16-30女神の部屋
女神エルハイミにより正気を取り戻したエルフの双子姉妹リルとルラ。
秘密結社ジュメルの野望に操られ加担していたが、女神によりその正気を取り戻す。
そして自分の犯した罪に後悔しながらも前に進もうとするリルとルラ。
果たして彼女らはどうなるのか?
そんなエルフの双子姉妹、リルとルラの物語です。
私たちは神殿にいるエルハイミさんに会いに行く。
「あ~、まず最初に言うけど、何を見ても驚かないように。それとこれから見る物は他言無用でお願いね。正直に言うけど、女神と思わなくてかまわないから。一人の妄想豊かな女の子とでも思ってくれると助かるわ……」
私たちをエルハイミさんに会わせるためにシェルさんは先を歩きながらそんな事を言い出す。
何それ?
エルハイミさんが少しおっとりしてはいるけどそんなにティアナ姫の事で荒れているのかな?
あの顔からは想像もつかずにシェルさんたちについて行く。
正直こう言われると、あれだけ強いエルハイミさんだからヒステリーでも起こして部屋の中がめちゃくちゃにでもなっているのかもしれない……
「ル、ルラ、万が一の時はお願いね。この中で唯一エルハイミさんに対抗できるのはルラのスキル『最強』だけなんだからね!」
「ん~、あたしまたエルハイミさんと戦うの? でもお部屋の中でしょ、そんなことしたらこの神殿が壊れちゃうよ?」
そりゃぁ、戦わないに越したことはなない。
しかし、万が一エルハイミさんの虫の居所が悪く、些細な事で爆発でもされたら止められそうなのはルラくらいだ。
「……その心配はないでしょう。むしろお母様の人には見せてはいけない姿を見る羽目になると思います」
だがコクさんは軽くため息を吐きながらそう言う。
まさか更に凄い事になっている?
ごくっ
私は思わずつばを飲み込みながらアインさんに聞く。
「ア、アインさんは知ってるんですか? エルハイミさんがどうなっているか??」
「いや、俺も知らん。と言うか、俺もあまり女神様とは直接会っていないからな。何か有るとシェル様が俺と連絡を取ることが多い」
アインさんはそう言ってシェルさんについて行く。
私はさらに緊張をするのだった。
* * *
「着いたわ。今ここにエルハイミがいるわ。さっきも言ったけど、今のエルハイミの姿は他言無用、女神と思わなくてかまわないからね」
シェルさんはそう言って扉に手をかける。
一体この先に何があると言うのだろう?
緊張に私たちはその開かれる扉の先に注視すると……
「ん~♡ ティアナぁ~ですわぁ~♡」
そこには部屋中ピンクを基調とした赤髪の女性のグッズで埋め尽くされていた!!
部屋の真ん中、大きな抱き枕に服がはだけたエルハイミさんがベッドの上で抱き着きごろごろしている。
「あ、あの、これは……」
「うわぁ~、赤い髪の毛の女の人ばかりだぁ~」
「これは…… ん? あれはあの時のティアナ姫の肖像画か?」
よくよく見ると、部屋には髪の毛は真っ赤ではあるが、みなナイスバディ―で胸の大きな女性たちの肖像画や、ぬいぐるみ、抱き枕にフィギア、タペストリー、銅像らしきものや写真らしきものまである。
「くふふふふふ、今度はあの時のティアナですわぁ♡ サティアの時はうなじが弱かったのですわぁ♡ ん~ちゅっちゅっ!」
エルハイミさんは今度は別の赤髪の女性のぬいぐるみに抱き着き、首の辺にキスをしまくる。
そしてはぁはぁ言いながら抱き着いてまたごろごろしている。
「はぁ~、好きなもの持ち込んでいいいからここで大人しくしろとは言ったけど、まさか天空の城からティアナグッズ持ち込むとはねぇ」
「我が迷宮の奥底にあるコレクションも一部持ち込んでいますね。ああ、あの時の赤お母様のグッズまで持ち込んでいるとは」
ヤリスの部屋を思わず思い出していた。
いや、エルハイミさんの血を継いでいるのだからヤリスがエルハイミさんに似ているのか……
エルハイミさんは私たちが来た事なんかまったく気づかずに他人には見せてはいけない姿でゴロゴロぬいぐるみを抱きしめている。
「はぁはぁ、もう我慢できませんわぁ♡ サティアの時のティアナをいただいちゃいましょうかしら?」
そう言いながらエルハイミさんは服を脱ぎ始める。
「ちょっとちょっとエルハイミ! やめなさい!! 他に見ている人がいるんだから!!!!」
流石に何かいけなことをしようとする雰囲気を感じ取ったシェルさんが慌てて声を上げてエルハイミさんを制止する。
「ほえ?」
エルハイミさんは胸をはだけて、だらしない顔でよだれを垂らしながらこちらに振り返る。
美少女であるのは言うまでもないけど、見た目の年齢にしてはやや胸が大きめなのがうらやましい。
たゆんと揺れるそれはピンクの先端が見えてしまっていて、アインさんは慌てて後ろを向く。
そして初めて私たちが来ている事に気がついたようだ。
「なななななななっ、何なのですのぉっ!?」
思わず手で胸を隠しながら女の子座りで悲鳴を上げるエルハイミさんだったのだ。
*
「んんっ、く、来るなら一言先に言ってほしかったですわ。見苦しい所を見せてしまいましたわ」
あの後、エルハイミさんはひと騒ぎしてシェルさんとコクさんになだめられながら一瞬で部屋の中を片付け、ソファーとテーブルを出してクロエさんたちにお茶を出してもらった。
「いや、ティアナ姫が好きだって事は分かりますけど、何だったんですかあれは?」
「むむむっ!? 気になりますの? でもあげませんわよ、あれは私の大切なコレクションなのですわ!!」
いや、いらないって。
と言うか、あれもしかして全部ティアナ姫の転生してた人たちのグッズ?
「でもすごいよね~、棚に飾ってあった人形とかみんな鎧とか着ていてかっこよかったよね~」
「はっ!? 分かりますの? ティアナの転生者たちはそれはそれは凛々しくて、転生するごとに装備を変え、道具を変え私と共に世界の安定を担ってきたのですわ! そしてその雄姿をフィギュアで飾り眺めると、もう、もうそれだけで私、じゅん♡ っと来てしまいますわぁ♡」
いやいや!
そこで発情しないで!!
何この女神!?
いや、駄女神の元となったのがこれだから「あのお方」もエルハイミさんの姿を借りると駄女神になってしまうのか!?
思わずこめかみに指をあててしまう私。
そりゃぁ、いくら凄くてもエルハイミさんが完璧な女神様だとは思ってはいなかった。
それでもみんなに慕われる位には凄い人と思っていたのに!
「女神様、ここで見た事は他言無用ですぐに忘れるので……」
アインさんはそんなエルハイミさんを気遣ってそう言うけど、忘れたくたって忘れられそうにないわよ、アレ。
「そうしてくれますと助かりますわ。それで、今日はどんな御用ですの?」
ティーカップを置いてエルハイミさんは小首をかしげながら聞いてくる。
ドクン!
誰の心臓音かは分からないけど、心臓が高鳴った音が聞こえた。
いよいよエルハイミさんにあの事を提案しなければならない。
「エ、エルハイミ。実はナディアの子供が生まれてね……」
シェルさんは言いにくそうに話を始める。
「生まれたのですの!? では、もう我慢せずにティアナに会いに行っても良いのですわね!?」
「お母様、落ちついてください。赤子もまだ生まれて二日目、もうしばらく間を置いた方が母子共に良いかと」
目を輝かせるエルハイミさんにコクさんがそう言うとエルハイミさんはショボーンとなる。
「それは……分かってはいますわ。でもやっと生まれたのですわ。せめて少し会うだけでも駄目ですの?」
「あー、女神様、それで何だがな……」
アインさんは言いにくそうに話し始める。
「ジルの村もお陰様でだんだんと安定を始めている。生まれる子供もほぼ元気に育ち始めている。勿論そのほとんどが転生者だが、それでも村としては子が生まれる事は大歓迎で、良い事だ。ただ、女神様に大恩はあるが子供の事を思うとナディアに会うのはもうしばらく待ってもらいたい。そして……」
アインさんはそこまで言って一旦言葉を切る。
「ナディア、いや、ティアナ姫の転生者の事を今世ではあきらめて欲しいのだ」
アインさんのその言葉にこの場の空気は凍り付くのだった。
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うちの嫁さんの父親が病院に行く事となり、介護等で忙しくなり小説を書いている時間が取れそうにありませんので。
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