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元最強、遺跡を探索する

 どうやらこの、迷宮なのか遺跡なのかよく分からない場所は、思っていた以上に厄介であるらしい。

 何が厄介かと言えば、勿論――


 ――剣の理・龍神の加護・常在戦場・気配察知特級:奇襲無効。


「まったく……ろくに休む暇すらないであるな」


 ――剣の理・神殺し・龍殺し・龍神の加護・絶対切断・万魔の剣・見識の才:我流・模倣・斬魔の太刀。


 ぼやきと共に真横へと腕を振るえば、僅かな感触を覚えた直後、すぐそこに迫っていたそれが霧散する。

 壁を通過し現れたそれは魔物の一種であり、ゴーストと呼ばれるものであった。


 その姿はローブを被った人骨に近いが、下半身はなく、そもそも全体的に半透明である。

 魔物としては死霊に分類され、浮遊していることなどから考えても……まあ、そういった魔物だ。


 最初に襲われたのもそれであったのだが、どうやら非生物どころか、非物質的な存在らしいので、壁などは無視する事が出来るようなのだ。

 強くはないので倒すのは楽なものの、何処からでも現れるというのは割と面倒である。


 ただ、逆に言うならば、それらは面倒なだけであり、厄介ではない。

 では厄介なのは何かと言えば、この遺跡そのものであった。


 何せあれから一時間ほどは経過しただろうが、未だに自分達が何処ら辺を歩いているのかすらも分かってはいないのだ。

 いざとなれば最終手段があるため、それほど焦ってはいないものの、厄介なことに変わりはないだろう。


「というか、ここってこんなに広かった? 外からざっと見た限りでは、ここまで広くなかった気がするんだけど……」

「……確かに、言われてみれば、一時間も歩き続けられるほどの大きさだったようには思えないのです。仮にグルグル回っているのだとしても、さすがに行き止まりに辿り着くぐらいはすると思うのですが……」

「うん? なんだ、二人とも気付いていなかったのであるか?」

「え? 気付いていないって……何がよ?」

「……ここの空間、歪んでる」

「歪んでる……え、もしかして、見た目以上の大きさがあるってことなのです?」

「どころか、そもそも我輩達は、真っ直ぐ歩くことすら出来ていないのである」

「……? どういうこと?」

「……多分、時折ここの通路は、通路ごと別の場所に移動してる」

「はい……? え、それってもしかして……」

「入り口のあの時のように、なのです?」

「似たようなものであるな」


 厳密には異なるものではあるが、結果だけを見れば大差はない。

 だがどちらがより性質が悪いのかは、言うまでもないだろう。


「何よそれ、全然気付かなかった……っていうか、分かってるんなら言いなさいよ!?」

「規則性が未だに読めていないであるし、知らないからこそ気付ける事がある、という可能性も残っていたであるしな」

「……わたしも全然分からなかったのです。兄様達は、何で気付けたのです?」

「我輩は太陽の位置であるな。時折歩いている方向を確認するために見ていたのであるが、何度かどう考えても変わってる時があったのである」


 現在の太陽の位置は、ほぼ真上だ。


 しかしあくまでもほぼであり、僅かな傾きが存在している。

 それが時折、変わっているように見えたのだ。

 今のところ、常に真っ直ぐにしか歩いていないのに、である。


「よくそんなんで分かるわね……あたしだったら気のせいだって思っちゃいそうだわ」

「我輩も最初はそう思ったであるが、さすがに何度も起こったらおかしいと思うのである……まあ、これはここに来た時間次第では簡単に気付けたであろうから、随分不運だったというところであるが」

「むぅ……それでも気付けたのですから、さすがなのです。ちなみに、シーラさんは何でなのです?」

「……私は、ソーマを見て」

「我輩であるか……?」


 首を傾げたのは、そこまで露骨な真似はしていないつもりだったからだ。

 まあ本当に露骨であったならば、アイナ達も気付いていただろうが。


「……ん、周辺を確認するだけにしては、何度も上を見すぎてた」

「ふむ……気をつけてたつもりであったが、我輩もまだまだということであるか……」

「うん? 気をつけてたって、何でよ?」

「それは勿論、アイナ達にばれないようにであるが」

「何でよ!?」


 叫んだアイナに、肩をすくめる。


 勿論それは、意地悪が目的ではない。

 きちんとした理由があってのことなのだ。

 というのも――


「今回は我輩が気付けたであるが、いつも気付けるとは限らんであるからな。そのため、周囲を注意深く見ることの重要性を実体験から教えておきたかったのである。特にアイナには」

「……確かによく分かったけど、何で特にあたしなのよ?」

「ああ……なるほどなのです」

「え、リナは分かったの?」

「はいなのです。基本的に兄様は前方を、わたしは後方に注意を向ける必要があるから、なのですね」

「あっ……なるほど。周囲を観察するほどの余裕があるのは、あたしだけってことなのね……」


 要するに、隊列上の問題だ。

 ソーマ達は基本ソーマが前衛で、アイナは中衛、そしてリナは後衛を務めている。

 大体の場合であればソーマも奇襲を防ぐ自信があるが、それだって絶対ではない。

 そのためソーマは勿論のこと、リナも周囲の警戒を行う必要があるのだ。


 今はシーラが居るため、後衛と共に後方の警戒もシーラに任せられているものの、本来そういった意味であいているのはアイナのみ。

 故に、周囲の観察を行うのに最も相応しいのは、アイナなのである。


「あとは単純に、周囲に注意を向ける人間が増えれば増えるほど、何かを見つけられる可能性も上がるであるしな。ただ気をつける必要があるのは、そっちにばかり意識がいって他のことに注意を向かなくなってしまったら無意味だということであるが」

「わたしで言えば、後方をちゃんと気をつけろ、ってことなのですね?」

「そういうことなのである」


 頷きつつも、周囲に注意を払い、先へと進んでいく。

 そうしながら、割とここはいい教材でもあるな、などとソーマは思っていた。


 魔物は大した事がなく、危険度が少ない割に、仕掛けは地味に凶悪だ。

 ここに来た時間次第でもあるが……気付けなければ、或いは長時間閉じ込められてしまう可能性だってあるだろう。


 だがそんな場所だからこそ、教えられることは沢山ある。

 今後のことを考えていけば、それは後々、役に立つはずであった。


 ……まあそれとは別に、少し気になることもあるが、それは追々、というところだろう。


「……ん、少し羨ましい、かも?」

「うん? 何がであるか?」

「……ソーマから、色々教えられて?」

「とはいえ、我輩よりもシーラの方がこういったことは知っている気がするのであるが?」


 ソーマがそういうことを知っているのは、前世で剣の修行を行った際、迷宮などに行ったこともあるからだ。


 しかしあくまでも剣の修行がメインだったため、知っていることそのものが多くはない。

 聞きかじりの知識と経験したことを幾つか知っているだけなので、話せるようなことはそうないのだ。


 しかもこっちのものとは色々と違うことも多いだろうから、話せるのはあくまでも共通しているだろうと思えることだけなのである。

 一応ヤースターに行く前にアイナ達と幾つか遺跡を回ったことはあるものの、ろくに魔物も出ないような場所しかなかったのだ。

 話の節々から、シーラはこちらの遺跡等に何度か行った事があるようなので、明らかにシーラの方が知識はあるだろう。


「……ん、じゃあ、私がソーマに教える?」

「ふむ……そうしてくれると、助かるであるな」

「……分かった」


 何やら納得がいったらしく、頷く姿に苦笑を浮かべる。

 それからアイナ達が、自分達にも教えて欲しいなどと言っているのを横目に眺めつつ、周囲を観察し――


「む、今ちょうどここの通路の位置が変わったようであるが、分かったであるか?」

「え、嘘!?」

「……ん、気付いた」

「……全然気付けなかったのです」

「ま、これからはもうちょっと注意深く観察してみるといいのである。若干ではあるが、僅かな違和感が生じるであるからな」

「……分かった、注意してみるわ」

「なのです!」


 そうしてジッと周囲を見つめる二人は、どうにも他への注意を忘れているようではあるが……まあ、それは後で注意すればいいだろう。

 今は色々なことを経験させるべきであり、シーラに視線を向ければ、小さく頷かれた。

 どうやらシーラも、同意見のようである。


 まあしかし、それはそれとして――


「ふむ……ある程度移動の規則は分かり始めてきたであるが、場所に関してはどうにもならんであるな……出口に関しては結局当てずっぽうに行くしかないであるか。これは、最終手段を使うことも考慮に入れるしかないかもしれんのである」

「……何となく嫌な予感がするんだけど、一応聞いておくわ。最終手段って、何するつもりよ?」

「うん? 勿論、この遺跡を丸ごと斬り裂くのである」

「はあ!? 冗談……じゃ、ないのよね?」

「当然なのである」


 今のところソーマは、この遺跡には壁に対してすら傷一つ付けてはいないし、傷つけないよう気をつけてもいる。

 それはシーラも同じであるが、多分同じ考えだからだろう。


 というのも、この遺跡が空間に干渉している節があることを考えれば、下手にその一部を傷つけた場合、何が起こるか分からないからだ。

 最悪の場合、空間の歪みがおかしなことになり、想定外の場所へと吹き飛ばされかねない。

 それこそ、上空の彼方へでも吹き飛ばされてしまえば、如何なソーマでも全員を助けることは困難だろう。

 それに下手に壊して、目的のものに何かあっても困る。


 だからこそ、精一杯気をつけているのではあるが……いざとなれば、そんなことも言っていられないだろう。


「……その時は、残念だけど、仕方ない」

「さすが兄様、豪快なのです!」

「確かに豪快だけど、それってあたし達もどうなるか分からないってことじゃないの!?」

「まあ何、その時は我輩がちゃんと守るから安心するのである。覚悟さえしていれば……まあ何とかなるであろう」

「えっ、あっ、うっ……!? そっ、それは確かに安心そう……じゃなくて! そういう問題じゃないのよ!」

「じゃあどういう問題なのである? 依頼主のシーラは、仕方ないと言っているであるが」

「……皆の命の方が、大事」

「うっ……じゃ、じゃあ……ソーマはどうなのよ?」

「我輩であるか?」

「その……本当にここにある何かで、魔法が使えるようになるんだとしたら、それが壊れちゃったりしたら、ソーマは困るんじゃないの?」

「ふむ……それは確かに、困るかもしれんであるな」


 困るかも、どころか、間違いなく困ることだ。

 しかもそれを自らの手で壊すとか、悔やんでも悔やみきれないに違いない。


 だが。


「ま、それでもアイナ達の命には、代えられんであるしな。そもそも、その時にはそうしないと我輩も死ぬであろうし……それに、万が一ここにそういうのがあったとしても、ならばまた別の場所で見つかるであろう。我輩は意外と気が長いので、その程度問題はないのである」


 そんな風に答えながら、ふとソーマは、自分が前世と比べると随分変わったものだと、そんなことを思っていた。

 以前にも少し思ったことであるが……多分前世の頃であったならば、同じことは言わなかったのではないかと思う。

 それこそ、それを手にいれられないのであれば、死んだ方がマシ、などと言っていたかもしれない。


 だが今はそんなことは思わない。

 思えない。


 それはある意味、ソーマが弱くなった、ということなのかもしれないが……別にそれでもいいかと、そんなことを思った。


「ともあれ、そんなわけなので……アイナ?」


 ふと気が付けば、何故だかアイナはそっぽを向いていた。

 気のせいでなければ、その耳が赤く染まっているような――


「なっ、なんでもないわっ……でも、分かったわよ。そこまで言うんなら、あたしももう反対しないわ」

「兄様兄様、ところでその時にはわたしも守ってくれるのです!?」

「うん? 当然であるが……」

「ならわたしも賛成するのです!」

「……私は?」

「シーラは先ほど賛成してた気がするのであるが……?」

「……仲間外れは、嫌」

「ふむ……まあ、その必要があるかはともかくとして、当然シーラも守るつもりではあるがな」

「……ん、ならいい」

「つまりこれで、いざとなればここを壊せばいい、ということになったわけであるか」


 勿論最悪の場合、ここを壊せない、或いは壊してもどうにもならない、ということも有り得るが……大丈夫だろうと、ソーマは確信している。

 なに、本当にそうなったとしても、その時はソーマが数日ほど筋肉痛で苦しむ覚悟をすればいいだけの話なのだ。

 最強の龍に比べれば、遺跡程度どうとでもなるだろう。


「……まあ出来れば、そうならないことを祈るであるが」

「……ん」


 シーラと二人、頷きながら、とりあえずそれを回避するためにも、ソーマ達はさらに先へと進むのであった。

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