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元最強、休日を満喫する

 当たり前の話ではあるが、学院にも休日というものが存在している。

 完全週休二日制であり、週末の二日と祝日が休みだ。

 他にも学期終わりの夏と春には長期休暇が存在していたりもするが……まあ、今はまだ遠い話なので割愛しよう。


 ともあれ、学院には休日が存在している。

 それは確かだ。

 確か、なのだが……その過ごし方が世間一般のそれと同じかと言えば、間違いなく異なるだろう。


 何せ生徒達の大半は、休日にも関わらず学院の外に出てすらいかないのだ。

 外出するには休日だろうと許可を取る必要があり、それが面倒だというのはあるかもしれないが……実際のところ、それをその理由とするのは不適切である。

 何故ならば、彼らはそんな理由で外出しないのではなく、ただ単にそれよりも訓練や勉強に時間を使いたいから外出しないだけだからだ。


 それにより休日なのにも関わらず、学院の構内は生徒達の姿で溢れている。

 特にそれが顕著なのは訓練場で、そこだけを見れば、今日が休日だと分かる者の方が稀に違いない。


 まあ結局のところ何が言いたいのかと言えば、休日と平日とで、生徒達の行動は大して変わっていない、ということであった。


 そしてそれは、ソーマに関しても同様だ。

 違いがあるとすれば、同じ本を読むにしても、教室ではなく図書館で読む、というところだろうか。

 ただしその本はランダムに選んだものではなく、ちゃんと図書館の本棚を漁り選んだものであるため、充実度で言えば休日の方が上かもしれない。


 とはいえ、学院に来た当初は、休日となればほぼ図書館にこもり資料集めに精を出していたソーマだが、最近ではそれも若干の変化を見せていた。

 放課後と同じように、訓練場の方へと向かう機会が増えてきたのだ。


 もっとも、最終的に向かう先は、放課後のそれとは異なるが。


「さて、それでは今日も張り切って攻略を進めるであるか」


 そうして今日もまた、ソーマはそこへとやってきていた。


 呟きながら、何気なく周囲を見渡せば、視界に映るのはむき出しの岩肌に、薄暗い空間。

 洞窟の中とでも言われてしまえば納得してしまいそうな光景が広がっているが、そうではない。

 そこがどういった場所なのかということは、光源がないにも関わらず、その光景がしっかりと見えている、ということが示している。


 即ち、迷宮ということであった。


 実習や試験の時に行った場所とは随分雰囲気が異なっているが、それも当然だ。

 あの時と今とでは、居る階層が異なっているからである。


 現在地は、王立学院地下迷宮、その第七十三階層。

 全五十階層と言われている、そのさらに下であった。


 つまりは存在しないはずの場所であり、当然のように、普通は入れる場所ではない。

 では何故そんな場所にソーマが居るのかと言えば――


「うむ、我も張り切ってマッピングするのじゃ!」


 まあこれもまた当然と言うべきか、この見た目幼女が原因であった。


 しかしここに来ることになった経緯を思い返しながら、そうして視線を注いでいると、それに気付いたヒルデガルドが首を傾げる。


「うん? どうかしたのじゃ?」

「いや……貴様がマッパーを担当してるなど、聞く人が聞けば大分驚くだろうとふと思っただけである」


 それは適当な言い訳ではあったが、実際に思っていたことでもあった。


 元龍にして、元神。

 そんな存在が迷宮で何をやっているのかと思えば、戦うでもなくひたすらに歩いた道を記し地図を作っているというのだ。

 誰に話したところで、まず頭の方を心配されるだろう。


「ああ、まあそうかもしれんのじゃな……だが必要なことじゃろう?」

「まあそれはそうなのであるがな。とはいえ、貴様がそれをやる必要はない……というか、そもそも本来は貴様がついてくる必要すらないであろう? 魔導具を使うだけであれば、我輩だけでも出来るであるしな」

「それはそうじゃろうが、さすがに一方的に頼んでおきながら我は何もしない、というわけにはいかぬじゃろう」

「別に無償でやっているわけではないのであるから、気にする必要はないと思うであるが……無駄に律儀であるな」

「元神じゃからな」


 何処まで本気なのか、そんなことを言いながらドヤ顔を晒している元神に肩をすくめる。

 まあ、助かっているのは確かなので、別に問題はないのだが。


 だがつまりは、そういうことだ。

 ソーマがここに来ている理由と、そこにヒルデガルドが同行している理由。

 試験が終わり、その合格が伝えられた直後、これを頼まれたからであった。


 推定、全百階層。

 その本来の階層の攻略を、やってくれないか、と。


「ま、とりあえず行くであるか」

「うむ、行くのじゃ」


 ともあれ、そうして出発した二人は、気楽に先へと進んでいく。

 どうせ手がかりがない以上は、基本的にしらみ潰していくしかないのだ。

 ある程度のマッピングが終わるまでは、余計なことを考える必要はなく――


「ふーむ……さすがと言うべきか、ここ最近は襲撃の頻度が上がってきたであるなぁ」


 ――剣の理・龍神の加護・常在戦場・気配察知特級:奇襲無効。


 しかし早々に魔物からの襲撃を受けるも、その姿が見えた時には既にソーマはその気配を察知していた。

 飛び掛ってくるそれへと向け、当たり前のように刃を振るい――


 ――剣の理・神殺し・龍殺し・龍神の加護・絶対切断:我流・疾風の太刀。


 ――一閃。

 それが何かをするよりも先に頭部を刎ね飛ばし、空中で体勢を崩した蜥蜴のような身体がそのまま地面へと激突する。


 念のために周囲を警戒するも、他に敵影はなし。

 どうやら単独での襲撃であったようだ。


 剣を仕舞いながら小さく息を吐き出すと、歩みを再開させた。


「とはいえ敵の強さは大して変わらんであるし、まあこれならば何とか最後までいけそうであるかな」

「……そんなことを言えるのは貴様だけじゃがな」


 呆れたような声に視線だけを向ければ、事実ヒルデガルドはその顔に呆れのそれを浮かべていた。

 だがソーマとしては意味が分からず、首を傾げるだけだ。


「そうであるか? 父上あたりであれば、少なくともこのあたりで苦戦しないのは同じだと思うのであるが」

「前剣の王を比較例に出してどうするのじゃ。その時点で基準がおかしいじゃろうが」


 そうは言われても、ソーマがこの世界で最初に目にした強者というのは、父なのだ。

 基準をそこに置いてしまうのも仕方のないことだろう。


「ぶっちゃけ我でもそろそろ厳しくなるようなのが出てきてるのじゃぞ? それをよくもまあ、そこまで簡単に倒せるものじゃ」

「と言われても、前世の頃の貴様だったら、それこそ鼻息あたりで倒せてた程度であろう?」

「あの頃の力なぞまったく出せんのじゃから言っても仕方ないのじゃ。というか、これでも体術スキルの特級は持っているんじゃがなぁ……まったく、相変わらず貴様は規格外すぎるのじゃ」

「それと同等以上だった貴様には言われたくないのである」


 そう言って肩をすくめながら、確かに魔物の強さが明確に上がってきているのを、ソーマも感じてはいた。

 階層を一つ降りるごとのその上昇幅は、上の方では考えられないほどだ。


 というか、上でのそれが同じであったならば、きっと生徒達は余程のことがなければ第二階層にすら降りることを許されていないだろう。

 この深層部とでも言うべき場所がなかったことにされているのも、納得である。


「ところで、これ我輩がここに来なかったらどうするつもりだったのである?」

「そうじゃなあ……今言ったように我でもそろそろ厳しいレベルじゃからなぁ。七天の二人の参加は必須として、あとは目ぼしい冒険者とかを集めての決死行とでもなってたかもしれんのじゃな。割と冗談抜きに」

「ふむ……」


 正直なところ、ソーマにはそこまでする必要がないように思えるのだが、ヒルデガルドがそう言うということは、それが事実なのだろう。

 その理由を思い返しながら、ポツリと呟いた。


「邪神の力の欠片、であるか」


 ここの攻略を頼まれた際、それが何故必要なのか、その理由として語られたことである。

 それがこの地下迷宮の最下層に、封印されているらしいのだ。


 何故そんなものがこの下に封印されているのかといえば、順序としては逆らしい。

 ここにそれを封印した後で、封印を強固にするためにその上に迷宮を作った、ということである。


 何でも力の欠片であってもそれはすさまじく、封印していようともそれが一目で分かり、周囲へと影響すら与えてしまうものだったらしい。

 それ封印しきれていないんじゃないかとも思ったが、当時は色々あったこともあり、それが限界であったようだ。


 そしてその影響を最小限にする方法が、迷宮、ということだったのである。


「正直もう少し他にやりようがあったのではないかと思うのであるがなぁ……」

「我もそう思うのじゃが、まあ我が識ることの出来るのは結果だけじゃからな。それが出来ない理由があったのじゃろう」


 ちなみに迷宮内で、本来その階層にはいないはずの魔物が出現するのは、これの影響らしい。

 その影響を受けたものは突然変異し、より強力な魔物へと変質してしまうのである。

 厳密には、その残滓を迷宮内の魔物に吸わせることで、他に影響を与えない、というつもりだったようだ。


 とはいえ本来それは五十階層以下にのみ与えられるはずであった。

 しかし魔物がそれを受け取れる量には限りがあり、ここの迷宮の仕様上、魔物が倒されなければ新しい魔物が補充されることはない。

 結果少しずつその影響を受ける魔物が上層のものへとなり……最近では低階層の、第一階層にすら影響が届くようになってしまったのだとか。


 昔からそれを知っていればまだ何とかしようもあったのだが、ヒルデガルドがそれを知ったのは、ここに学院を建てた後だ。

 魔物には力の残滓に染まりやすい個体とそうではないものがおり、変異した魔物は事情を知っている講師が定期的に処理しているものの、三十階層より下は講師でも危険な可能性があるため現在放置している。


 だがそのせいもあってか、近年変異した魔物が出現する頻度はさらに増し、このままでは迷宮の外や生徒達にも何らかの影響があるかもしれない。

 何とかしなければ……と思っていたところに、ソーマがやってきた、ということである。


 尚、上層とこことで異様なほどに魔物の力に差があるのは、ここら辺のは既に全て影響を受けた後のものだからだ。

 この後補充されたものは、元の強さにまで戻っており、比較的安全となっていることだろう。


 そのため、実際には最下層まで行く必要はないのだが、これはソーマがそこまでいけそうだから、念のため様子を見るためである。

 ソーマがそれも何とかできそうなら何とかしてもらう、ということでもあるようだ。


「酷い皮算用ではあるがな」

「まあ、貴様にも利点はあるんじゃしいいじゃろう?」

「ま、だから請け負ったんであるしな」


 利点とは、つまり今まで誰も踏み入ったことのない場所に行けるということだ。

 そこには何があるのかも分からないということであり、ならばソーマの目的の助けになるような何かがあるかもしれない。

 そういうことである。


「っと」


 ――剣の理・神殺し・龍殺し・龍神の加護・絶対切断:我流・疾風の太刀。


 出会い頭に突っ込んできた、牛の頭を持った人型のそれの胴を、その手に持った斧が振るわれるよりも先に薙ぎ払う。

 腹にめり込んだ刃は抵抗らしい抵抗を感じることもなく逆側へと抜け、勢いを殺すことの出来なかった上半身が、そのまま後方へと吹き飛んだ。


「ぬお!? ちょっ、我の方に吹っ飛んできたんじゃが!?」

「そのぐらいは自分で何とかして欲しいのである。出来るであろう?」

「出来るのじゃが、もうちょっと我にも優しさをじゃな!?」


 ヒルデガルドの抗議は肩をすくめて流しながら、ソーマは剣を仕舞うと先へと進んでいく。

 別に気を使う程度の余裕はまだあるが、その必要もない相手にする必要はないだろう。


 そうして前方に目を細めつつ、それにしてもと、ふと思う。

 どうにも邪神という名に、妙に縁があるようだ、と。


 まああんな面倒ごとなど、早々起こるものではないだろうが。

 こうしてヒルデガルドもいるのだし、さすがに今回ばかりは何もないだろう。


 そんなことを、半ば願い混じりに思いながら、ソーマはさらに奥へと足を進めるのであった。

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