元最強、再び怪しい人物に出会う
人気のなくなったそこに、黒いローブ姿のそれは唐突に姿を見せた。
祭壇へと近付き、アレがなくなっているのを確認すると、一つ頷く。
「ちゃんと持っていったか……よし、これで計画通り進められそうだな。それにしても、予想以上にやるものだな……他のやつらも意外にやるものだったが、アイツ等ほどではない。あれならば、上手くいけばあそこも突破してくれそうだが……さすがにそれは高望みか? だがこれで何とか目処は付いたな。……さて、では最後の仕上げといくか。……正直あの演技は過剰だった気もするが、まあいいだろう。全ては我らが主と我らが理想のために、だ」
そうして呟くと、それは現れた時と同じように、唐突に姿を消したのであった。
ヴァイオットへと無事に戻ったソーマ達は、その足でヴァイオットにある冒険者ギルドの支部へと向かった。
特に今回報告するようなことや換金するようなものはないのだが、分からないことがあったらとりあえずギルドへと向かうのは冒険者の基本中の基本だからだ。
ギルドは最も冒険者が集まる場所であり、それは即ち最も情報が集まる場所だということでもある。
そこで分からないことは、誰も知らないか、或いは秘匿されているということなのだ。
向かわない理由がなかった。
ヴァイオットのギルドは位置的には中央にあるが、目抜き通りからは僅かに外れたところにある。
まあこれはヤースターやルンブルクでもそうであったのだが、どうも街にとっての冒険者の扱いというのは、役に立つしいなければ困るが、あまり幅を利かせられても困る、というものらしい。
もっともその多くがゴロツキ崩れだということを考えれば、さもありなん、といったところである。
ただその役割の大きさを示すように、建物そのものは大きい。
すぐそこにある目抜き通りに面している商館と同等以上の規模なのだから、その影響の程も知れようというものである。
閑話休題。
そんな場所へと赴き、木製の扉を開けば、視界に入ったのはそこそこの賑わいだ。
酒場を兼任しているそこには沢山のテーブルと椅子が並べられているが、埋まっているのは大体そのうちの三割程度といったところか。
多すぎもせず、少なすぎもしない。
そんな感じであった。
「ふむ……少し早かったかと思ったであるが、そんなこともなかったであるな」
「……ん、ここの人達は、少し早めに戻ってきてるみたい?」
「そういうのって、土地柄とかあるものなのかしらね?」
「周りが皆同じようなことをしていれば自分もそうすべきなのかと思うのでしょうし、あるんじゃないのです?」
陽が傾きつつあるとはいえ、まだ夜となるには早い時間帯だ。
シーラによれば普通冒険者はもう少しねばるものらしいが、今日は偶然なのかここの土地柄なのかそこそこの冒険者が既に戻ってきている。
まあ理由はともかく、このぐらいが話を聞くには都合がいいのは事実だ。
人が少ないから話をしやすく、出来上がっていないのでとりあえず会話は成り立つ。
それでいて多少の酔いは口の滑りもよくなっているだろうから、聞き込みをするには最適だ。
問題があるとすれば、こちらの見た目が子供そのものでしかないことだが……そこは何とかするしかないだろう。
「ま、とりあえず、色々と聞いてみるであるか」
「……ん」
ともあれそういうわけで、一先ずその場に散らばることとなった。
塔にあった祭壇を調べたソーマ達は、呆気ないほど簡単にそれを見つけることが出来た。
前回の遺跡と同じように祭壇が動き、そこにそれがあったからだ。
念のために罠がないかと警戒していたものの、特にそういったものはなく、そのまま手に取ることさえ出来た。
色は黒。
大きさとしては掌に乗るぐらいであり、材質は不明。
色だけならば龍の彫像と同じだが、同じものではないだろう。
小さな球体であり、祭壇を動かした後に、それがポツンと置かれていたのであった。
ただ逆に言うならば、あったのはそれだけだったのだ。
当たり前と言うべきか、それがどういったものなのかという説明などは一切なし。
――魔の頂へと繋がる力、ここに眠る。
そんな一文が古代神聖文字で刻まれてはいたが、それがどういったものなのかを理解しろというのは無理な話だろう。
少なくとも、それを持っただけで魔法が使えるようになった、などということはなかった。
まあしかし、目的のものと思われるものを手に入れられたことに違いはなく、一応他にも探してみたものの他には何もなし。
そのためそのまま遺跡を後にし、少しでもそれに関しての情報を得られないかと、ここにやってきたということであった。
ともあれ。
意外にもというべきか、話はスムーズに聞くことが出来た。
ただどうにもその理由は、シーラのことが既に噂として流れているからのようだ。
というのも、実はこのギルドには遺跡に向かう前に一度寄っていたからである。
ルンブルクはシーラが事前に情報を集めていたために即座に遺跡へと向かえたが、さすがにここはそうもいかない。
向かおうとしている遺跡について何か情報はないか、他にも道中危険なものはないかなど、最低限の情報を手に入れてから向かったのである。
とはいえその時は既に朝を回ってしまっていたため、ギルドに冒険者の姿はほぼなかった。
冒険者が動き出すのは大体朝早く、ギルドが動き出すのとほぼ同時なのだ。
それはその時に依頼書が張り出されるからではあるのだが……まあ今は関係ないから割愛する。
何にせよそんなわけで冒険者に話が聞けない以上は、ギルドから話を聞くしかない。
そんなわけで向かったのはギルドのカウンター、そこにいる受付嬢であった。
ヤースターではギルドの業務全般を代行であるドリスがほぼ一人でやっていたが、ここはあそこに比べれば大分規模が大きい。
そのためここには正式なギルド職員が派遣され、さらには受付嬢も雇われているのだ。
冒険者がまず接するのは、その受付嬢なのである。
もっとも受付嬢とはいえ、対面する相手が相手なので、元冒険者であることが多いらしいが。
多少荒事が生じた際にも平気なようにとの配慮らしく、しかし見目麗しい人物ばかりが揃っているためか、あまりそういったことは感じない。
おそらくは、敢えてそういったことを感じさせないようにしているのだろう。
美女を目にしてやる気がなくなるとか言い出すのはよっぽどな人物だけだろうし、それが冒険者としての成果に繋がるならばギルドとしては言うことがない。
何だかんだで、こちらにも気分よく利用させようとする配慮がされているということだ。
ともあれその受付嬢に話を聞きにいったのだが、正直その態度は褒められたものではなかった。
表面上はにこやかな笑みを浮かべているものの、まともに相手をしようとしていない、というのが一目で分かったのである。
まあ向こうからすれば、こちらは面識のない、冒険者かすらも分からない相手だ。
だから何をしでかすのか分からない……と、幸いにもソーマ達はそういう冒険者と今まで知り合う機会はなかったが、大半の冒険者というのは、きっとそういう存在なのだろう。
しかし何にせよ受付嬢のその様子も、長くは続かなかった。
シーラがおもむろに取り出したギルドカードを見るなり、その態度をガラリと変えたからだ。
――え、ランク五!?
受付嬢がそう叫んだのを、ソーマははっきりと覚えている。
ランクというのは、冒険者としての等級を示すものだ。
実力ではないのがポイントだが、どちらかといえばそれも含めての信頼性、というところだろうか。
何らかの理由により冒険者として信頼出来ないとされたものはランクが低い。
そういうことである。
ちなみにランクは一から十まであり、三で一人前、五で一流と同義だ。
それで何故驚くのかと言えば、この規模の街であれば、ランク五の冒険者など一人か二人でも居ればいい方だからである。
つまり普通はいないのだ。
さらに言うならば、ランクを一つ上げるのに普通は数年、下手をすればそれ以上かかる。
しかもランクが上がる毎にその難しさが上がり、必要な年月が増えるとまで言えば、その珍しさが分かるだろうか。
ついでに付け加えれば、シーラは見た目完全に子供だ。
これに驚くなという方が無理だろう。
まあソーマとしては、それを知った受付嬢の態度が一変したのがちょっと面白かったが。
ともあれ、そうして無事受付嬢からは必要な情報を――遺跡の情報はなく、特にそこまでに危険なものもないということを――得てから遺跡へと向かったのだが……その時、数人とはいえ冒険者がまだそこには残っていた。
そこからシーラがランク五の冒険者という話は広まったのだろう。
何せ見た目が見た目であるし、話題性は抜群だ。
そしてランク五に逆らうような冒険者は、ランク一だろうといるわけがない。
媚びておこぼれを貰うことはあっても、逆らって無事で済む訳がないからだ。
一流などと呼ばれているのは、伊達ではないのである。
勿論、シーラがそんなことをするかどうかは、また別の話ではあるが。
まあ何にせよ、そうして何の苦もなく情報を集める事が出来たわけだが――
「……結論から言ってしまえば、特に情報はない、ということであるな」
「……ま、予想通りと言えば予想通りかしらね」
「なのですね。まあ、遺跡から見つかったもので魔法を使えるようにする方法を知ってるか、とか言われたところで、困惑するのは当然だと思うのですが」
「最近遺跡の近くにあった村が滅んだ、みたいな話は聞いたけど、それ以外では遺跡に関する話そのものがほとんどなかったものね」
「とはいえそれ以外に言いようがないというか、それ以外に聞きたいこともないであるしなぁ」
「……ん。……あと、一応、これを見せて何に使うのか知ってる人がいるかも聞いたけど、いなかった」
皆で集まった後、テーブルの一つに座ると、それぞれの成果を口に出す。
もっとも、それを成果と呼んでいいのであれば、だが。
ちなみにあの黒い球は、一応この依頼の元を持ってきたのがシーラだということで、一先ずシーラに預けてある。
それを見せても、誰からもろくに反応すらなかったということであり……であるならば、他の皆がどうなのかなど言うまでもないことだ。
つまりは、手掛かりなしだということであった。
とはいえそれは予想通りのことだし、それが分かったからこそ動く方法もある。
誰も知らないということは、普通の手段ではその利用法すら知ることは出来ないということだからだ。
それを知るには、普通ではない手段を使用するか――
「――或いは、それを知ってる人物から聞き出すか、であるな」
「……おや、まさか気付いていたのかね? ふむ、折角だから、今回は少しばかり脅かしてみようかと思っていたのだが」
振り向いた先。
そこでは、いつかのように、黒いローブに身を包んだ人物が、立っていたのであった。




