15-14魔物
故郷のエルフの村へとやっと帰って来たリルとルラ。
しかしその特有のチートスキルが危険視されてエルフの村の長老から修行してくることを言い渡される?
さあ、魔法学園ボヘーミャに留学する事になっちゃったけどこの後どうなるか?
そんなエルフの双子姉妹、リルとルラの物語です。
広場の方から大きな音がしてきて私たちは慌てて駆け出していた。
「おね姉ちゃん、あれっ!」
ルラが指さす方を見ると、建物の間からちょうど連合軍の「鋼鉄の鎧騎士」が空中へと跳ね飛ばされている所だった。
ちらっと見た感じではアイザックさんじゃない。
でも広場で始まった戦闘に既に連合軍の「鋼鉄の鎧騎士」が劣勢に追いやられている事は容易に理解できた。
「急ぐわよリル、ルラっ!」
ヤリスはそう言って「同調」を始め風のように駆け出す。
「あたしは『最強』!」
ルラもそれを見てチートスキルを発動させ、ヤリス同様風のように駆け出す。
流石にそれに追いつく訳もなく、私とコルネル長老は息を切らせながら広場に向かうのだった。
*
どっか~んッ!!
「うわっ!」
私たちが広場に着いた時にちょうど目の前に空から「鋼鉄に鎧騎士」が落ちて来ていた。
そりゃぁ建物の間を抜けていきなりそんなモンが空から降ってくれば驚く。
私は思わず一歩引いてから広場の様子を見る。
「はぁっ!! 三十六式が一つ、ランスっ!!」
「アイザックさんっ! ユカ父さん!!」
見れば広場の中央にまさしくラミアみたいに上半身は女性、下半身は鱗の無い蛇のような魔物がいた。
その魔物はアイザックさんの「鋼鉄の鎧騎士」の右腕を切り裂き、ユカ父さんの攻撃をものともせずヤリスの攻撃を弾き飛ばしていた。
「なっ!?」
そのあまりにも破格な強さに私は思わず絶句するとともにその魔物の正体に気付く。
「ヤツメウナギ女さんっ!?」
そう、それは水上都市スィーフで田ウナギ事件が起こった時に太古の眠りから目覚めたヤツメウナギ女さんだった。
しかし形状が違う。
あの時は人と同じような姿だった。
確かに女性的フォルムで全身ぬめった肌だったけど、今みたいに下半身がウナギでは無かった。
それに体が大きく成っている。
あの時よりも一回りも二回りも大きく成っているし、手から生えている爪は凶悪な形状で長くなっている。
『くそっ、ここまで早いとは』
「ちっ、肌がぬめぬめして攻撃が滑る!」
アイザックさんは大きく下がって体勢を整え、ヤリスは攻撃を弾かれルラの横まで下がって構える。
「リル、ルラ! 助かりました。この魔物は一筋縄ではいきません、既にほかの『鋼鉄の鎧騎士』は全て倒されました」
「ユカ父さん! その傷!! 【癒しの精霊】よ!!」
アイザックさんとヤリス、ルラが間合いを取っているとユカ父さんがこちらにやって来た。
しかしユカ父さんはケガをしている。
私は慌てて【癒しの精霊魔法】を使ってユカ父さんの止血をする。
「想像以上でした、あの魔物のスピードは。分かれた私を同時に撃退するほどとは……」
「ユカ父さんでさえ歯が立たないのですか!?」
それは驚きだった。
ユカ父さんの二人に分かれるスキルは、どちらかが無事ならもう片方が最悪死んでしまっても問題が無い。
しかし同時に両方がダメージを喰らうとそれには対応しきれない。
そんなユカ父さんを二人同時に攻撃できるとは……
「あら、リルさんにルラさんじゃないですか。お久しぶりですね」
聞こえた来た声に顔を向けると中央広場の奥にある教会の屋根の上にイリカがいた。
その顔はにたりと笑っていて、以前見たイリカとも雰囲気が違う。
「イリカ! あなた一体どう言うつもり!?」
「うふふふふ、いえねぇ、ジュメルのお仕事が入っちゃって仕方なしにサージム大陸まで来たんですが途中に面白い方とお知り合いになりましてね~。これで支配したらなんとその人って太古のヤツメウナギ女さんで『女神戦争』で女神の血を吸っていたらしいのですよ~。おかげで色々と試せましたけどね」
そう言ってイリカは右手を掲げる。
その手の中指には真っ赤に輝く宝石がついた指輪があった。
「賢者の石!!」
「あら、流石にリルさんたちは知っていましたか? そう、我がジュメルの傑作『賢者の石』ですよ。まあ、本物と違いずっと使える訳じゃないんですけどね」
そう言って手をくいっと上げるとヤツメウナギ女さんがイリカの前まで来て顎の下から顔を持ち上げ、あの三角のギザギザのついた歯が沢山のある口を開いて雄叫びを上げる。
『ぐろぼぁああああああああぁぁぁぁぁっ!!!!』
「ヤツメウナギ女さん!!」
雄叫びを上げて両の手を広げ私たちを威嚇するヤツメウナギ女さん。
私の呼びかけに全く反応しない。
「うふふふふ、無駄ですよ。彼女の状態は怨敵である女神を倒す為に私の見せている幻に取り付かれています。しかし素晴らしい、女神の血を吸ってあなたたちの作った連結型魔晶石核のおかげでその力が増しました! 『鋼鉄の鎧騎士』も全く相手にならず。素晴らしいですよね」
そう言いながら笑うイリカ。
ヤツメウナギ女さんは完全にこいつに操られているのだ。
「このぉっ!!」
そんなイリカにヤリスが飛び込む。
しかし一瞬でヤツメウナギ女さんが間に入ってヤリスを弾き飛ばす。
「ヤリス!」
「あたしは『最強』!!」
弾き飛ばされたヤリスに駆け寄る私をフォローするかのようにルラがチートスキル「最強」を使ってヤツメウナギ女さんに飛び掛かる。
「ヤツメウナギ女さん、目を覚まして!」
ルラはそう言いながらヤツメウナギ女さんに拳を叩き込む。
しかしその皮膚はぬめっていて攻撃が滑りダメージにならない。
ぶんっ!!
がっきーんッ!!
「くっ!」
ルラの攻撃が不発になったその隙にヤツメウナギ女さんはそのかぎ爪を振るう。
しかしルラはその攻撃を両手でブロックして弾き飛ばす。
「ふふふ、やっぱりリルさんとルラさんは報告に有った通り女神にも匹敵する力を持っていますね? 今の一撃、『鋼鉄の鎧騎士』なら切り裂かれている所でしたものね。やっぱりすごいですよ」
イリカはそう言ってまたまた手をかざすとヤツメウナギ女さんがルラを連続攻撃する。
それは目にもとまらぬ速さで、たまにその姿が目で追えない程だ。
「くぅうううぅ、ヤツメウナギ女さん、ごめん! 必殺ぱーんち!!」
しかしどうやらルラはその攻撃をことごとくかわし、そして「同調」をしてヤツメウナギ女さんに必殺の拳を炊き込む。
ずにゅりゅ
ばきっ!!
どがーんっ!!
「あら?」
ルラのその一撃は見事に決まり、ヤツメウナギ女さんを吹き飛ばす。
「あらあらあら、やられちゃったかしら? でも流石ですねルラさん。女神の血を吸って連結型魔晶石核で力を増したこのヤツメウナギ女に一撃を入れるだなんて」
イリカはそう言ってまた手を挙げると吹き飛ばされて近くの建物にのめり込んでいたヤツメウナギ女さんが立ち上がる。
ルラから受けた拳でお腹のあたりにへこみがあるけど、イリカが掲げたその指輪が光り、そしてヤツメウナギ女さんの胸の辺が光るとそのダメージがすぐに回復してしまった。
「あなたたちの作った連結型魔晶石核、凄いですよね。瞬間的に莫大な魔力発生がするのでこの賢者の石の魔力消費が少なくて助かりますよ」
そう言ってにたりと笑う。
『まんず、イリカさルラの嬢ちゃんと喧嘩さ止めるなっし』
回復したヤツメウナギ女さんの前に身構えているルラの後ろからコルネル長老がそう声を掛けて来た。
「あらあら、コルネル長老無事だったんですね? リルさんとルラさんたちが来たからてっきりやられちゃったと思いましたよ~」
『イリカさ、双子のエルフってぇのはリルの嬢ちゃんとルラの嬢ちゃんだべ? 二人を呼んで魔王様に仇なすとか言うのに抵抗するって本当だがや?』
コルネル長老はそう言ってずいっとルラの前に出る。
「コルネル長老?」
『なんね、大丈夫だがや。イリカさと話するだけだがや』
言いながらあの子供に見せてはいけない笑みをルラに向ける。
と、その瞬間だった。
どすっ!
「やはりオーガでは戦力不足ですね。それに役にも立たない。何ですかコルネル長老、ここにどんどんと皆さんが集まってきているではないですか?」
イリカはそう言いながら周りを見渡す。
そう、ここにはオーガの皆さんやサフェリナ解放の為に立ち上がった皆さんが集まっていた。
『ぐっ…… イ、イリカ??』
「コルネル長老!!」
ルラは思わず叫ぶ。
見ればコルネル長老の胸にはヤツメウナギ女さんの爪が深々と突き刺さっていたのだった。
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うちの嫁さんの父親が病院に行く事となり、介護等で忙しくなり小説を書いている時間が取れそうにありませんので。
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