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元最強、さらに迷宮探索の授業を受ける

 二度目の迷宮探索の実習は、思った以上にスムーズに進んでいた。


 その理由はやはり、戦力が増強されたというのが大きいだろう。

 勿論人数が増えたわけではないのだが、つまりそれだけ個々の動きが変わったということだ。


 特にそれが顕著なのはシルヴィアである。

 前回のシルヴィアの動きは、色々な意味で明らかに過剰だった。


 警戒にしろ攻撃にしろ、その全てにだ。

 初回であるということを考えれば及第点ではあっただろうが、それでも無駄が多すぎたのは事実である。


 だが今回の実習では、それがなくなったとは言わないまでも、十分なほどに改善されていたのだ。


「ふむ……どうやら色々とやった甲斐があったようであるな」

「うん、そうだね……正直自分でもびっくりなぐらいだよ」

「で、でも……シルヴィアさん、頑張ってた、から。その成果だと、思う、よ……?」

「けっ、出来て当然のことが出来るようになったってだけのことだろ。わざわざ褒めるようなことじゃねえよ」

「うっ……そ、そうだよね……ごめんね、ラルス君」

「あぁ? だからって別に謝るようなことでもねえだろうが」

「ううん、そうじゃなくて……前回ワタシが出来てなかった分、ラルス君がカバーしてくれてたんだよね? だから、前回はごめん、だよ」

「…………ちっ」


 ラルスがその言葉に反論せず、舌打ちを漏らしたのは、それが事実だからだ。

 前回シルヴィアが無駄に動いても問題なかったのは、第一階層しか回らなかったことと、ソーマが最低限フォローしていたからでもあるが、そこで最低限で済んだのは、ラルスがフォローの為に動いてくれたからなのである。


 ラルスがその口調通り粗野に動いていたら、前回はもう少し大変だったに違いない。

 まあそうではないということに薄々感づいていたからこそ、ソーマは彼とパーティーを組むことにしたわけではあるが。


 ただ――


「ふむ……シルヴィア、今の言葉は間違っているであるぞ?」

「え? どういうこと? えーと、もしかして、パーティーだから助け合うのは当然、とか、そういう意味? それはそうかもしれないけど……」

「ああいや、違うのである。それは確かに当然ではあるが、それを当たり前と思うようになってはパーティーは上手くいかないものであるからな。だからそこに礼儀を尽くすのは悪いことではないのであるが……」

「え、っと……それも、さっきラルス君が、言ってた通り、ってこと、なんじゃない、かな? ラルス君も、謝って欲しくてそうしたわけじゃ、ないだろうし……その」

「――あっ。うん……そっか、そうだよね……助けてもらったんだから、ごめん、はおかしいよね。じゃあ、ラルス君、改めまして……前回はありがとうね」

「…………だからそういうのはいらねえっつってんだろ」


 そう言ってそっぽを向いたことには、敢えてソーマ達は触れなかった。

 代わりとばかりに三人は顔を見合わせると、笑みを浮かべる。


 と、その様子に気付いたのか、ラルスが再度舌打ちを漏らした。


「つーか、あんまくっちゃべってんじゃねえっつの。まだ実習中だろうが」

「ま、確かにそれもそうであるな」


 周囲に敵の気配がないことは確認済みだが、だからといって気を抜いていい理由にはならない。

 むしろ現在位置が第二階層だということを考えれば、気を抜くなという方が真っ当だ。


 そう、スムーズに探索をこなせた結果、ソーマ達は現在第二階層へと来ていた。

 本来三回目ぐらいまでは第一階層を中心に慣れ、四回目あたりでようやく第二階層へと向かうのだ。

 前代未聞というほどのことではないものの、それを考えれば、これがどれほどのことなのかというのは分かるというものだろう。


 とはいえ、そう言っているラルス自身も、実際にはそこまで気を張っているわけではない。

 しかし気を抜いているのとも異なり、その姿は何処までも自然であった。

 自然に周囲を警戒していると、そういう状態なのである。


 それはおそらく、自信がもたらしたものだ。

 伊達に放課後ソーマ達に混ざり、シルヴィア同様色々なことをしてきたわけではない、ということである。


 特にリナやシーラ、それにソーマとはそれなりの数手合わせをしており、その動きが最適化されてきたと共に、どうやらいい意味で開き直ったようだ。

 ラルスは何処となく、剣に頼り、それを過信していた傾向があったのだが、今回はそれが綺麗さっぱりなくなっている。

 必要とあらば即座に魔法を使うあたり、ほぼ間違いないだろう。


 その魔法にしたところで、随分と堂に入ってもいた。

 元々それなりに才能があったのもあるだろうが、アイナやヘレンから教わっていたというのも大きいのだろう。

 それはシルヴィアも同様であり、魔法に関しての無駄が省かれているのは、確実にそのおかげだ。


 ……まあ正直に言えば、そこに何も思わないと言ってしまえば嘘になるが、ソーマはソーマで色々と試しているのである。

 それでも成果が出ない以上は仕方がなく、また承知の上でもあるのだ。


 嫉妬したところでどうにかなるわけでもなし。

 気長にやっていくしかなかった。


 ともあれ。


「さて、では行くであるか」


 三人の頷きを確認すると、ソーマ達はさらに奥へと向かっていった。








 その光景を眺めながら、クルトは興味深げに目を細めると、思わず感嘆の息を吐き出していた。


 前回迷宮の実習を行ってから、まだ二週間程度しか経っていない。

 前回は初回だということを考えても及第点には十分であり、そこから今回も何の心配もないだろうと思っていたのは事実だ。

 だがそれでも、まさかここまで成長しているとは思ってもいなかったのである。


 前回は何だかんだで、結局はソーマがパーティーの要となっていた。

 今回もそれは同じだが、他三人の動きが雲泥の差だ。


 シルヴィアは全体的に、ラルスは攻撃の際のそれが顕著であり、ヘレンは前回から地味ながらもそこそこいい仕事をしていたのだが、今回は二人との連携がしっかり取れるようになっている。


「訓練の成果、か……」


 漏れ聞こえてくる話から推測するに、そういうことらしいが、放課後にそれぞれが訓練していることなど当たり前の話だ。

 ただし各自の問題ではなく、パーティーとしてそれに取り組めるようになるには早くとも二ヶ月程度はかかるものであり、遅ければ半年程度かかるというのも珍しくはない。

 それだけこの迷宮探索の実習というのは難しく、複雑なのだ。


 特に王立学院は皆が相応に優秀であり、上昇志向が強い。

 しかし逆にそのせいで、自分が何とかしようとしてしまう傾向があるのだ。

 そのため、パーティーメンバーが優秀であればあるほど、パーティーとしてのまとまりには時間がかかってしまうことがある。


 正直に言ってしまえば、クルトは彼らもそうなると思っていた。

 前回が及第点であり、そこそこ形になってしまっていたからこそ、そこで足踏みをしてしまうだろう、と。

 さらには個々も優秀となれば、尚更だ。


 だが蓋を開けてみれば、パーティーとしての完成度はさらに増し、純粋な戦力増強まで果たしている。

 そのことは二回目にして第二階層まで来れたことと、ここまでまったく危うげがなかったことからも明らかだ。

 自分の節穴っぷりを恥じると共に、ひたすらに感心する思いであった。


 そしてそんなことを考えている間にも、彼らはさらに先へと進んで行く。

 途中魔物が出現するも、本当に何の危うげもない。


 ラルスが敵を牽制しながら、後衛の二人が魔法で沈め、漏れてもラルスが止めを刺す。

 そこでも無理だった場合や万が一の時などは、おそらくソーマが、ということなのだろう。

 後衛の場所にまで下がっていないのは、彼女達ならば既に大丈夫だという信頼があってのことか。


 事実戦闘が終わってすら、誰一人として気を抜くことはなく……そこでクルトがつい笑みを浮かべてしまったのは、そこまでの間で結局誰も後方を気にする事がなかったからだ。

 こちらを気にする様子など欠片もないくせに、忘れているわけではなく、その意味するところも正確に理解している。

 初々しさがなくなってしまったところは少し残念に思うところだが、いやまさかここまでとは、本当に予想外であった。


 しかもここまで出来るというのに、彼らは下の階層へと向かおうとする素振りすらも見せないのだ。

 誰も話す事がないということは、言うまでもなく全員がその意味を理解しているということなのだろう。


 第三階層は第二階層とは魔物の種類がガラリと変わり、一種の壁であると共に、そこへと軽率に挑んだ者達へと手痛い洗礼を受けさせる場所でもある。

 実は最も死傷率が高い階層とまで言われているのが、第三階層という場所なのだ。


 一応そのことは事前に伝えられはするのだが、第二階層を楽に進めるようになったことで、その多くは間違った自信を得てしまうのである。

 そしてそのまま下層へと向かい、痛い目にあう。

 大抵の生徒達が遭遇する、一種のお約束でもあった。


 だがこの調子では、彼らがそうなることはないだろう。

 誰が言うまでもなく、ここでしっかりと経験を積もうとしている彼らは、きっと下層へ行っても、同じように何の危うげもなく先へと進めるはずだ。

 それは――


「……面白い」


 つい口の端が吊り上がるのを自覚するが、それを押し留めようとは思わなかった。

 前回の比ですらなく、自身の感情が膨れ上がるのを感じる。


 これはもう確信だ。

 彼らは間違いなく、もっと面白い光景を見せてくれるようになるに違いない。


 そしてその中心に居るのが誰なのかは、改めて言うまでもないだろう。

 その少年へと視線を向けると、目を細める。

 この任務を受けてよかったと、そんなことを思いながら、クルトはその口元をさらに吊り上げるのであった。 

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