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救援と反撃と

 気が付いた時、ソーマ達は知らない場所に立っていた。

 だがすぐにそこが何処なのかを理解出来たのは、地面に一つのものが存在していたからである。


 それは、死体であった。

 しかも、見覚えのあるものだ。


 まあそれはそうだろう。

 何せつい先ほど、ソーマ自身が作り出したものなのだから。


 床一面に広がっているそれは、漆黒の一色。

 黒いローブであり、つまりは、先ほどまで目にしていたあの怪しい男のそれであった。


「ふむ……狙い通り、というところであるかな」

「……ん。……でも、大分無茶苦茶」


 声に振り返れば、シーラの纏っている雰囲気は何処か呆れたようなそれであった。


 しかしソーマはそれに、肩をすくめて返す。

 確かに今回ばかりは自身でも若干無茶をしたという自覚があるが、最も手っ取り早かったのも事実なのだ。


「……それでも普通はやらない。……というか、思いつかない」

「まあそれは、以前とある遺跡で空間転移を経験した故であろうな」

「……ん、前に聞いた?」

「うむ、それである」


 実際今回のことを思い付いたのは、それが理由だ。

 少しでも早く別の場所に移動するには、と考えた時それを思い出し……といった具合である。

 正直半ば賭けではあったのだが、上手くいったようで何よりであった。


 と。


「ちょっとリナ!? 大丈夫!?」

「――む? どうかしたのであるか?」

「なんかさっきから、リナがぼーっとして反応がないのよ。空間転移はたまに酔う人がいるって聞くし、それなのかも。まったく、どっかの誰かさんが無茶するから……!」


 これには反論のしようがなかったので、ついアイナから視線を逸らす。


 だが瞬間、逸らした先にあったリナの身体が、ピクリと動いた。


「あっ……」

「リナ!? 大丈夫なの!?」

「あ……は、はい、大丈夫です……大丈夫なのです」

「……本当に? ちょっと様子が変だけど……そこの馬鹿に遠慮してるんなら気にする必要はないんだからね?」

「いえ、本当に大丈夫です……なのです。ちょっと酔ってしまっただけだと思い……思うですから」

「……本当に大丈夫なのよね?」

「はい、なのです」

「ふむ……リナ、何かあるのだとしたら、本当に遠慮とかは無用であるぞ?」

「いえ、本当に……大丈夫、なのです」

「ふむ……」


 まあ本人がこう言っているということは、大丈夫なのだろう。

 とりあえず反省はし、謝りつつも、今はやるべきことがある。


「さて……一先ず狙い通りの場所には来れたようであるが……それでも問題は存在しているであるな」

「……ん、ここが何処なのか」

「ああ……確かにそうね」


 周囲にある物から、ここが部屋の中だということは分かるが、逆に言えば分かるのはそれだけだ。

 地図の一つでもあればいいのだが……それも、望み薄だろう。


「ふむ……まあとりあえずは、外に出るべきであるか」

「そうね……ここを見て回っても、手掛かりになりそうなものはなさそうだし」

「せめて山奥だとか、全然関係ないところじゃないことを、祈る、のです」

「……ん、割と有り得る」

「そうじゃないと思いたいであるがなぁ……」


 しかし空間を操れたということは、そういった場所にアジトを構え、そこから空間転移で移動しようとしていた、という可能性もあるにはあるのだ。

 もしもそうであった場合は、ソーマのやったことは完全に無駄そのものである。


 だが何にせよ確認してみなければ分からないと、そんなことを話しながら部屋の外へと出れば、そこが人気のない屋敷の一室だったのだと判明した。

 それからそのままその屋敷を後にし――そして。

 外に出るなり、ソーマ達は空に浮かぶ巨大な漆黒の塊を目にしたのであった。











 吹き飛ばしたその姿を眺めながら、ソーマは思わず舌打ちを漏らしていた。

 捉えたと思っていたのだが、僅かにずらされたらしい。

 多少の焦りがあったとはいえ、腐っても龍を名乗るだけのことはあるということか。


 しかしそれはそれとして、ソーマはその場に降り立つと、周囲を見渡した。

 酷い有様だが……とりあえず、最低限救いたい者を救えたことに小さく息を吐き出す。

 本当に最低限でしかないため、誇れるようなことではないが。


 状況は、何となくではあるが把握していた。

 アレの姿を確認するや否や、ソーマ達は全速力でここへと向かってきたのだが、その途中で嫌でも色々と見せられたからである。

 そのため、当然のようにアレが言っていたことも聞こえていたのだが……まあ、どうでもいいことだ。


 ともあれ。


「っ……あなたは……」

「義を見てせざるは勇無きなり、などと言うであるからな。まあ、ただの通りすがりの剣士なのである。お節介であるが故、我輩のことは気にしないでもいいのである」


 ソフィアの言葉にそう返し肩をすくめるが、その瞳が僅かに細められたのは警戒しているからだろうか。

 まあ、無理もない話だ。

 何せ――


「……気にするなと言われてもな。そんな怪しい通りすがりがいてたまるか」

「ふむ……なるほど確かに、それは一理あるであるな」


 クラウスの言葉にソーマが頷いたのは、実際のところそれは否定しようのない事実だからだ。

 白いローブを纏い、フードで顔を隠しているような人物が怪しくなくて、一体誰が怪しいのかという話である。


 そう、ソーマは敢えて顔を隠して、この場に現れていた。

 勿論それは面白半分とかいうわけではなく、きちんとした理由がある。

 というのも、本来ソーマはここに、居てはいけないからだ。


 厳密には、ソーマという人間が存在しているということを知られてはいけない、といったところか。

 ソーマは公式に存在しないことになっているため、これは絶対だ。


 まあ当然ソーマが姿を見せたから即座にどうこうということはないが、何せ今は敵国との戦闘の真っ最中でもある。

 万が一にも両親との繋がりを悟られるわけにはいかなかった。

 だからこそ、わざわざシーラからローブを借りてからここに来たのである。


 しかし勿論そんな事情を話すわけにもいかず――


「とはいえ、正直そこは我輩を信じてもらうしかないのであるが……」

「……分かったわ。信じましょう」

「ふむ……? いいのであるか?」


 言ってはみたものの、正直本当に信じられるとは思っていなかった。

 信じられはしないだろうが、それでも勝手に動くしかないだろうと思っていたぐらいだったのだが……。


「……まあ、怪しくはあるが、助けられたのも事実だ。ならば確かに、その相手を信じないのは恥ずべきことだな」

「うーむ……?」


 ソフィアどころか、クラウスにまでそう言われてしまい、正直ソーマの方が困惑してしまった。

 助けられたことに恩義を感じているのは本当のことだろうが……二人がそんなことで自分のことを信用するとは、到底思えなかったからだ。


 特に二人は、責任ある立場の人間である。

 戦場とはいえ……いや、戦場だからこそ、甘いことなど言っていられないと、誰よりも知っているだろうに。


 まあとはいえ、信じてくれるというのであれば、それを否定するのもおかしな話だ。

 或いは、そう言っておきながらこちらを観察するつもりなのかもしれないが、別にこちらにやましいところなどはない。

 さっさとアレを倒し――


「っ、危な――」

「そのまま旅を再開するであるかな」


 ――剣の理・神殺し・龍殺し・龍神の加護・絶対切断・万魔の剣・見識の才:我流・模倣・斬魔の太刀 弐式。


 ソフィアの言葉が終わるよりも先に、一瞥すらすることなく腕を振るい、迫っていたそれを消し飛ばす。

 熱すらもこちらに届くことはなく……その脆弱さに、代わりとばかりに溜息を吐き出した。


「龍の、おそらくは本体だろうと見て少し焦ったであるが……これなら急ぐ必要もなかったかもしれんであるな」


 呟きながら脳裏を過ぎるのは、前世の最後に相対したアレのことだ。

 アレと比べるのは酷かもしれないが、それでもアレのブレスならば、今のソーマではこんな簡単に消し飛ばすことなど出来なかっただろう。

 全身全霊をこめた一撃で、ようやく何とか出来るかどうか……そういったものを放ってきたはずだ。


 まあそんなものを放たれたら放たれたで困るのだが……それでも正直、僅かに落胆してしまったのは隠しようがなかった。


「ま、早く旅に出られそうでよかったと思うべきであるか」

『馬鹿な……我が身を吹き飛ばすだけではなく、我が一撃をあっさりと消し飛ばす、だと……? 貴様……何者だ……!?』

「だから、通りすがりの剣士だと言っているであろうに。何度言わせるのか」


 声に視線を向ければ、巨体がゆっくりと立ち上がろうとしているところであった。

 やはりと言うべきか、あまりダメージは与えられていないようであり、そのことに小さく息を吐き出す。

 どうやら、他人のことはとやかく言えないようだ。

 前世の頃であれば、あの状況でも真っ二つにする程度余裕であっただろうに。


 まあ言ったところで、意味のないことではあるが。


「さて、ではとりあえずあれの相手は我輩がするので、後ろの連中は任せていいであるか? 今のところ怯んでいるようであるが、侵攻が再開されないとも言えんであるし。そうなれば、多少面倒であるしな」

「それは……確かにそうだけど……でも、私達も――」

「――いや。ここは任せた方がいいだろう。あっちのことも大事ではあるし……それに、おそらく俺達では足手まといにしかならん」

「っ……そう、ね……うん、分かったわ」

「というわけで、後ろは任せてくれ。そっちは……任せていいんだな」

「勿論なのである」

「……そうか」


 自分で言い出したことでもあるので、自信満々に頷けば、クラウスはそんなこちらへと小さな笑みを向けてきた。

 それに何となく違和感を覚え、首を傾げるが、そうしている間にクラウス達は後ろを向いてしまう。

 少しそれが気になったが……まあ、それよりもこちらが先だ。


 相手が巨体のため割と近くにも見えるが、それなりに距離は離れている。

 空を飛ばれたり、無差別に周囲に攻撃をばら撒かれでもしたらそれなりに面倒だ。

 余計なことをされる前に、ケリをつけた方がいいだろう。


「ま、この程度ならば、何をされたところでどうとでもなる気がするであるがな」

『貴様……人間風情が、あまり調子に乗るなよ……!』

「我輩も自分の程度は理解しているので、あまり乗りたくはないのであるが……そんな有様で言われても、というところであるな。正直我輩には、貴様はただの羽が生えただけの爬虫類にしか見えんであるし?」

『貴様……ほざけ……!』


 激昂する龍に、ソーマは目を細める。

 今のは当然のように、する必要のない挑発だ。


 だがつい、してしまった。

 そんなことはせずに、黙って倒した方が効率がいいと分かっていながらも……言わずにはいられなかったのだ。


 一瞬だけ、ちらりと後方を振り返る。

 それから、幾度目かとなる息を、吐き出した。


 本当に、今世では身体だけではなく、心まで弱くなったと、そう思い……ほんの少しだけ、口元を緩めて。


「ま、幾ら吼えたところで、貴様が爬虫類であることに違いはないであるし……とりあえずあれであるな。爬虫類なら爬虫類らしく、せめて地べたを這いつくばりながら、死ね」


 そう告げると、ソーマはそれに向かい、地を蹴った。

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