元最強、再び怪しい人物と話す
「……え!?」
その姿を発見するや否や、驚きの声を上げたのはアイナであった。
どうやらまるで気付いていなかったらしい。
驚きに目を見開き、そんなアイナへとソーマは肩をすくめる。
「ふむ……以前リナから言われたであるが、確かにアイナは少々周囲への観察と警戒が足りないようであるな」
「むしろ何であんたは気付けたのよ……って、え? もしかして、気づいてなかったのってあたしだけ、なの……?」
「いえ、わたしも気付けてなかったのです」
「……ん、私も」
「あたしだけじゃないじゃないの……!」
「いやいや、アイナだけじゃないとしても、アイナの観察と警戒が足りていないことに違いはないのであるぞ……?」
などと、そんな戯言を交わしている間に、黒いローブの人物がこちらへとやってきた。
その姿は見間違えようがなく……まあ、黒いローブを被っているだけではあるので、中身が別人という可能性もなくはないが、普通に考えればないだろう。
それに、前回はソーマ達が居て、さらに周囲が騒がしかったからかと思ってもいたのだが、今回は大して人がいないのに、明らかにその人物は周囲から注目を集めていない。
シーラと同じようにローブに何か秘密があるのか、或いはその人物が何かしているのは確かだろう。
そんなことを出来る人物が、わざわざ中身を入れ替えたりするとは思えない。
前回と同一人物だと考えて、間違いがないはずだ。
そして何のために近付いてきたのかも、考えるまでもないだろう。
「さて、それで今回もヒントを持ってきてくれたのだと思うのであるが、相違ないであるか?」
「ふむ……話が早いのは助かるが、驚かせ甲斐がないな。それにこちらのことが見透かされているようで、怖くもある」
そんなことを言いながら、その声音には面白そうだとでも言いたげな気配すらにじみ出ている。
何処まで本音なのやらと思いつつ、肩をすくめた。
「それはつまり……これの使い道的なものを教えに来たってことなのです?」
「然り。必要だろう?」
「……確かに必要だけど、ちょっとタイミングよすぎない? というか、どうやってここまで来たのよ? あたし達馬車で一直線にここまで来たんだけど……?」
アイナはその人物に明確な警戒を向けていたが、まあそれはそうだろう。
この状況で警戒しない訳がない。
それはあまりに、色々と都合がよすぎた。
「なに、無駄に歳だけは重ねてきたのでね。この程度の曲芸ならば、何とかなるものだよ」
さすがにそれを頭から信じるようなことは誰もしないが、現状ろくに手掛かりがないのも事実なのだ。
あとは何処で誰から、どれだけ怪しい情報を得るか、という違いでしかない。
誰もここに知り合いがいない以上、それがギルドからのものでもない限り、そこに大差はないのである。
そしてならば、少しでも知っていそうな人物の話を聞くというのは、悪い話ではなかった。
他よりも明らかに怪しかったとしても、だ。
「それで、儂に話はさせてもらえるのかね?」
「……ん、聞く」
「それは重畳」
そう言って、わらうような気配を見せた男が語ったのは、それは単体で用いる物ではない、ということであった。
というよりは、それは鍵のようなものであり、それを使うものにこそ、意味があるのだと。
「鍵、ねえ……まあ言われてみればそんな風に見えなくも……?」
「……それで、その肝心なもの、とやらは何処にあるのです? まあ何となく想像は付くのですが」
「……ん、これがあったのは、遺跡。……なら」
「くっく、いや、本当に話が早い。まあ、そういうことだ」
「……はぁ。つまり、また移動が必要ってことね。旅に出ているんだから当然と言えば当然なんだろうけど、最近移動ばっかね」
「まあ、そこら辺は仕方がないから諦めるのです。それに何となく、これで一段落つきそうなのですし?」
「うむ、それは保証しよう。まあ待っているものがお前さん達の望むものであるかは、分からんがね」
その人物はそうしてその場所と行き方を教えると、さっさと踵を返し、去っていってしまった。
途端に、思い出したかの如く、周囲のざわめきが戻る。
「ふむ……まあ、とりあえず、次の目的が決まったと考えるべきであるかな」
「ちょっとそれ前向きすぎない?」
「でも、事実ではあるのです。……ところで兄様」
「うん? どうしたであるか?」
「いえ、先ほど少し口数が少なかった気がしたので、何かあったのかと思ったのです」
「……そういえば、最初の頃はともかく、途中からあまり喋ってなかったわね?」
「いや、なに、少し考える事があっただけであって、気にする必要はないのである」
そう言って肩をすくめると、訝しげな視線は向けたものの、一応二人は納得したようだ。
ただ一人、シーラだけはジッとこちらを見つめてきていたものの、ソーマはそれに苦笑を返す。
本当に、気にするようなことではないのだ。
少なくとも、今は。
「ま、とはいえさすがにすぐに出発するのもあれであるし、今回の祝賀会を開いた後、一晩休んで、明日の朝出発するであるかな」
「祝賀会? 今回は財宝手に入れられてないのに?」
「確かに冒険者としては失敗かもしれんであるが、我輩達としては一歩前進したわけであるしな」
「……ん、確かに」
「まあそう言われれば、それもそうね……」
「じゃあとりあえず、色々と頼むのです。すみません、なのです!」
そうして少し早めのごちそうを食べると、そのままソーマ達は少し早めに就寝することとなった。
単純にやることがなかったし、馬車の中では取りきれなかった疲れや、遺跡の探索による疲れもあったからだろう。
ぐっすりと眠り、明けて早朝。
未だ動き出したばかりの街を、再び馬車に揺られながらソーマ達は後にした。
「ふむ……何と言うか、そろそろ遺跡に来るのも慣れてきた気がするであるな」
「確かにね。最初の頃はもう少し何か思ってた気がするけど、今回はもうようやく着いた、って感じだし」
「まあこれだけ移動と探索を繰り返していたら当然な気がするのです」
「……ん、私もこんなに繰り返すのは、初めて」
そして五日後、ソーマ達はそれの前に立っていた。
今回は、ヨードル男爵領から出てはいない。
ただ、随分と外れの方の場所のようだ。
近くにあった街がヤースターとほぼ同等の規模だった時点でお察しというものである。
もっともギルドに関して言えば、ヤースターの方がマシ……いや、比べるのすらドリスに失礼といった感じだ。
一応代行はいたものの、非常にやる気が感じられなかったのである。
あれでは何かあった時大丈夫なのかとすら思ったものだが……まあそこら辺はソーマ達が心配することではあるまい。
ともあれ、そんな感じであったので、情報収集もろくに出来ずここに来ることになったわけだが――
「ただそれでも……これはまた初めてのタイプであるな」
「まあそれを言ったらこれまでのも全部初めてだったけど……確かに前の二つとは趣がまったく違うわね。というか、これって本当に誰も気付かなかったの? 結界があるとはいえ、誰か気付きそうなものだけど」
「……ん、むしろ、これだからこそ? ……多分、ここに遺跡があるって知らなければ、そもそもここに近付こうとすら思わない」
「ああ、確かにちょっと不気味なのですし、あまり好んで近付こうと思わないかもしれないのです」
「それでも冒険者ならば近付こうとする輩がいそうな気もするであるが……ここが外れであることと、結界の作用により気付かれることはなかった、というところであるか」
それは端的に言ってしまうならば、森であった。
魔の森よりもさらに木々はうっそうと生い茂っており、むしろこちらの方が魔の森という名に相応しい気すらしてくる。
ただしそれは同時に、遺跡でもあった。
森と同化するようにして……否、或いは、事実同化しながら、そこに存在していたのだ。
「これでは規模も調べようがないであるが……まあ、古代遺跡なんてそんなもんであるか」
「……ん。……中には、見た目と中が全然違うのもある」
「さすがにこれでそれはないでしょうから、それに比べればマシ……なのかしらね?」
「まあとりあえず、行ってみるだけなのです」
「うむ。見ていたところで分かることはなさそうであるし、それでは行くであるか」
ソーマの言葉に、三人が頷き。
そうして四人はその遺跡へと、足を踏み入れたのであった。




