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元最強、異変を感じ取る

 ソーマ達がその場に辿り着いたのは、ベリタスの王都を出発してから一月ほどが経過した時のことであった。


 目に見える何かがあるわけではない。

 眼前に広がっているのは、荒れ果てた地面のみであり、だがそこは間違いなく見覚えのある場所だ。


 ベリタスと皇国との国境であった。


「なんて言うか……ようやく、っていう感じよねえ」

「……ん、思ってた以上に時間かかった」


 そんなことを言いながらアイナとシーラもその場所を眺めているが、二人の顔に浮かんでいるのは主に疲労と安堵だ。

 その理由はまさに二人が口にした通りであり、つまりはここに辿り着くのに何故一月も必要だったのか、ということに繋がっている。


 端的にその理由を言ってしまえば、立ち寄った街や村で無駄に時間を取られてしまったからであった。

 さっさとベリタスから出て行かなければならないのだが、行く先々で混乱と騒動があり、そういった場面に遭遇してしまったのであれば放っておくわけにはいくまい。


 そうして時に手を貸し時に率先して解決し、だが一つを解決しても次の場所ではまた何かがある。

 ある意味ではその発端は自分達にあるとなれば尚更見てみぬふりなど出来るわけがなく、肉体よりも心に疲労を溜めながら、ようやくここに辿り着いたのだ。


 後悔しているわけではないし、やり遂げたのだと思えば多少の達成感もあるが、それはそれ、これはこれ。

 ここまで蓄積された疲労と共にやっと休めると思ってしまうのは無理ないことだろう。


 実際ソーマもそういった感情があるのは否定出来ない。

 しかもソーマ達が立ち寄ってきたのは、あくまでもベリタスの一部のみなのだ。

 これからのベリタスのことを考えれば想像していた以上に大変そうではあるが……まあ、ソーマ達に出来るのは、健闘を祈ることだけであった。


 助けを求められれば応じるつもりはあるも、とりあえずは一旦皇都へ戻るべきだろう。

 話さなければならないことは、山ほどあるのだ。


「さて、ではとりあえず皇都へと向かうとするであるか。それとも、二人はどこか先に行きたいところとかあったりするであるか?」

「あんた……分かってんのにわざわざ聞くんじゃないわよ」

「……ん、とりあえずゆっくり休みたい。……私がゆっくり出来るかは、分からないけど」

「大丈夫だと思うであるがな。それよりも、本当にシーラはこっちに来てしまったよかったのであるか?」


 シーラがベリタスにいたのは、言ってしまえば調査のためである。

 だというのに、ろくに結果を報告することもなくここまで来てしまったのだ。

 気になるのが当然というもので、だがシーラは首を横に振った。


「……ん、予定通りだから問題ない。……連絡の必要もない」

「ま、ベリタスで起こったことはすぐにラディウスとかにも伝わるでしょうし、そうなったらソーマが関わってるってこともすぐに分かるでしょうしね」

「ふむ? そうであるか? 我輩達の名前は出さんようにすると思うであるし、協力者の存在は察することが出来るとは思うであるが、それが我輩達だとは思わんであろう?」

「内乱を制したはずの第二王子を、後ろ盾なんてまったくなかったはずの第三王子改め第一王女が倒すなんて、あんた以外の誰が出来るっていうのよ」

「……ん、他にいられても困る」


 そんなことはないと思うのだが、まあこんなところで言い合っていたところで意味はあるまい。

 どうせ皇都まではまだ距離があるのだ。

 それまでの暇つぶしがてら話をすればいいだろうと思いつつ、一歩を前に踏み出す。


 そうしてソーマは国境を跨ぎ、皇国へと帰還し――まさに、その瞬間であった。

 ソーマ達三人は、一斉に同じ方角へと顔を向けたのだ。


「――む?」

「っ……!?」

「……っ」


 その先から感じ取ったのは、何なのかはよく分からない、だが明らかに強大と分かる力であった。


 しかもそれは、どことなく覚えもある。

 気のせいでなければ、ベリタスから感じたのと似たものであり――


「ふむ……我輩は今のと似たような力を幾度か感じたことがあるのであるが、二人はどう思ったである?」

「……ん、私は一度しかないけど……ベリタスから感じたのと似てると思った」

「あたしは正直あんまそういうのは得意じゃないんだけど……正直あそこまで強大な力を無造作に使える存在なんて、限られてる気はするわね」


 つまりは二人とも、異論はないということのようであった。

 感じたアレが、悪魔の力である可能性が高いということに、である。


 正直なところ、またかという感じではあるのだが、言っている場合ではあるまい。

 それに、また悪魔が何かをやろうとしているのならば放っておくわけにはいかない、というのもあるが……それ以上に気になることもあった。


「ところで、力を感じた方角なのであるが……」

「……ま、でしょうね。得意じゃないあたしでも、簡単に分かるもの。他の可能性がないってわけじゃないけど……」

「……ん、多分聖都」

「で、あるよなぁ」


 そう、悪魔の力だと思われるものを感じた方角というのは、聖都のある方角なのだ。

 その方角にあるのは聖都だけというわけではないので、アイナが言ったように他の可能性がないわけではないが……まあ、ほぼ間違いあるまい。


「ふむ……予定変更、ということでいいであるか?」

「異論なんてあるわけないでしょ。……あんな光景を見るのなんて、二度とごめんだもの」

「……ん、同感。……聖都には行ったことがないけど、どこでだろうと同じ」


 二人の脳裏にはきっと、この一月の間に立ち寄ってきた街や村で繰り広げられてきた混乱と騒動が蘇っているのだろう。

 あるいは、それ以前の、ベリタスの王都へと向かう途中に目にしてきた光景が。

 あれらを二度と引き起こしてはいけないというのは、ソーマも同感である。


 ただ……正直なところ、ソーマはその心配はあまりしてはいなかった。

 そういった事態にはならないだろうという、確信に似た思いがあるからだ。


 とはいえ、何の心配もしていないというわけでは、勿論ない。


「うーむ……果たして一体何をやったのやら。これが想定通りというのであれば問題はないのであるが……予想外の何かが起こったというのであれば、ちとまずいかもしれんであるな」

「……ソーマ?」

「いや、ちと考え事をしていただけである。が、まあ今は考えるよりも先に動くべきときであるな」

「……ん、急ぐ」

「ふむ、とはいえ……アイナ、聖都への正確な道順など分かるであるか?」

「あんたと一緒に来たのよ? 分かるわけないでしょ」

「で、あるよなぁ……」


 そう、ソーマ達は正式な手順で皇都に来たわけではない。

 強制的に連れてこられたのであり、つまりは聖都のある方角は分かっても、そこへ至るための正確な道順というものを知らないのだ。


 一縷の望みに賭けてシーラへと視線を向けてみるが、無言で首を横に振られた。

 どうやら、地道に探っていくしかないらしい。


「下手をすれば、一度皇都に戻って道を聞いた方が早いかもしれんであるな」

「でもここから皇都まで数日はかかるわよ? 途中で村なり何なり見つけて聞いた方がいいんじゃない?」

「……ん、村だとちょっと怪しい? ……出来れば、ある程度の大きさの街が望ましい」

「ふむ……せめて大きめの街の位置ぐらいは聞いておくべきであったな」


 後悔先立たず、である。

 だが、言ったところでどうなるものでもない。


「ふむ……まあ、聖都に向かうとするであるか。いざとなれば強行軍となるかもしれんであるが……」

「ま、あと少しぐらい頑張るわよ。ただ、着いた後のことはあまり期待しないで欲しいところね」

「……ん、なるべく頑張る」


 いざとなればソーマ一人で向かう、という手段もあるにはあるのだが、二人ともそんなつもりはないようであった。


 そしてここでその提案をするのは無粋というものだろう。

 二人ともそのことに、気づいていないわけがないのだから。


「では、二人の分も我輩が頑張るとするであるかな」

「ええ、期待してるわよ?」

「……ソーマのことだから、どうせそうなりそう」

「ああ、確かにそれもそうね」


 そんな軽口を叩きながらも、ソーマ達は聖都のある方角へと向き直る。

 そうして気を引き締め直すと、足早に歩き出すのであった。

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