続27話 ヒロインです。<臨時休講>
「え、母親を置いて来たんですか!?」
「まずそこか。ちゃんと連れて来ておるわ。ワシの自宅に安置しておる」
学園長も一応貴族籍を持っているのでお屋敷がある。
「連絡もせずに勝手に連れ帰ったものじゃから、部屋を片さねば安置できんじゃろうと侍従侍女全員徹夜で客間を片付けた。ほぼ物置状態じゃったからのぉ、久しぶりに怒らせたわ」
・・・侍従さんたちお疲れさまです。
「その母親は、やはり亡くなられているのですか?」
ルルーが切なそうに聞く。
「どう見ても死んでおるのだが、全く朽ちぬ。保存の魔法なのだろうとは思うが、それが掛かるのならばやはり、亡くなっているという事になる」
生きているものに保存の魔法は掛からない。
人間、動物はそうらしい。野菜等、植物は平気なのに。
「竜神の力だとしても、どういう事が起こったんだろう・・・?」
「海の魔物などたくさん居るが、竜神と言ったとてドラゴン系とも限らん。村の者も誰も正体を知らんし、魔物の性質の全てをワシらが把握してる訳でもない」
あ、そか。
「ギルドの要請で行ったのじゃが、担当の支所でも竜神についての記録が残ってなくてな。杜撰な事に困ったもんじゃ」
どこでもあるのね~。
《サレスティアの言うように、娘自身の体力も必要だ。あんなに痩せていては魔物が抜けた後に倒れてしまう》
よし、郷土料理を調べようっと。故郷の味で攻略だー!
とにかくまともな挨拶のやり取りから!
と思ったのだけど、次の日、一年魔法科は臨時休講になりました。
ミシルと亀様の魔力にあてられてクラス全員が具合を悪くしたらしい。特にお貴族子息たちがうるさく訴えたとか。やれやれ。
魔法科は休講だけど他クラスの見学をしても良いとの事だったので、騎士科と侍女科を覗いてみることに。
ミシルも誘おうと保健室に寄ったけど、安定のお断り。本人もだし、学園医のマージさんからも。
ですよね。一番のダメージだったもんね。
ルルーの丁寧な洗濯により綺麗になった制服を置いて、また後でね~と保健室を出る。その時「迷惑かけてごめん」と小さく聞こえた。
振り返らないように頑張って扉を閉めた。今一気に距離を詰めてはいけないと、マークとルルーにがっつり言われたのを何とか守った。
ミシルの顔色は今までになく良かった。
ホッとした。
申請はしていたので今日からマークは騎士科、ルルーは侍女科に出席している。
まずは侍女科へ行ってみた。今日はさっそくお茶の淹れ方を実践しているらしく、それぞれに茶器を持ち、自分で淹れたお茶を飲んでいた。そして教師がそれを味見していく。
お嬢様方はほぼ経験があるらしく、まあまあですねと評価されていたが、平民の娘さんたちは散々だった。酷評とまではいかないが優しく注意を受ける。
まあ、お貴族様には安い茶葉でも平民には高級品を使っているし、茶器が見るからに高価そうだから緊張するよね~と、心でフォロー。
ルルーはすでに侍女なので出席と言っても見学しかできないというのが基本。担当教師の承諾があればその時間は参加できるというスタイルらしい。
意味が無くない?と聞けば、たくさんの作法がありますし、カシーナさんが自分の作法は時代遅れではと心配していたのでその確認をしたいのですと言った。
あぁなるほどね~。夫人やお妃様たちが何も言ってないからそんな心配は無いと思うけど、社交してないから不安になるのか。
どうやらお茶の淹れ方はそう変わらなかったらしい。ルルーは教師に確認を取って平民娘たちの所でお手伝いを始めた。失敗した物の片し方を一緒に実践した後に、再度お茶を淹れる。
教師の説明をルルーが丁寧になぞる。二度目の説明は落ち着いて聞けたらしい娘さんたちは、さっきよりはだいぶ美味しく淹れられたようだった。良かった良かった。
他にも見学侍女はいたけれど、皆、自分のお嬢様たちのお手伝いに行きました。・・・まあ、それが貴族社会よね。
マークの所では国史をしていた。騎士科なんて体を鍛えるだけかと思っていたらやるのね!学科!
まあ、戦争が無いなら騎士はそんなには必要無いからね~。アーライル国の場合はハスブナル国に備えてだもの。あそこが落ち着いてくれればだいぶ平和になるのにな~。
魔物もいるから冒険者にシフトチェンジするにしても、国々の大体の情勢は学んだ方がいい。
侍従で見学しているのはマークだけ。一人見学か~寂しそう。
とか思っていたら、あっという間に実践の授業のために鍛練場へ。寮より更に広い鍛練場だ。
運動着(ジャージではなく道着生地のTシャツ、ハーフパンツの様な服。丈夫。)に着替えて準備運動、ランニングを終えると、剣の型に添った構えの統一から、貴族子息たちの実践へ。
模擬刀で打ち合うお坊ちゃんたちを見学する平民少年たち。彼らはほぼ、剣を持つのも初めてだけど、そこは男子。うずうずしている。でもこの様子では坊っちゃんたちの指導だけで終わりそうだな~。
そしたら同じく見学していたマークが担当教師に何か言って、少年たちを鍛練場の隅へ誘導し、一人ずつ相手を始めた。体術だ。
一通り説明をしたら私と目が合い、手招きされたので近寄れば、空気クッション出してと言うので出してあげた。
ここでもぶん投げ会が開催され、今度はマークも体の動きを教えるために投げられる。少年たちは二周するとコツを掴んだのか、彼ら同士でするのを横からマークが指導している。
・・・・・・あれ、ここ領地だったっけ?
目をこすった。
「ここは剣を学ぶ場だ。何をしている」
ドキッとした。
静かに威圧するような声がしたので振り向くと、シュナイル第二王子殿下がクラスメイトと思われる集団を率いていた。
私を睨んでいる。
・・・うわ~、初めて目が合った。
「はい。本日一年魔法科が休講となりましたので見学をさせていただいております」
礼をしつつ答える。出入り口で邪魔をしているのは私なので大人しく下がる。これから三年生の時間ですか、どうぞどうぞ。
「あれは貴様の従者だろう。騎士科の者に剣を持たぬ者は要らん」
「はあ?」
淑女らしからぬ言葉が出た。
色めき立つ殿下の取り巻き。目を細める殿下。
「貴様、殿下に向かってなんという口のききかただ!」「田舎者は礼も知らんのか!」「無礼者!」「剣を扱えぬ奴など連れ帰れ!」等など。あ~ハイハイ。
「黙れ烏合の衆」
ニヤニヤと罵倒していた奴らが、一拍置いて怒りで真っ赤な顔になる。
「貴様、何様のつもりだ」
シュナイル殿下がさっきよりも低い声を出す。
「下らない事を言う方々に相応の言葉を掛けましたが、何か?」
「何様のつもりだ」
「入学して三日目のぺーぺーの新入生です!」
テヘッ。とやってみたら殿下のこめかみに青筋ができた。烏合の衆はどす赤くなった。わっはっは。
「・・・己の立場をわかっているのか」
「ええ。ちょっと口調が崩れたくらいで皆様にあそこまで責め立てられるとは驚きましたし、今時剣が無ければ騎士ではないと言う人間がいるとは! 騎士科は! どうなって! いるんですか、」ゴスッ!!
「何ケンカ売ってんだーっ!!??」
マークに拳骨を落とされた。
「ぃったあーーっ!!? あんた今思いっきりぶったわね!?」
「ぶつわーっ!! どういう理由でこんな派手にケンカ売ってんの!? 誰彼構わず止めなさいよって言ったでしょうが!! 先輩相手とか、もっと我慢せんかい!!」
「だって、剣を持たない者は騎士科には要らんて言うんだもの! そんな時代錯誤な事をしゃあしゃあと言う先輩がまさかいるとは思ってなかったのよ!」
マークが特大の溜め息を吐いた。そして、殿下に頭を下げる。
「この度は、主が大変な失礼を致しました」
「ちょっと!何でマークが頭を下げるの? 私と先輩方の問題でしょ!」
「主が失敗したなら止められなかった従者は重罪だ! 大体な、騎士云々についてはうちが独特なの。よく言うだろ? よそはよそ、うちはうちって。そういう訳で先走ったお嬢が悪い。謝りなさい」
ぐぬぬぬ・・・!
「謝る」
頭を下げたままマークが畳み掛ける。くっ・・・
「そんな事で収まるか!お前!私と勝負しろ!」
烏合の衆の一人が前に出てきてマークに指を突き付けた。
「こいつがあれだけ言うのだ! 相当な腕なのだろう? お前に剣を操る素晴らしさを教えてやる!」
そうだそうだと騒がしくなった。
「・・・・・・ほら見ろ、面倒な事になっただろ・・・」
マークがうろんな目で私を見る。
わ~っはっは、ごめん!
「たかが従者風情が頭を下げたからと許されると思うなよ!」
カッチーン
「だったら私が相手してやんよ!! たかがとうちの従者を見下す器の小さな男が我が国の騎士など! 恥ずかしくてこっちの顔が上げられないわ!!」
「馬鹿あああっ!?」
「私のケンカだから! 見届けなさい!」
「女の子がケンカを売るんじゃありませんっ!?」
「その女の子に向かって大勢で紳士らしからぬ態度を取ったのは先輩方よ!」
「だからって魔法使いが騎士にケンカを売るな!」
「はあ!? こんな奴魔法を使うまでもないわ!」
「どういう理屈でそんな言葉が出てくんのか説明しろおおおっ!!」
「はっ! 魔法使いが魔法無しでどうやって騎士に勝つと言うのだ! 寝言は寝て言え!」
「あんたらみたいな学生騎士なんて、一対一なら魔法がなくたって勝てるって言ったのよ!」
「そこまで言うのなら、俺が相手でも構わないんだな?」
殿下が一歩前に出た。その目は冷たい。
全然へっちゃらですけどね!
「望むところよ。その鼻っ柱叩き折ってやる」
「お嬢が言われる立場だよっ!?」
「マーク! あんたは私の大事なお付きよ! ドンと構えてなさい!!」
「・・・はぁ~~ぁあああもう!!・・・シュナイル様は剣聖の再来かと言われてる人だ。素早いぞ」
ありがと!




