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元最強、天使? と遭遇する

 突然ではあるが、人型の魔物というのは少なくない。

 ゴブリンなどがその典型であり、だが同時にそれらは、明確に人ではないモノ、魔物だと一目で分かるような外見をしているのが普通だ。

 まあ、デモニス――妖魔種のような存在もいるものの、基本的には人か否かは、パッと見の外見だけで判断が付くのである。


 だから、ソーマが最初に戸惑ったのは、それが理由であった。


「人……? だがこの気配は……」

「え、人……? 何で他の人がここに……?」

「わたし達と同じ目的なのです……?」


 ソーマ達の視線の先、十メートルほどの場所に立っているそれは、少なくともパッと見の外見は人そのものであった。

 身体がこちらを向いており、顔を伏せているためにそれがどのようなものなのかは分からないが、それだけは確かだろう。


 身長は百六十前後といったところか。

 細くすらりとした手足に、金色の髪。

 右手に剣を、左手に盾を持ち、僅かに膨らんだ胸元に胸当てをつけている。


 かなりの軽装備ではあるが、ソーマ達も他人にどうこう言えるような装備をしてはいない。

 故にその目的は分からずとも、ソーマ達よりも先にここを訪れた人なのだと考えられなくもないのだが――


「……いや、やはり違うであるな」

「……ん、違う」

「違う、って……え、何が違うのよ? どう見ても人じゃないの……」

「……いえ、確かによくよく見てみれば、何処となく違和感が……?」

「うむ……というかアレ、もしかすると――」


 言葉を最後まで口にすることは出来なかった。

 それよりも先に、ソレが動いたからだ。


 上げられた顔はやはり人のそれであり……しかも、かなりの美貌だ。

 だが。

 瞬間その背から生えた一対の純白の羽が、それが人以外の何かであるということをはっきりと示していた。


「羽……!? って、じゃあ本当に、人じゃ……!?」

「人型に羽……ハーピーとは少し違う気がするのですが……」

「……ん、あれは確か、腕が羽のはず」

「ふむ……? おや、見た目通り天使なのかと思ったのであるが、違ったであるか?」

「天使……? なにそれ、初めて聞く名称ね……まああたしはそれほど魔物に詳しいってわけでもないけど」

「いえ、わたしも聞いた事ないのです」

「……ん、同じく」

「……む?」


 ソーマがそこで眉を潜めたのは、当然のこと、天使という名を聞いても皆が何の反応も見せず、ばかりか魔物と判断したことであった。


 いや確かに、人型とはいえ羽が生える時点で人と判断するのは難しいが……それでも、やはりソーマの目には、どう考えても天使にしか見えないのだ。

 まあ厳密には天使の実物を見たことはないのだが。


「……三人に聞きたいのであるが、もしかして天使というものを知らないのであるか?」

「少なくともあたしは初めて聞いたけど……なに、有名なの?」

「わたしも知らないのですが……もしかして、危険な魔物とかなのです?」

「……さっき言った通り」

「ふむ……」


 その言葉を聞き、ソーマは、そういえばここは異世界だったということを、久方ぶりに実感した。

 魔物の名前など、割と共通して通じる知識が多かっただけに、こちらでも当たり前に通じると思っていたのだが……まさかこの世界に天使という存在がいなかったとは。

 三人が偶然知らないと考えるよりも、ここはもうそう考える方が自然だろう。


 だがそうなると、と、羽を生やしたきり、こちらを警戒するように動きを見せないそれを眺めながら、思う。

 ということは、幻想種ということも有り得ないだろう。

 てっきり天使の幻想種かと思ったのだが……どうやら違うようだ。


 ――幻想種。

 それは人の幻想という想念によって星から生じた存在であり、端的に言ってしまうのであれば空想上の生き物だ。

 この筆頭が龍であり、幻想種と呼ばれる存在は、ある種その全てが自然な存在ではない。


 その発生のメカニズムは諸説あるものの、大体のところで共通しているのは、それが人類が共通して認識している想念、幻想や空想といったものが形を成したものだということだ。

 例えば龍であれば、人の想像する最強という幻想、概念が集まった結果、形を成すまでになってしまったものである。

 それを星が、世界が外へと放り出したことにより、龍という存在が生み出されることとなったのだ。


 まあつまりは、人の想像や空想が世界に影響を与え、それを実体化させてしまった、というところか。

 勿論一人ではそれは不可能だが、人類という全てのそれが合わさったことにより、それが可能となってしまったのである。


 そしてそれは無意識であるが故に、制御は出来ない。

 ついでに言うならば、生み出した存在は人類の共通認識だ。

 単純に言ってしまうならば、人が最強という概念を以って生み出した龍という存在は、そのまま最強の存在だということである。

 少なくとも人の身のままであれば、龍には傷一つ付けることは出来ないだろう。


 ともあれ、そういうわけであの天使? も何らかの概念により生じた幻想種なのかと思ったのだが……あくまでも幻想種は、空想上の生き物である。

 人の想念が元となっている以上、その空想も人のものだ。

 しかも共通認識であることを考えれば、それは人の大部分が知っていなければならない。

 しかしその可能性が低い以上、あれは幻想種でない可能性が高い、ということになってしまう。


 となると――


「ふむ……生物兵器と考えるのが無難であるが……」

「生物兵器って……確か、既存の生物や魔物に人為的に手を加えたもののことよね……?」

「なのですね。ついでに言えば、名前の通り、それを兵器として運用することにしたもの、でもあったはずなのです」

「……ん、合ってる。……そして生物兵器は、元となった生き物の外見が色濃く残るはず」

「そう、よね……ってことは、アレって、もしかして……?」

「いや……あれに関しては、そっちではない気がするであるな。どちらかといえば、あれは模倣のためにあの形を取ったのであろう」


 一言で生物兵器と言っても、それは結果的に同じようなものに見えるだけで、そこに至るまでの過程は幾つかに分かれる。

 そして前世の世界でも龍を模した生物兵器というのは存在したが、何かを模した生物兵器というのは、通常の生物兵器とは開発思想そのものが異なるのだ。


 通常の生物兵器というのは、生物と生物、或いは生物と何かを掛け合わせ、混ぜ合わせることで、その力を増幅させる、というものである。

 対して何かを模した生物兵器というのは、その姿を真似ることで、姿だけではなく力すらも近づけようとする試みの一つだ。


 ただ普通それは幻想種を模すはずである。

 何故ならば、既存の生物を真似たところで、その力に近付くわけがないからだ。

 幻想種ならばその可能性があるのは、幻想種が概念の存在だからであり……まあ、あくまでも机上の空論であり、ソーマもそんなことを前世でしていた、ということを知っているだけなのだが。


 だが世界が変わっても、元となる知識に大差がないのならば、やろうとしていることも大差ないだろう。

 だからここで問題となるのは、何故あの姿にしたのか、ということだ。


 まさか偶然そうなった、というのは考えづらいだろう。

 何せあんな姿にする必然性が何処にもない。

 人に羽を生やさせたからといって、一体何だというのか。


 つまりアレを作った何者かは、天使という存在を知っていた可能性があるということだが……さて。

 三人が知らないだけで、この世界の何処かにも天使という存在を伝えている場所があるのか、それとも過去には存在していたということなのか……或いは――


「……ま、何にせよ、アレが障害なのは確定、というところであるか」

「……そうね。なんていうか、思いっきり警戒してるみたいだし」

「ただここまで魔物がいなかったのに急にあれが出てきたということは、目的のものに関係がある可能性が高いのです」

「……ん。……邪魔するなら、倒すだけ」


 色々と気になることはあるが、今はそれを気にするべき状況ではない。

 それはあれを倒してから、存分に考えればいいことだろう。


 まああれが何であれ、油断することは出来なさそうだが、最初からそのつもりもない。

 とはいえどうにも向こうから仕掛けてくるつもりはなさそうだが……ならばこちらから行くまでだ。


 ソーマは木剣を腰から引き抜くと、そのままあの天使モドキへと向かい、地を蹴った。

説明ばかりな上に短いので夜にも更新予定です。

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