続9話 友情です。<新たな子供たち>
ノックをして扉をそっと開けると、ナタリーさんが赤ちゃんを寝かしつけていた。すぐそばにはサリオンが寝てる。
「今夜はお嬢様がサリオン様と寝られますか?」
「そう思って来たのだけど良いかしら? 嫌がるなら離れるけど」
寝ついた赤ちゃんを起こさないように、お互い囁き声でやり取りする。
「良いも嫌も・・・本当に全く泣きませんでした。一応、時間を見て、パンがゆを召し上がっていただきましたが、おしめが濡れていてもピクリともしませんでした」
「そう・・・見ててくれてありがとう」
「とんでもございません。首は据わっているようですから、明日からおんぶして散歩に行こうかと皆で話し合っていました。よろしいでしょうか?」
「じゃあ私がおんぶしちゃ駄目かな? 疲れたらすぐに降ろすから」
「サリオン様をおんぶして、亀様を抱っこするのですか? フフ、可愛いですね」
あー、亀様には飛んでもらおうかしら。
疲れたらすぐ降ろすのを条件に、日中は私がサリオンをおんぶすることに。
コンコンコン。
やっぱり控えめなノック音。扉を開けたのはラージスさん。奥さんのナタリーさんと子供を迎えに来たようだ。
この夫婦も新婚棟に入居してもらった。希望する夫婦に住んでもらって、使い勝手の改善点を知りたくなったのだ。住めば都とは言うけれど、良いものを作っていきたい私と親方たちの意見が一致した結果の措置。今のとこ特に不便は無さそう。
子供部屋なんて無いのが当たり前の世界で、15才で自立し始めるために広い家なんてのは殆んど無い。子供部屋があるのは貴族や豪商くらいだそうだ。
アパートタイプで丁度良いのかもしれない。
「ははっ、寝顔がそっくりですね」
囁き声でラージスさんがサリオンを覗きこんで言う。
「お嬢様の小さい頃を思い出します」
ナタリーさんは私が産まれた頃から屋敷にいたんだっけ。彼女は地元出身の侍女だ。
「じゃあお嬢、また明日。潰さないように大人しく寝て下さいね」
「寝てるときの大人しさには自信があるわ」
トエルさんにさえそう言われたからね!
肩を震わせながら我が子を抱っこしておやすみなさいと出ていくラージスさんとナタリーさん。明日もよろしく。
サリオンを挟んで私と亀様がベッドに並ぶ。
寝顔を見る。可愛い。
「何に憑かれているかわかる?」
《力が小さくてよく解らん。やはり嫌な感じは無いから、悪いものではないだろう》
あれ、もしや、私のような感じかしら? 生まれ変わり的な?
「ねえ、私と似てる?」
上手く説明出来ずに漠然とした質問になってしまった。
《兄弟なのだろう? 血の繋がりはわかるぞ》
「うん、まあ、そうなんだけど・・・」
《どちらかと言うなら、憑いているものは我よりだな》
え。ってことは?え?
「体はサリオンだけど、中身は魔物ってこと?」
《いや、二種の気配がある》
ん? どういうこと?
《例えば、魔力枯渇を起こして存在が極小さくなってしまった魔物が、生きることに気力の無いサリオンの体を借りて、自分の魔力の回復を待っている。魔物が人に取り憑くのには、人がそう望んだか、そういう隙をつくかしなければならない。無理に合わせると異様になってしまう。赤子とは、どんな生き物でも守られる者だ。たまたま近くに居たサリオンに入ったのだろうな》
「じゃあ、その魔物がサリオンから離れれば、サリオンは普通に育つ?」
《それはわからん。今のところ、サリオンという存在も微弱だからな》
「亀様の魔力を流せば、早く魔物は回復する?」
《そうかもしれない。随分と小さなものだからお前の時より微弱にしなければならないだろう。時間がかかるぞ》
「・・・お願いします。何でも頼んでしまってごめんなさい」
《かまわない。我の出来る事だ。任せろ》
起き上がり、亀様をぎゅっと抱きしめる。
ありがとう。
形を整えて、またサリオンの隣に並べる。
サリオンにおやすみのキスをして、私の手にサリオンの手を乗せる。
「おやすみなさい、亀様、サリオン」
《うむ。おやすみ》
***
それから私の背には亀様に代わりサリオンが。亀様はキーホルダーサイズになって、サリオンの背中にあたるおんぶ紐に固定。ちょいちょい潰してはゴメン!と騒ぐのを繰り返す。ぬいぐるみ亀様はちびっこたちの背中を転々としている。
私が背負うのが一番長いけれど、サリオンもたくさんの人に代わるがわる背負われた。誰彼構わず子供を抱きしめるのはスラムの子たちにも適用された。お母さんやお姉さんに抱きしめられるのは照れくさくても大人しくしているが、オッサンたちにやられると悲鳴が響くのにはびっくりした。
急遽、オッサンたちは求められたら抱き上げる、それまでは頭なでなでまで!となった。やはりまだ力のある大人の男が特に恐ろしいらしい。こっちに移動直後まではそれどころじゃなかったってことか。むぅ、要課題である。
そんなでも体を鍛えることに男子たちは興味津々だった。うん、思う存分やらせるよ。まずは飯を規定量は食べること。ドロードラング規定ね。
女子はやっぱり刺繍に興味を示す子が多かった。機織りや染織も真剣に見てたな。
朝食の野菜お粥を食べ、避難用のホバー荷車(車輪が無くても荷車って、笑)に子供たちを乗せ、今日は領地見学。マーク、ニックさん、トエルさん、ザンドルさん、バジアルさんがお供です。
畑、田んぼ、牛小屋、鶏小屋、騎馬の民の馬に羊。木材や鉄鋼等々の資材置場。溜め池、水路の説明。規模の大きくなった大蜘蛛飼育場ではやっぱり悲鳴。
森の際を移動中に大豚が現れ、ニックさんとマークがボコボコにやっつけた。私が魔法を使おうとする間もなく終わってしまった。食材ゲット~! その後も何故か大イノシシが出て、魔法を使う隙もなく大人達がやっつけた。今度はさすがに五人がかりだったけど、あっと言う間に終わった。
・・・私、棍棒に強化の魔法を掛けてたかしら? 蹴りとか、漫画みたいな威力がありそうだけど? ・・・うちの戦闘職はどの程度のスペックなのか調べた方がいい?しない方がいい? 魔物狩りでだいぶ慣れたってこと? ・・・うむ!魔物狩りに特化されたということでスルー!
なんか子供たちの大人たちを見る目が少しキラキラしてるようだけど、わざとじゃないでしょうね? 変な宗教は作らないでよ。
そして真打ち登場! うちの亀様本体です! ジャジャーン!!
《よく来た》
子供たちは全員気絶した。
・・・あれ?
「・・・まあ、普通の反応ですよ?」
「・・・こうしてみると、領地の子供たちも大概なんだな~」
「我らが騎馬の国の子供らも、遊ばせてもらってから慣れた」
「大蜘蛛も大豚も大イノシシも、よく気絶しなかったと思った」
《まあ、予想はしていた》
あれ?これから亀様すべりをしようと、ソリも準備してたのに。その後にジェットコースターに乗る予定だったのに。
「今日は無理ッスね」
《我を見て向かって来たのはサレスティアだけだ。何でもお前基準で考えるな》
皆がしみじみと頷く。
あれぇ?・・・あれぇ??




