。

 町の人々は彼の死を表面上は悲劇的に取り扱ったが、内心では誰もが喜んでいた。

 一昨日が3人、昨日が2人、今日が1人。

 つまり、明日は0人になるはず。

 そんな予測ができてしまったからだ。

 つい数日前に予想を裏切られておいて。

 なぜ人間というのは、自分に都合の良い現実ばかりを信じてしまうのか。





 ◇◇◇




 翌朝、64人の日。

 その日、僕たちはドアを激しく叩く音で目を覚ました。

 腕に絡みつく百合とエルレアをどうにか剥がし、ベッドから這い出ると、目をこすりながらドアへと近づく。


「ミサキッ、無事か!? 無事なら返事をしてくれ、頼む!」


 声だけで必死さが伝わってくる。

 ドアを開くと、そこには肩を上下させながら、額から汗を流すソレイユの姿があった。


「どうしたの?」

「いいから来てくれ、早く!」

「いや、でも百合とエルレアが……」

「今のところは宿は無事だから大丈夫だ、それより……頼むから、とにかく付いてきてくれ!」


 やけに強引なソレイユに引っ張られながら、宿を出た。

 雨はあがったものの、水はけの悪い地面はまだぬかるんでいる。

 泥に足を取られそうになりながら通りを横断し、たどり着いた労働者ギルド本部。

 入り口の両脇には、いつも以上に深刻な表情の門番2人が立っている。

 先導する彼女はその2人に会釈すると、本部の入り口を開く。

 建物の中からむわっとした空気が溢れ出した。


「……血?」


 空気に混じる嗅ぎ慣れた匂い。

 その原因は、ソレイユに尋ねるまでもなく明らかだった。


 壁、床、椅子、机、あらゆる場所に血がこびりついている。

 まだあまり時間が経っていないのか、鮮明な赤だ。

 右の血の海の中には上半身だけの男が沈んでいた。

 雑にちぎられた大腸が、風で波立つ血で微かに揺れる。

 左には、男性の下半身が。

 死体は1人分だけじゃない。

 部屋の至る所に2分割された死体が転がっている。

 その性別、年齢は多岐に及んだ。


 そんな地獄絵図の中で、フォードキンとラクサは必死に生存者を探して駆け回っていた。


「フォードキン、ミサキを呼んできたぞ! 無事だったみたいだ!」


 ソレイユの声に、2人が一斉にこちらを向いた。

 見た限り、ソレイユほど取り乱したわけでは無いものの、彼らの表情にも困惑が混じっている。


「良かった。ミサキさんが無事だということは、他の3人も無事なんだね?」

「ええ、そうですけど……」


 実は、ラビーは昨晩から帰ってきてないんだけど、この一件には関係ないから黙っておこう。


「ところで、この有様はどうしたんです?」

「朝、起きたらすでにこの状態だったのよ。この部屋だけじゃない、奥にもたくさん……うぅ」


 こみ上げる吐き気に思わず口を抑えたラクサ。

 その背中を、フォードキンが優しくさする。


「じゃあやっぱり、今日は64人の日なのか」

「やっぱりってなんだよ!?」

「初日が1人、次の日が2人、その次の日が4人なら、1日ごとに倍になっていくんじゃないか、って話」

「で、でも……ここ数日は毎日1人ずつ減ってて、昨日は1人だったんだ!」

「だから今日は0人だって? 違うよ、ちゃんと毎日倍になってたんだ。ただし、死んだのは労働者ギルドの人間じゃないだろうけど」

「あたしたちじゃないってことは……まさか、商人ギルド?」


 まだ推測でしか無い。

 けど、これが正しいのだとしたら、商人ギルドの人間は一昨日は11人、昨日は31人死んだことになる。

 2日で42人もの命を奪われておいて、彼らが何も動きを見せない、なんてことがあるだろうか。

 そんな僕の予想を裏付けするように、本部の入り口が勢い良く開かれた。


「フォードキンさん、大変だっ! ……ってうわああぁぁっ、何だこりゃあ!?」


 30代ほどのスキンヘッドの男が本部に飛び込んできた。

 どうやら彼も構成員の1人らしい。


「どうしたんだい?」

「商人ギルドの連中がアニムスを出してきた、数は20機。信号弾を打っても誰も反応しないから直接言いに来たんだよ」

「すまない、ご覧の有様で情報網も麻痺しているんだ。しかし、まさかこのタイミングであちらから仕掛けてくるとは。パイロットだってままならないのに!」


 格納庫にあるプルムブムが無事でも、パイロットが居ないんじゃ話にならない。

 さて、いよいよ僕の出番かな。

 最近はずっとごろごろしてたから、体が鈍ってないか心配だ。


「ミサキ、行こう!」

「うん、最低限用心棒としての仕事はしておかないとね。僕は百合とエルレアを呼んでくるから、ソレイユは先に行っといて」

「了解だ!」


 数は20機。

 対するこちらはアニマ4機のみ。

 敵のアルジェントはまあどうにかなるとして、アニマ使い5人も出てくるとなれば、戦況は圧倒的にあちらが有利だ。

 けど、アニマのスペックじゃ今の僕たちを上回る者は早々居ない。

 不利かどうかは、やってみないとわからないだろうさ。




 ◇◇◇




「うっひゃあ、すごい数!」


 イリテュムを発現させた百合が、立ち並ぶアルジェントを見て言った。

 先に出撃していたソレイユのアニマ”ウェールス”は、アルジェント部隊の先頭に立つ最新鋭機アウルムと睨み合っている。

 アルジェントには5機のアニマも混じっていて、まさに総力戦と言った様相だった。

 けど、これだけの戦力があるんだ、立ち止まらずに奇襲をかけていれば、今頃居住区を制圧出来ていたと思うんだけど。

 立ち止まって距離を取ってるってことは、そういう意図じゃないってことか。


「ソレイユ、大丈夫だった?」

「あたしは平気、あんな出来損ないの息子に負けるわけ無いから」

「だぁれが出来損ないの息子だぁッ!」


 アウルムから声が聞こえてくる。


「あれ、知り合いなの?」

「商人ギルドのトップの息子、確か名前はプドルだったかな。親の七光りだけで生きてきたみっともないやつさ」


 もしかして前回の戦闘の時も、アウルムに乗ってたのは彼なのかな。

 だから、こちらに攻撃を仕掛けてこなかった。

 彼が欲しいのは親の七光りという不名誉な言葉じゃない。

 アニムスに乗って戦った勇敢な、優秀な息子と呼ばれたかった。

 だから無理をしてアウルムなんて最新鋭機を回してもらって、見せびらかすように戦闘に参加した、と。

 けど、今回は打って変わって彼が先陣を切っている。

 何か策があると思って良さそうだ。


「我々がお前たちに要求することはただ一つ! 金も物も人間も技術も全てを商人ギルドに無償で明け渡し、降伏することだ」

「断る」

「ふん、予想通りだ。だが、これを聞いても同じことが言えるかな?」


 アウルムが手を振って合図すると、後方で待機していた部隊からアルジェントが前へ出てくる。

 同伴する1機のアニマは護衛だろうか。


「プドル、何のつもりだ?」

「回りくどいことは無しだ、素直に言おう。これは人質だよ、ソレイユ」

「人質ぃ? フォードキンとラクサなら本部に居るけど?」


 労働者ギルドの重要人物が健在である以上、他に人質として利用できそうな人物は思い当たらない。

 帝国とのパイプ役であるタヴェルナは死んでしまったし、あとは、他には――


「おい人質、何か言え」


 プドルが促すと、前に出たアルジェントから情けない声が聞こえてきた。


「ごめんなさい、ミサキさん、ユリさん、エルレアさん……」


 ……ラビーだ。

 商人ギルドのアルジェントから、ラビーの声が聞こえてきた。


「昨日帰ってきてないと思ったら、さらわれていたのですね……」

「だから惚れる相手はちゃんと選べって言ったのに! ラビーくんのバーカバーカ!」

「私もこればかりは擁護できません」

「面目ないです。本当にすいません、すいませんっ!」


 容赦ない罵倒にも、平謝りすることしか出来ないラビー。


「岬もあのバカに何か言ってやってよ!」


 百合は自分が言うだけでは怒りが収まらないのか、僕にも振ってきた。

 けど、よく考えてみて欲しい。

 彼をここまで追い詰めてしまったのは、彼の煩悩を理解してやれなかった僕の落ち度だ。

 同じ男として、ここで僕が彼を助けなければ、他に誰が助けるというのか。


「ラビー、僕は許すよ。だから早く戻ってきなよ」

「岬!?」


 驚く百合。

 気持ちはわかるけど、まあ見てなって。


「戻してやらんでもないが、こちらの条件は飲んでもらうぞ? 無条件降伏だ、ソレイユも含めて無条件であらゆる命令に従ってもらう」

「ごめんミサキ、取り戻したいって気持ちはわかるけど、あたしに付き合う義理はないよ」

「わかってるよ、僕も助けようとは思ってない」

「え、そうなの? てっきり戻ってきなよ、とか言ってるから作戦でもあるのかと」

「作戦はあるんだろうけど、とっくに終わってる。僕の手助けなんて必要ない。だよね、ラビー?」


 そう呼びかけると、ラビーは「ははっ」と感嘆の声を漏らす。


「さすがミサキさん、全部お見通しですか」


 全部とは言えないけど、何か企んでるなってのはわかってた。


「それでは、ネタバラシと行きましょうか。前に進んでください、サルタさん、あとミーリアさんも」


 ラビーが指示をすると、アルジェントと、付き添っていたアニマが前へと進みだす。


「おいっ、何をしているサルタ!?」


 プドルがアルジェントを呼び止める。


「ミーリア、なにやってんだよミーリアァッ!」


 後方で待機する男のアニマ使いも、アルジェントに付きそうアニマを止めようと叫んだ。

 彼は、ラビーがミーリアと呼んだ女性の恋人なのかもしれない。


「何をって、ボクの命令に従ってくれているんですよ。ああ、まさかあなたがた、まだ彼女が自分の女だとでも思っているんですか」

「……何だと?」

「サルタさんはとっくにボクに服従しています。あとミーリアさんもね」

「ごめんなさい、プドル様。わたしは、わたしは……」


 アルジェントに同乗しているであろうサルタと呼ばれた女が、プドルへの謝罪の言葉を繰り返す。

 けれど、アルジェントは前進を止めなかった。

 そしてやがて、アニマと共に僕たちと合流する。


「ご心配をおかけしました」

「どういうこと……?」

「簡単に言うと、薬漬けにしたんです」


 彼女たちを手篭めにする方法までは知らなかったけど、ソレイユが言っていた例のドラッグを使ったってわけか。


「サルタさんと最初に会った時から、妙に情報を聞き出そうとしたり、不自然に都合よく優しかったり、怪しいなとは思ってたんですよ。そうしたら、案の定バックに男の影が見えてきました。それが、あのプドルという男です」


 そう、ラビーは割と早い段階から、サルタが自分を騙すために近づいたということに気づいていた。

 それを理解した上で、楽しむことに決めたんだ。


「とは言え、僕がサルタさんに惚れたと言うのは本気ですよ。いわゆる一目惚れというやつで、騙されているとわかっていても、感情を止めることはできなかった。だからボクは決めたんです。多少卑怯な方法を使っても、その男から彼女を奪ってやろう、って」


 けど、思った以上に簡単なことではなかった。

 ラビー自身、あまり色恋沙汰とは縁のない人生だったようだし、何より時間が足りない。

 そこで彼がたどり着いたのは、商人ギルドによってモンス居住区に流された薬だった。


「混ざり物が多く質が悪い上に、依存性が高く安価。時間がない僕にとっては救世主のような薬でした。ですが、労働者ギルドの取り締まりが厳しく、まっとうなルートでは手に入らない。つまり、僕の商人としての腕の見せどころだったんです」

「あの薬を、使ったのか。サルタに、使っただけで人生が終わるようなあの薬をッ!」


 プドルが吠える。

 しかしラビーは動じない、軽やかな語り口調でネタバラシを続ける。


「サルタさんと、ついでにミーリアさんにもね。使っただけで、もうびっくりするほど簡単に落ちてくれました。口から泡を吹いて、鼻水垂らして涙流して失禁しながら狂乱して、薬を手に入れるためならなんでもするって。正直、ドン引きでしたけどね」


 自分で使っておきながらすごい言いぐさだ。


「お、お前はああああぁぁあああっ!」


 プドルにとって、サルタはよほどお気に入りの女だったんだろう。

 抑えきれない怒り、しかし彼自身に戦う力はない。


「やれっ、やってしまえ! もう話し合いの必要もない、あいつら全員を潰せええぇぇっ!」


 彼は感情に任せて、アルジェント部隊に突撃命令を下す。

 が、部隊は誰ひとりとして動こうとしなかった。

 確かに、プドルには人望がない。能力もない。顔も優れてるとは言い難い。

 しかし、誰も動かなかったのは、決してそれが原因では無かった。

 僕もいつみんなに伝えるべきか迷ってたんだけど、結局タイミングを逃してしまった。

 幻覚はちらほらと見えていたんだけど、死んでるのは敵側だからまあ良いかなと思って。


「おいお前らっ、何をやって――」


 プドルの駆るアウルムが振り返る。

 そこには、10機のアルジェントの姿があった。

 残り10機は――この町で幾度となく見てきた死体のように、真っ二つに引きちぎられている。


「ま、まさか、またなのか? アニムスに乗っていても無駄だって言うのか!?」

「”また”ってなんだよ、プドル!」

「またなんだよ! 殺された、商人ギルドの人間が沢山、40人以上も! とにかく俺は怖くて怖くて、アニムスに乗ってれば平気だと思ったんだよ!」


 それがこのタイミングで攻め込んできた理由か。


「残念だったね、死んだのはあんたらの仲間だけじゃない。こっちだって同じように殺されてる」

「何人だ?」

「ん?」

「今日殺されたのは何人だって聞いてるんだよ!」


 アウルムから怒鳴り声が響く。

 しかしその声は、怒りをぶつけるというよりは、恐怖を誤魔化すための虚勢に近い。


「答える義理はないけど……まあいい。今のところ、33人だよ」

「つまり、残り31人ってことだろ?」

「だからどうしたって言うんだよ」


 この場にはアルジェントが20機、うち1機にはラビーも乗っているので21人。

 アウルムが1機、商人ギルドのアニマが5機。

 そして僕たちのアニマは4機。


「今、この場に居るのがちょうど31人なんだよ……」


 プドルの声が震えている。

 ソレイユも、いつものように威勢の良い言葉を返すことはできなかった。






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