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5,

 貢物が増えた。開けていいのか、悪いのか。判断に困るわ。お部屋が一室荷物置き場と化してしまった。返すのも非礼かもしれない。受け取らないことが一番かもしれない。増える贈り物をどうしていいか分からない。


「これは、あれですね。私が陛下に気に入られているから、取り入ろうとしているのでしょうか」


 見上げる程の贈り物を見ても心は動かない。その裏にどれだけの人の怨念が込められているかと想像すれば、易々と手にして身につけられるものではない。

 陛下に現状を伝え、相談しましょう。


「……相談するってねえ……」

 私は頬に手を添えて嘆息する。これではまるで、父に相談するみたいだわ。


 その日の夜。早速陛下の寝所で私は話をもちかける。

「最近、贈り物が増えています。正直、どうしていいものかわからなく、仕方なく一室にため込んでいるのです」

「あけないのか」


 私は眉間にしわを寄せ、うーんと唸る。

「使えません。どなたのものを使っても、あっちが立たず、こっちも立たずとなり厄介そうです」

 陛下はふっと笑う。

「公には出ない私なら、華美な装飾も不要かと思います」


「ほう……、いらぬか」

「陛下からいただくものを身につけているだけなら角が立ちません。装飾品は見ていれば綺麗ですけど、お庭の方が好きです。自然物の造形美は安らぎます」


 陛下の肩に寄り添う。この頃の私は少し甘えることを覚えた。陛下の肌に頬を寄せ、息が降りかかるほど近づく。

「陛下と一緒にいても安心します」


 たまに名前で呼ばないことをたしなめられるものの、普通の会話では陛下と呼ぶことを許されてる。

「私には足場がありません。陛下がいなくなったら、私はどうなるのでしょう」


 私は目を閉じる。近頃は安心しきって、すぐに私は饒舌になり、本心を隠せなくなっていた。

「後ろ盾がありません。

 小国と大国は違います。私が知る国の治め方と、陛下がなさっている統治はきっと違う。父も私が巻き込まれても、最終的には国を選ぶでしょう。むしろ、選んでもらわないと困ります。


 他の妃の方がどんな方々なのかもわかりません。お茶会などされているのでしょうか。呼ばれたこともなく、皇后様と謁見する場もなく、ご挨拶に行くこともせず、安穏としている私です。


 安穏と構える以外、過ごしようもありません。


 私がこの宮に来た時、自分は献上された装飾品だと思いました。美しく磨かれて、陛下がご覧になり身につける。そんなものだと……」


 陛下が身を動かす。私の寄り添っていた私を包むように背に腕を回す。


「知らないとは、怖いことです。巻き込まれても、身を守れない」

 吐息を吐くように、つぶやく。


 この頃、私は少しおかしい。衣服を通して背を撫でる手が上下に動く。そのたびに、体がしびれた。少し前までは、撫でられるとほっとした。怖いことはないと安心し、ちょっと見上げれば優し気なまなざしに包まれ、微笑み返せば、夢心地のまま寝入ることができた。


 今は、顔をあげることができない。体が火照る。柔らかい寝具をつかんで、ぐっと口元に寄せて、漏れそうになる声を抑える。


 最初は装飾品だと自分を評した。陛下がお優しいとわかると、父といるような気になってきた。お話しする。寝る。繰り返していれば、私は娘になった。

 今は、とらえ方がわからない。背中を撫でられるだけで、満足し安心できた頃が懐かしい。


 今日もそのまま寝てしまう。


 この頃の私は、庭を眺めてぼんやりとすることが増えた。ため息が何度となく漏れる。窓辺にもたれて、風に揺れる草花を眺め、鳥のさえずりに耳を傾ける。


 陛下の伽の相手はあれど、褥はない。夜を共に過ごしても、誰もがうけているであろうと想像する寵愛は、片手落ちなのだ。


 私は娘のまま、子どものまま。陛下にとってはそれでいいのかもしれない。そう望まれているのなら、それに沿うが正しいだろう。

 陛下が選ばれる距離感を尊重しているなら私は正しい。妾としてただしい行為を選んでいる……はずだ。

 

 胸を張って、朗らかに過ごしていいはずなのに、悶々としてしまうのはどうしてだろう。


「こういうことは悩んでも答えが出ないのよね……」

 

 背後が急に騒がしくなった。侍女たちがざわめき、人の動きが激しくなる。私がゆっくり振り向くと、慌てて入ってきたルーシーが「姫様」と叫んで、慌てふためく顔があった。


 あまりの勢いに呆気にとられる。

「どうしたの」


 座る私の目の前で、肩で息を切らす。

「陛下が……、突然、陛下がお渡りに……」


 私は、はあ……と息ついた。そんなことねと安堵した。


「もっと大変なことかと思ったわ」

 もっと大変なことがなにか思いつかないまでも、陛下が来るぐらいなら想定内ね。


「お父様が遊びに来られたと思えばいいのよ」

 私はひらりと立ち上がる。

「どちらにいらっしゃるの」


「応接室にお通ししています」

 ルーシーは、私が淡々と受け止めていることに驚く。私は、そんな彼女に苦笑する。

「大丈夫よ。陛下は怖くないから……」

「なにをおっしゃいます。陛下ですよ」


 彼女の反応に私はもう一度ほほ笑み返す。侍女の反応こそ、正しい。陛下を敬いつつも、恐れおののく。粗相をすれば命はない。そう考える方が正しい。

 変わったのは私だ。

 

 毎夜寝所を共にして、恐れはとうに溶けていた。怖いなんてみじんも感じない。胸が躍る。私に会いに来てくれた。そう思うだけで、翼を得たように軽やかになる。自然と進む歩みが速くなる。


 応接室の扉を開く。 

 身なりを整えられた陛下が座していた。いつもの寝所にいるような無造作な髪でもない。皇帝らしく全身を豪奢な衣装で包んでいる。


 私は、膝まづく。

「ご機嫌麗しゅうございます」


「ソフィア、かしこまらなくていい。面をあげなさい」

 いつもの優しい声に、私はゆっくり顔をあげた。

 はたと陛下の後ろに人が立っている。


「お一人ではなかったのですね」

 後ろに立つ美男子に驚く。宮に陛下以外の男性が来られることはないと思っていたし、陛下以外の男性と会うのもどれほどぶりか分からないかった。


「ああ、これか……、まあ側近のようなものだ。気にするな」

 金髪碧眼の美男子はなにも言わず、一礼した。


「おいでソフィア」

 言われるまま、私は陛下のそばへいく。いつものように、隣に座り、陛下の方に身をひねる。陛下の腕が伸びて、私の腰を抱いて引き寄せた。


「……陛下」

 戸惑う私をさらに強く抱き、私の体は陛下の御身と密着する。

「人がいます……」


 見られていると思うと、羞恥心が立つ。寝所でもあまりされないことにドキドキした。


「気にするな。今日は見物に来た」

「見物」

「噂の差し出された贈り物の山を見たい」


 意図が読めなくても、私はその部屋を陛下へと案内した。


 贈り物の山を見られた陛下は、「うむ」と顎に手を当てた。

 従者の方は瞠目した。 

 

「どうしたら良いものか迷っています」

 正直な感想を述べると、陛下が私を抱き上げた。バランスを崩すのが怖くて、ぎゅっと首筋に抱きつく。


「ソフィア。お前は本当に賢い娘だ」

 娘という単語に、ずきんと胸が痛んだ。

 

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