元最強、塔の最上部に辿り着く
遺跡の先へと進むごとに、ソーマ達の口数は自然と減っていった。
それは魔物の襲撃の頻度が上がってきた、というのもあるが……何よりも、皆肌で感じるところがあったからだろう。
この先に、何かろくでもないものが待っているのだろう、ということを。
そして。
その感覚は、四つ目の階段を目の前にした時に、ピークに達した。
「さて……ではこれからこの先へと向かうわけであるが、準備はいいであるか?」
「ばっちりなのです!」
「……ん、問題ない」
「っていうか、今更準備するようなこともないでしょ」
「まあそうなのであるが。念のためというか、そんな感じであるな。というか、正直アイナはもう少しうろたえたりするかと思ったであるが……」
「どういう意味よ? あたしだって今までずっと旅してきたのよ? いい加減慣れてきたわよ……まあそれに、ソーマがいるんだから結局どうとでもなるでしょ」
「つまり、兄様がいるから安心、ということなのです?」
「そ、そんなことは言ってないでしょ!? ……まあ、間違ってもいないけど」
「これは責任重大であるな」
「……ん、重大」
そんな軽口を交わしながら、ソーマは少しだけ口元を緩める。
実際問題、この先に待っているだろう何かは、ソーマ一人ならばどうとでもなるはずだ。
離れた場所でもその力を感じるということは、その大体を予測出来るということでもある。
少なくともあのアルベルトとかいうのに比べればそれは小さく、故に問題とはならないだろう。
問題が発生するとすれば、それはアイナ達と一緒の場合はどうなるか分からないということだ。
アイナ達は才能面で言えば圧倒的だが、それでも経験がまったく足りていない。
格下相手でも、それが隙となってしまう可能性は十分有り得るのだ。
だがそれを理解した上で、気負わずにいけるのならば何とかなるだろう。
まあそれこそ最悪、ソーマが何とかすればいいだけの話である。
それでも、いい経験になるはずだ。
そうして最後にもう一度確認をした後で、ソーマ達はその階段を上り始めた。
それは今まで上ってきたものと変わりなく……しかしそれも、最後の一歩を刻むまでの話だ。
踏み出した瞬間、そこに広がっていたのは、今までとは異なる光景であった。
「ふむ……まあ、予想していたことではあるが……」
「そうね……何が待ってるんだとしても、そうなんだろうと思ってはいたし」
「……ん、歩いた距離を考えれば、そろそろでもあった」
「ようやく、という感じなのですね」
四人が目にしているのは、石造りの天井ではない。
そもそもそこは、アイナが光球で照らすまでもなく、別の光によって照らされていたのだ。
それは陽の光であり、即ちそこは、塔の最上部ということであった。
「そして……あれもある意味で、予想通りではあるかな」
「……ん。……黒い、龍。……予想は、してた」
そこに余計な壁はなく、あったのは一面の広間。
そして正面にあったのは、どこか見覚えのある祭壇であり、その奥にはやはり見覚えのある漆黒の龍の像が鎮座している。
この前の遺跡と、同じであった。
とはいえ、あの男が言っていたことが事実なのだとすれば、そう不思議なことでもないだろう。
実際ソーマは予想していたし、シーラ達も同じだったようだ。
だからそれほど驚くことはなく……だがおそらくはそこに何かがあるだろうに、誰もそこに向かおうとはしない。
「それはいいんだけど……え、他には……?」
「これだけ……のはずが、ないのです……」
どころか、アイナとリナに至っては、妙に緊張までしており……まあ、それがどうしてなのかなどは、考えるまでもないだろう。
それは二人の言っている通り。
そこには、その祭壇と龍の像以外には、何もなかったのだ。
未だに肌を刺すような感覚は続いているのに、である。
しかし周囲を油断なく見回している二人に、ソーマは小さく息を吐き出した。
相変わらず顔を隠したままのシーラも、何処となく呆れたように二人を見ているような気がする。
その理由は、単純。
確かに油断なく警戒はしているのだが……この状況で最も警戒が必要な場所を、二人揃って見落としているからであった。
「まあここまで堂々としていると、いっそ気付きにくいというのも分かる話ではあるが……」
「……ん。……でもこれは、気付く必要がある。……固定観念のせいで見落とすのは、警戒が甘い証」
「ちょっと……何の話よ?」
「固定観念、なのです……?」
「……簡単なこと」
「ま、この開けた状況で、何処から襲撃されたら最も厄介か、ということであるからな」
「何処から襲撃されたら」
「最も厄介か、なのです……?」
直後、二人がほぼ同時に、あ、という声を漏らし、やはりほぼ同時にとある方向へと視線を向けた。
つまりは、真上へと、だ。
そして狙ったかの如く、それが現れたのもまた、ほぼ同時であった。
上空から降ってきたそれが、叩きつけられるように地面に降り立つ。
しかもそれは、一つではない。
数十、数百というそれらが、次々と合わさり、重なり、一つのモノを形作っていく。
最初は、二本の足を。
次いで下半身を、続けて上半身を、二本の腕を。
そうして最後に、頭部を。
一本一本が、自身と同等とまではいかずとも、優に半分を超えるだろうそれらは、骨であった。
そう、即ち……形作られたそれは、巨大なスケルトンだったのである。
「ふむ……さすがにちょっと予想外だったであるな」
「……ん。……というか、多分これ魔物じゃない?」
「で、あろうな」
巨大さも問題ではあるが、何よりも問題だったのはあの登場の仕方だ。
あんな無駄なことをする魔物は存在しない。
そこには人の手が加わっていると考えるのが妥当だろう。
故にこれは魔物というよりも、何らかの生物兵器な可能性が高い。
この遺跡に何の仕掛けもなかったのも、そうであるならば納得がいく。
これ自体が仕掛けであり、これだけで十分。
そういうことである。
「まあ随分と頭の悪い仕掛けではあるが……」
「……でも、遺跡の中では割とよく見かける」
「天才と何とか紙一重、ということであるか……」
そういうのは、世界や時代が変わっても同じらしい。
と。
「ちょっ、ちょっと……!」
「うん? どうしたのである、アイナ? そんなに慌てて」
「そりゃあんなのが出てきたら慌てるに決まってるでしょうが……! むしろ何でそんなに落ち着いてるのよ……!」
「いや、何が出てくるのなんて分かっていたことじゃないであるか。それがちょっとばかり大きかっただけで」
「……ん、割とよくある」
「古代遺跡恐るべしなのですし、兄様達もさすがなのです……」
「ま、それに確かに図体はでかいであるが、それだけであるしな」
いや、実際にはそれは十分な脅威ではあるのだが、それは的が大きいということも意味している。
少なくともソーマには、それは弱点でしかなかったのだ。
「……はぁ。なんかあんた見てると、慌ててた自分が馬鹿みたいだわ」
「うむ、落ち着けたようで、何よりであるな」
まあそれにこんなことは、所詮経験次第でもある。
確かにでかい。
でかいが……前世の最後に戦ったアレと比べれば、大抵のものはどうとでもなると思えるものなのだ。
アイナ達もそのうち、きっとそう思えるようになるだろう。
「……あんたと一緒にしないでって言いたいんだけど、シーラも落ち着いてるのよねえ」
「……ん、色々経験すれば、慣れる」
「それ大変なことを繰り返すという意味でもあると思うのですが……まあ、兄様に着いていくには、覚悟するしかないのですね。まあ、そんなものは、とっくに出来ているのですが!」
「まあ……分かっていたことではあるわね」
「さて、皆が無事いつも通りとなれたようであるが……どうやら、向こうも動き出しそうである」
軋みを立てながら、それの頭がゆっくりと下を向いた。
自分達が見られていると、はっきり分かり……その腕が動いたのは、その直後。
ほぼ同時に、それを迎撃するため、ソーマも地を蹴った。




