10-18フライドチキン
エルフのマズ飯は鉄板!
ひょんなことからそんなエルフに転生した二人はひょんなことから知らない場所へと転移で飛ばされます。
そして美味しいものを探しながら故郷のエルフの村へと旅を始めるのですが……
エルフの双子姉妹、リルとルラの物語です。
あ、辛いのも美味しいのよねぇ~(リル談)
「圧力鍋の性能、見せてもらいましょうか!!」
私はそう言って魔法のポーチからコカトリスを引っ張り出す。
どんっ!
ざわっ
いきなり甲板に首なしコカトリスが引っ張り出されて近くにいた水兵さんたちにざわめきが広がる。
まあ、確かにいきなり甲板に人より大きな鳥の死骸が現れればそうもなるか。
でも今の私にはそんな些細な事はどうでもいい。
「えーと、このへんのお肉を使うかな?」
「お姉ちゃん、あたしもも肉好き!」
ルラは嬉々としてそう言うけど、フライドチキンのあの骨付きの脚をするにはこのコカトリスは流石に大きすぎる。
でもまあ場所によって鶏肉も味わいが違うから何箇所かお肉とお肉の間に「消し去る」で空間作ってコカトリスのお肉をそぎ取る。
「この位あればみなさんの分も足りるかな?」
言いながら他の調理道具とかも出してゆく。
「おいおい、ここは何時から飯屋の厨房になったんだよ? よくもこれだけの設備をそんな小さなポーチにしまっておけるな?」
デーヴィッドさんは半ば呆れて私のそんな様子を見る。
でも美味しいフライドチキンを作る為だ、妥協は出来ない。
「待っていてください、これだけ香辛料があればきっとおいしいフライドチキンが出来ます!」
言いながら私は先ずコカトリスのお肉を程よいサイズに切り刻む。
あ、勿論「消し去る」を使ってね。
普通に包丁とかナイフで切ろうとしてもなかなか切れないのよね、このお肉って。
そして切り刻んだらボールに入れて先は軽く塩を振って揉んでおく。
「さて、ここからが本番ね」
言いながら私はその昔ニュースで見た香辛料の配合を思い出す。
塩、タイム、バジル、オレガノ、セロリー、黒胡椒、マスタード、パプリカ、ガーリック、ジンジャーパウダー、白胡椒……
思い出しながらそれらを先ずはテーブルに出してゆく。
そしてすり鉢でそれらをゴリゴリと細かく擦って行く。
ほとんどのスパイスは乾燥したものなので時間はかかったけどその十一種類の香辛料は何とかパウダー状態にまですりつぶす事が出来た。
「ふう、流石に疲れたな。でもここで手を抜いたらあの味にならないもんね、頑張らなくっちゃ!」
「なんかおいしそうだね、お姉ちゃん!」
横で一緒に香辛料をゴリゴリとすりつぶすのを手伝ってくれているルラはそう言って出来上がったパウダーを私に渡してくれる。
私は塩もみして水分が出始めたお肉の水分を拭き取り、少量の小麦粉と軽くパウダーをまぶして準備していた油の中に投入!
じゅわぁ~っ!
「うわっ、いい匂い!!」
「よっしっと、これをどんどん揚げて行って……」
普通のフライドチキンはここで出来あがりなんだけど、強火で表面だけカラッと揚げたフライドチキンを油切りして例の圧力鍋に入れて行く。
「あれ? お姉ちゃん出来上がりじゃないの??」
「本当はもう良いんだけどね、コカトリスのお肉ってとても固いからこれから柔らかくするのよ」
そう言いながら準備が出来たらあの重い蓋を閉めて開かないようにロックして弱火でしばし。
チロチロと火にかけながら他のフライドチキンもどんどん揚げて行く。
既に周りにはいい香りが漂っているので時折水夫の皆さんが手を止めこちらを見る。
「ずいぶんと手のこった料理なんだな? 油で揚げるとかかなり豪勢だが何故揚げた後に鍋で煮込む?」
「ああ、これってご覧の通りコカトリスのお肉なんで普通に食べるとかなり固いんですよ。で、この圧力なべで蒸し焼きにするとお肉が柔らかくなるんです。それと表面のパウダーの味も中に少し染み込みますからね」
最初に高温で周りをカリッと油で揚げているので肉汁とか鶏肉の旨味自体はもう封じ込まれている。
そこへ外から圧力をかける事によってお肉を柔らかくして更に表面のスパイスが多少はお肉の中にその旨味が染み込む。
表面のスパイス自体はかなり味が濃い目にしてあるので、中まで完全に味が染み込んでしまうとしょっぱすぎるのでその辺は好みもあるだろうけど鶏肉自体の味も楽しんでもらいたい。
まあ、生前はあの衣だけ先に食べてしまうと後が悲惨な目に遭うのはあるあるのお話だったんだけどね。
「さてと、そろそろ良いかな?」
防爆用の小さな蓋もついているけどそこからシューっと圧力のかかった湯気が出ている。
頃合いを見て火を止め、防爆用の蓋を上げて圧を下げる。
そしてロックを外して開けると……
ふわっ!
「うわぁ、おいしそう!!」
「ほう、何ともいい香りだな!!」
周りに一気に美味しそうな香りが立ち込める。
しかしここで終わりじゃない。
私は鍋の中のフライドチキンに竹串で状態を確認してみる。
「うん、柔らかくなっている! よっし、仕上げね!!」
そう言ってトングでそれを引っ張り出してもう一度あのパウダーを付けてから脂の中へ!
じゅわぁあああぁぁぁぁぁ~っ!
「あれ? また油で揚げるの??」
「うん、これで更に味がしっかりとなって衣もサクサクになるからね。よっと、さあ出来た!」
油で揚げると言っても二回目は本当に表面をサクサクにする程度の短い時間。
しかしこれのお陰で更に美味しそうな香りになる。
「これは旨そうだな、こんな鶏肉料理は初めて見る」
「何せ秘伝の十一のスパイスを使ったフライドチキンですからね! そうそう他では真似できませんよ!!」
そう、そのレシピは秘伝とされているはずだった。
しかしあの時何かの番組でそのオリジナルレシピが公開されてしまった。
完全に同じ味にはならないだろうけど、ここには白胡椒まであった。
流石にサージム大陸との定期航路。
こう言った船にも贅沢な香辛料が沢山有ったのだ。
「はい、オリジナルフライドチキンです!!」
どんっ!
私は言いながらテーブルにそれを出す。
するとすぐにルラとデーヴィッドさんはそのフライドチキンを手に取る。
「おいしそう、いただきまーすっ! ぱくっ! ぅむぅっ! おいひぃっ!!」
「どれ、ばくっ! んッ!? な、何だこれは!? 複雑なスパイスがとても美味いだけでなく、衣に包まれた鶏肉から大量の肉汁が出てくるだとっ!?」
ルラは口の周りが油でべたべたになるのもかまわず黙々とフライドチキンを食べている。
デーヴィッドさんも一口かじる毎に驚きの表情でそのかじった場所を見ている。
「この衣、なんて旨さなんだ。しかし中の肉は鶏本来の旨味がしっかりと出ている。本来鶏肉は熱をかければ油分が抜け出しぱさぱさ気味になるのをこのスパイスの効いた衣で包む事によって絶妙なバランスを保っているだとぉ!?」
そう、二度揚げして油っこくなっても大丈夫なのはもともと鶏肉系は熱を加えると淡白なぱさぱさになりやすい。
しかしフライドチキンが愛されるのはそのパサつきを周りの衣が補佐してくれて絶妙な油加減にしてくれるからなのだ。
私も一つ手に取って食べてみる。
さくっ!
「んっ、完全にはあの味にならないけど、やっぱり似ている味になった。これはこれで美味しいわね」
流石に白髭眼鏡のおじさんが赤と白のお店の前に立っているあの味と全く同じにはならないけど、かなり似ている味にはなった。
少なからずとも白胡椒をしっかりと使うのが秘けつだったらしいけど、この船に白胡椒があってよかった。
ごくり!
懐かしのあの味を思い出しながら舌鼓を打っていると水夫の皆さんがこちらを見てつばを飲み込んでいる。
私は笑って皆さんに言う。
「さあ、たくさんありますから皆さんもどうぞ! 温かいうちがおいしいですよ!!」
わっ!
そして皆さん一斉にこちらに来るのは言うまでもなかった。
こうして夕暮れ近い船上は何処からともなく聞こえてくる美しい女性の歌声の中フライドチキン一色に包まれてゆくのだった。
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