元最強、入学式で見知った顔を見かける
その場に響いている声を、ソーマは聞くともなしに聞いていた。
呆としながら前方を眺め、思うことは、何処の世界でも偉い人の話というのは無駄に長く退屈なのだな、ということである。
王立学院の入学式、その真っ只中のことであった。
周囲に並んでいるのは同年代の少年少女であり、その才能の豊かさを示すように、その頭部は大分カラフルなことになっている。
上から見下ろすことが出来たら、さぞや目に優しくないことになっていることだろう。
或いは学科ごとに分かれていたらまだマシだったかもしれないが、生憎とそうはなっていない。
とりあえず来た順から並ぶように言われたため、隣の人物がどの学科の者なのかすらも分からない状況なのだ。
その混在模様は、わざわざ上から見ずとも分かるほどである。
まあ厳密には、誰がどの学科なのかはある程度は髪の色などから推測出来るものの、それも絶対ではない。
実際ソーマが魔導科に入学している以上、素質通りに入学しているとは限らないのだ。
――正直に言ってしまうのであれば、ソーマも魔導科に入学出来るとは思っていなかったのだが。
いや、別に受かる自信がなかったというわけではないし、試験を受ける直前まではある程度の自信もあった。
試験内容次第ではあったものの、聞いた内容に魔法という言葉がなかった時点で、これはいけると確信すら抱いていたのだ。
ただそのせいもあって、どうせなら派手にやった方がいいだろうと思い、思惑通り派手に的を吹っ飛ばしただけだが……まさか訓練場が半壊するとは思ってもいなかったのである。
訓練場は頑丈だと聞いていたから大丈夫だろうと思っていたものの、どうやら大丈夫ではなかったようだ。
さすがのソーマも、これはやりすぎてしまったと反省し……だがその結果は、まさかの合格。
何でも魅せることが目的であり、確かに魅せられてしまったがために試験そのものとしては問題がなかったらしい。
もっとも半壊した訓練場をそのまま試験会場として使うわけにはいかず、そこは使用不可能となってしまったらしいが。
それを聞いたソーマは、さらに反省をしたものである。
ともあれ次には進めたということで、何故か残っていた合格者の少女と、何となく流れで共に面接会場へと向かい、しばし待機。
そうしてソーマも面接へと赴き――
「――というわけで、入学式は以上だ」
と、どうやら暇つぶしで入学試験の日のことを思い返していたら、入学式が終わったらしい。
ただそこでソーマが首を傾げたのは、一人話をしていない人物がいると思ったからである。
それは今ちょうどソーマの視線の先に居る相手だ。
誰かと言えば、それはこの王立学院の学院長であった。
ソーマも面接で会った、あの外見は幼女の姿をしたあれが、話をしていないのである。
まあ別にだからどうしたというわけでもないのだが……こういったものでは、やはり最も偉い人物の話があるのが定番だと思っていたため、僅かに違和感のようなものがあるのだ。
もっとも無駄に長いだけの話を聞くような趣味はソーマにはないので、ないのならばないで構わないのだが――
「……うん?」
瞬間、目が合った。
気のせいではない。
その翠色の瞳が、明確にソーマのことを捉え……だがすぐにそらされる。
「ふむ……」
少し見すぎていたか、などと思ったものの、気にすることなく、ソーマは自身もまた視線を移動させる。
正直に言って、そんなことよりも余程気になることが、そこにはあったからだ。
いや、というか実は最初からずっと気にはなっていたのだが……視線の先、講師の集まっているらしい場所に、どうにも見知った姿がある気がするのである。
他人の空似という可能性も勿論あるが、それにしては――
「――では各自移動してくれ。くれぐれも間違わないようにな?」
「――む」
が、それを確かめるよりも先に、式が完全に終わってしまったようだ。
一応話は聞いていたので何をするかは分かっているものの、確かめられなかったことに小さく息を吐き出す。
しかしまあそのうち機会も訪れるかと気を取り直すと、周囲と同じようにソーマも移動も始めた。
入学式後に何をやるのかと言えば、学科ごとに分かれての今後の連絡であった。
明日からは早速授業が始まるが、学科によって用意するものが異なれば、移動する先も異なる。
そもそもそれ以前の問題として、この後どの寮に向かえばいいのか、ということすらも知らされてはいないのだ。
王立学院は全寮制であるため、全員が構内に存在している寮に入る必要があるからである。
まあつまりはそれらを知るための、簡単な説明会とでも呼ぶべきものであった。
とはいえ王立学院には、基本的に学科ごとに決まった教室というものは存在しない。
授業のたびに、それぞれ決まった教室へと移動するのだ。
しかし今回はそれでは困るということで、そんな教室の一つへと移動しているわけだが、当然と言うべきか入学したばかりのソーマ達ではそれが何処にあるのかは分からない。
そのため案内役の講師が必要となるわけだが――
「ふむ……まさかこんなに早く機会が訪れるとは、さすがの我輩も予想外であるな」
「あん? 唐突に何言い出してんだ、おまえ?」
呟きに返答を返したその講師――カミラの姿を見上げると、ソーマは肩をすくめた。
そう、見知った人物の一人というのは、カミラだったのである。
「いや、まさか先生が学院に来るとは思ってもみなかったであるからな。というか、確か屋敷の管理を任されていた気がするのであるが?」
「それはちゃんと引き継いだし、この話そのものは一年近く前からしてたからな」
「む、そうなのであるか?」
「ああ。大体おまえらが見つかる直前ぐらいだな。つまりアレが起こる前ってことだが……まあ、色々と思うところもあったってことだ」
「ふむ……」
まあそこら辺はちゃんと話がついているのだろうから、ソーマが気にすることではないだろう。
ソーマが気になったのは、居ると思っていなかったカミラがここに居たということ、そのものなのだから。
「まあ予想外と言えば、こっちもこっちで予想外だったであるが」
そう言ってソーマが視線を向けたのは、後方だ。
カミラが先導をするということは、必然的にそこが先頭ということになるわけだが……その後ろをひっそりと、隠れるように着いて来ていた少女が、瞬間ビクリと肩を震わせた。
「っ……な、何よ……き、気付いてたの……?」
「いや、むしろ何故気付かれないと思っていたのであるか?」
そんな気付いてくれと言わんばかりに後ろを歩いていたら、気付かないわけがないだろうに。
だがそんなソーマの態度が気に入らなかったのか、少女――アイナはこちらを睨みつけるようにしながら、その頬を僅かに膨れさせた。
「じゃ、じゃあ、話しかけてきてくれてもよかったじゃないの」
「いや、ほら、そっくりさんの可能性もあったわけであるし?」
「ないわよっ……っ」
一瞬叫びかけ、しかし思い止まったのは、周囲に同級生となる者達の視線があることを思い出したからだろう。
まあ割と手遅れな気がするが。
「あんたのせいでしょうが……っ」
自覚あってのことなので、その言葉にはただ肩をすくめる。
ただ、アイナが居たことが予想外だったのは事実だ。
それこそ、カミラ以上に。
故に、先ほど入学式でその姿を見かけながらも、声をかけることがなかったのだ。
そう、アイナに言ったそっくりさんの可能性というのは、完全に冗談だというわけでもなかったのである。
確かに年齢で言えば学院に通ってもおかしくはない。
しかしアイナでは、バレるバレない以前に、この国出身である証明が――
「あー、いや、なるほど……そういうことであるか」
「な、何勝手に納得してるのよ……?」
「なに……そういえば、お願い事をすることが出来たなと、それを思い出しただけである」
「……っ。……相変わらず、察しがよすぎじゃないの?」
「こんなものは、知っているか否かだけであろう」
知っていれば気付けるし、知らなければ気付けない。
それだけのことだ。
それにしても、てっきりあれはあそこに滞在するのに使ったのかと思っていたのだが、この様子ではそうではなかったということだろう。
あれは単純に厚意とかそういうことだったということか。
或いは、それも含めて、ということなのかもしれないが。
「ふむ……正直私も気にはなってたんだが、ちゃんとした理由がありそうなら構わないか」
「講師がそれでいいのであるか?」
「むしろ講師だからこそだ。講師の仕事っていうのは、生徒に授業を行ったり相談に乗ったりすることで、生徒を怪しむことじゃないだろ? それに必要なら誰か別のやつがやるだろうしな」
「まあ確かに、それもそうであるか」
そうして頷きつつ……それにしても、とふと思う。
カミラが見間違いではなかった時点でほぼ確信していたことではあったのだが……アイナも来ているとなると、やはりカミラの隣に居た小さな影も気のせいではないということなのだろう。
ついでに言うならば、アイナの隣に居た人物も。
まあというか、気付いた順番で言えば、実はそっちの方が先なのだが。
少し考えれば、分かることだろう。
あれほど目立つ人物に、気付かないわけがないのだ。
それでも状況を考えた結果、他人の空似と判断したわけではあるが。
だがこうなってくると、あれも本人だということになり――
「……ま、とりあえず今はいいであるか」
「……? な、何がよ……?」
自分のことだと思ったのか、僅かにアイナが身構えたが、それには肩をすくめて返す。
まあ学院は広いが、魔導科だからといって魔導以外の講義を受けられないわけではないし、学年合同の授業などもあったはずだ。
ならばそのうち会えるだろうし、敢えて急ぐこともないだろう。
そう結論付けると、ソーマは一先ずそのことは脇に退け。
この後のこと、ひいては今後の学院生活へと、思考を向けるのであった。




