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エルフと古代遺跡

「――一刀両断」


 ――刀術特級・森霊の加護・精神集中・居合い・心眼:一刀両断。


 刃を振り抜いた瞬間、大した抵抗もなく眼前のそれは斬り裂かれ、そのまま霧散した。

 奇妙な手応えに首を傾げるも、倒せたことに違いはない。

 ならば問題はないだろうと、次の獲物を探して視線を巡らし――だがその必要がないということを、直後にシーラは悟った。


「ふむ……さすがに少々焦ったであるが、特に問題はなさそうであるな」


 そう言いながらも周囲を油断なく見回しているのは、言うまでもなくソーマである。

 先ほど確認した時にはあっちにもこっちと同じ魔物が三体ほどいたはずだが、こちらが一体倒している間に全滅させてしまったらしい。

 さすがだと頷き……しかしどうやら、全員が納得しているわけではないようであった。


「問題なかった、ですって……?」

「うん? もしかして、何か問題あったであるか?」

「何かも何も、目の前にあると思うんだけど……?」

「目の前、なのです……? わたしの目には、遺跡の壁があるだけにしか見えないのですが……」

「うむ、我輩も同じであるな」

「……ん、同じく」

「だから目の前に遺跡の壁があるのが問題なんでしょうが……! 何でただの様子見って話だったのに、いきなり魔物と戦うことになってるのよ……!?」

「いや……それは正直我輩に言われても困るのであるが……」


 本当に困っているような表情をソーマは浮かべているが、まあ無理もないことだと思う。

 実際のところ、確かに現状に問題はあるが、そこにソーマの責任はないからだ。


「さすがの我輩も、歩き出して五歩目に転移の罠があるなど予想できないのである」

「それは、確かに……そうだけど」


 そう、様子見のはずがシーラ達が魔物と戦っていたのも、周囲には出口らしいものがなく、遺跡の壁が両脇に広がっているのも、全ては遺跡に踏み込んだ、その直後のことが原因であった。


 遺跡の入り口こそ門であったが、そこから潜った先にあったのは、通路であった。

 両脇には五メートルほどの壁が続き、幅もまた五メートルほど。

 奥の方には曲がり角が見え、他に脇道は見当たらない。

 遺跡というよりは、まるで迷宮のようでさえあった。


 そんな感想を抱き、若干気になることはありながらも、シーラはソーマに続いて二番目にそこに踏み込み……そして、ソーマが言った通り、五歩目を数えた時のことだ。

 足元が突然光り、そこにあったのは魔法陣。

 慌てて逃げようとするも既に遅く、視界が一瞬揺らぎ……次の瞬間には、ここに居たのである。


 目の前には壁があり、左右を見ても出口は見当たらなかった。

 転移の罠ということに思い至ったのは、シーラが迷宮に何度か潜ったことがあり、そこで経験したことがあったからだ。

 ソーマもほぼ同時に気付いていたということは、ソーマも経験があるということなのかもしれないが……まあとりあえずそれはどうでもいいことである。


 ともあれ、迷宮のどこかに飛ばされてしまった、ということを把握し……その直後に、魔物に襲われたのだ。

 そしてそれを倒し、現在に至る、ということである。


「まあさすがにあれはどうしようもないと思うのです……」

「……ん、事故」

「うっ……あ、あたしだって、本当は分かってるわよ……その、ごめん」

「まあ、言いたくなったのは分かるであるし、気にしてないのであるよ」


 アイナの謝罪を、ソーマが苦笑を浮かべながら受け入れたのは、実際その気持ちを理解していたからだろう。

 まあ、多少のことは覚悟していただろうが、何せ突然のこれである。

 気が動転してしまっても、仕方のないことだ。


 むしろどちらかと言えば、平静っぽいソーマ達の方がおかしいのである。


「ところで、これからどうするのです? とりあえず、出口がどっちかすら分からないのですが」

「そうよね、出来るならばまずは出口を目指すべきだとは思うけど、何の目印もないし……って、いや、あるじゃない!」

「うん? 何か見つけたであるか?」

「上よ上! 壁の上に登れば、あたし達が今何処にいるか分かるじゃない! ちょっと高いけど、ソーマなら登れるでしょ?」

「うーむ……確かに登ろうと思えば登れるとは思うであるが……」

「……何よ、何か問題でもあるの?」

「んー……ちょっと待つである。何かちょうどいいのは……ああ、これでよさそうであるな」


 そう言ってソーマが地面から拾い上げたのは、小さな石の欠片のようなものであった。


「それがどうかしたのです?」

「まあ、見てるといいのである。我輩の考えが正しいければ……ほいっと」

「……? それを投げて何が――え!?」

「はい!? 消えたのです!?」


 アイナとリナが驚きの声を上げたのは、ソーマが上空に投げたそれが、ちょうど壁の上にいったあたりで消滅したからだろう。

 しかも砕けたというよりは、そのまま何処かへ消えていった、という印象である。


 或いは、見えなくなった、というところかもしれないが。


「……ん、上空の空間が、歪んでいる」

「おや、シーラは驚いてないであるな。やはり予想済みだったであるか?」

「……ん。入り口にあんな罠があるのに、壁を登れば脱出出来るとか、有り得ない」

「ま、で、あろうな」

「……むぅ。なんか二人して、理解し合ってる、みたいな感じなのです」

「まあ、こういうのは結局経験が物を言うであるからな。そのうち二人も同じように出来ると思うである」


 ということは、ソーマは既にこういったことを経験している、ということになるが……先ほどどうでもいいと投げ捨てた思考が、再び首をもたげる。

 どうでもいいことだと言えばどうでもいいことではあるのだが……気になるのも確かだ。


 見た目からすれば、ソーマは他の二人同様明らかに子供だ。

 見た目だけで言えば、シーラも同じぐらいだが、シーラはエルフである。

 これでも三十近い年月を生きているので、同じではない。


 まあエルフは人類種に比べ遥かに成長がゆっくりなため、結局は同じぐらいになるのだが……そんなエルフの中でも、スキルのせいか、シーラは割と早熟だという自覚がある。

 アイナやリアもまた早熟だと思うし……それは当然のように、ソーマも同様だ。


 だがそんな自分達の中にあって、ソーマだけは頭一つか二つ分抜けているようにも見える。

 早熟というよりは、老成とでも言えてしまいそうなほどに。

 果たしてどんな経験をしてきたというのか。


 おそらくアイナ達であれば知っているのだろうが……生憎と、気になったことをすぐに聞けるほど、シーラは積極的な人間ではなかった。

 それに結局のところは、どうでもいいことではあるのだ。


 ソーマが信頼出来る人間だということは既に分かっているし、その目的とするところが同じだということも分かっている。

 ならば、それで十分だ。


 まあ出来れば、どうして魔法を使いたいと思うようになったのか、などということを聞きたい気もするが……それはまだ早い気もする。

 さすがにソーマにだけその理由を言わせて、自分は言わないというのは道理が合わない。

 しかしそれを口にする勇気は、まだ持てないのだ。


 とはいえ、別に大した理由ではないといえば、ないのだが――


「ふむ……ま、とりあえず、適当に行ってみるであるか。どちらにせよ手掛かりなどはないであるしな」


 いつの日か、そんな話が出来ることがあるのだろうかと、そんなことを思いながら、歩き出したソーマの後に、シーラも続くのであった。

 ちょっと短いので夜にも更新予定です。

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