続続続29話 青龍です。<頼もしい>
グラグラと沸騰する怒りとともに私の魔力が高まる。
そうだ、あの娘は「ミシル」だ。「ヒロイン」ではない。
「私」が「生粋のサレスティア」でないように。
私だって勘違いをした。
でも、それを正したのはミシル自身だ。
彼女は、彼女として充分に魅力的な娘だ。
だから、私は、ミシルと友達になりたい。
私の魔力がうねる。
それでもマークは私を青龍から庇う位置にいる。顔色は変わらず青いし、切り傷だらけで血が滲んでも青龍を向いたまま。
亀様が生徒たちを転送した。きっと他の生徒の避難先へ。ありがとう!
学園が纏う、学園長や魔法使いたちの結界に重ねて、亀様の防護結界も展開される。
今、結界の中にいる人間は私、マーク、ルルー、そして倒れたままのミシル。
「マークはルルーを」
そう言って前に出る私。
青龍の魔力が更に高まる。
青龍の怒りに合わせてなのか、どんどんと空間がおどろおどろしい物になっていく。
それを感じて、私の怒りのボルテージもどんどん上がる。
怒りに合わせて具現化したハリセンが金色に輝きだした。
こんな。
こんな、立つのも辛い魔力を抱えて、三年も過ごしたのか。
誰も怪我をしないように、友達も遠ざけて、たった一人で。
いつ目覚めるかわからない、突然朽ち果てるかもしれない母親だけを頼りに。
《ノエルは、我の物だァァ!!》
結界の中で稲妻が縦横無尽に暴れる。鍛練場の地面は割れ、壁は抉れた。轟音の中でパリン!と誰かの結界が割れていく。
光のかまいたちが制服の端を切り裂く。亀様ガードを貫通するのか!
両腕で顔を隠しながらマークとルルーを振り返ると、私に笑う二人にも小さな切り傷ができている。
怒りでこめかみの辺りがピシリと鳴る。
《落ち着け、サレスティア》
「亀様は学園が壊れないように結界を!」
《承知。お前たちの守りも強くする》
「ありがと! アイツ、好きに暴れやがって!!」
《・・・落ち着け》
ピカッ!!
分散していた稲妻が一つになってこちらに飛んで来た。さっきの亀様のように、逸らすために水と風を発動。間に合え!
「お嬢!!」
マークとルルーが盾になろうと動く気配がした。
絶対させるか!
水につられて稲妻が少し動いたが、大き過ぎる!
くっそ!土壁! あとはハリセンで打ち返してやる!
マークとルルーだけには当てない!
その時、光に何かの影が飛び込んだ。
ウオオオォォォオン
ガァアアァァァアア
獣の咆哮が聞こえた瞬間、光が霧散した。
目の前には、白い獣、黒い獣、そして、白と黒の縞模様の獣の後ろ姿があった。
「え・・・なんで・・・?」
《主の危機には参じると言ったはずだ》
《青龍か、また厄介な相手と正面切って立つとはな》
《姉上、無事か?》
キョロッと白虎だけが振り返る。その姿は私よりも大きい。もう抱っこどころの大きさではない。
「何でそんなに大きいの!? サリオンは!?」
《サリオンはベッドで寝ているぞ。シロウとクロウから魔力を分けてもらったから大きいのだ。カッコ良かろう?》
ふんスーと鼻を寄せて来たのでとりあえず撫でた。大きくなってもゴロゴロとのどを鳴らす。
《姉上、我らを好きに使って良いぞ~!》
コトラの表情だ。コトラだ。虎なのに。・・・ふふ、変なの。
よし。
「助太刀感謝する! シロウとクロウはマークとルルーとミシルを守り! 白虎は私を青龍のそばへ!」
《《《 承知! 》》》
風の魔物たちは飛んで来る光を危なげなく避けて進む。あちこちと移動してるはずなのに、全然振り回されない。
視界いっぱいのたくさんの光の刃に全く恐れない。かすった所で怯む隙もない。
ああ、頼もしい。皆頼もしい。
轟音の中、稲妻が当たっても、人混みですれ違う誰かと当たる程度の衝撃と、静電気のような痛み程度なのを亀様に感謝しながら、最後、青龍に向かって真っ直ぐ。
そして。
白虎の背から飛び出し、ハリセンを振りかぶった。
「こンの!! ストーカー野郎があああ!!!」
縦一閃。
青龍の顔がひしゃげた。勢いがつきすぎて一回転する私。
「好きだというなら!ちゃんと!見ろぉおっ!」
一回転した勢いに任せ、今度は右へ横一閃。
青龍の顔が右に動く。
「最期を看取ったと言うのならぁっ!」
横一閃。
左へ。
「それほど愛したのなら!! ちゃんと見ろおおォオ!!」
ドガガァアアアンン!!!
両手で上から下へ振り抜いたハリセンに合わせて、青龍は、地面にめり込んだ。
その場所にいたミシルは、離れた所でルルーに抱かれてマークたちに守られている。
意識の戻らないミシルに、私のどこかがまたキレる。
『ノエル』とは誰だ?
どこがミシルと似ている?
その『ノエル』も、
オマエハ、ボロボロニ、シタノカ・・・?
ナラバ、モウ、サセナイ、・・・トドメヲ・・・
「駄目だよ」
静かに昂る私の前に、黒い人影が立つ。
「またそんな顔をして」
優しい、聞き慣れた、声。
伸ばされる、手。
頬に触れる、手。
アンディの手。
「もう大丈夫だよ」
私と目が合うと、にこりとそう言って、ふわりと私を包む。
私の、心臓の音がする。
アンディの心臓の音もする。
・・・あぁ・・・
アンディの服を掴んで、目を、閉じた。
お疲れさまでした。
すみません、まだ引っ張ります!(T△T)
次話、早目に出せるように頑張ります。




