元最強、気になることを尋ねる
瞬きを繰り返すこと、数度。
スティナの言葉を聞き終わった時には既に平静を取り戻してはいたものの、相変わらずこの状況は色々と予測が付かないことが起こると思う。
この状況がひたすらにソーマを混乱させることを目的としたものであったのなら大成功だ。
そんなことを考えながら、ソーマはスティナに向け肩をすくめた。
「いや、どちらでもないのである。我輩はここに迎えに来ただけであるからな。あるいは状況次第では様子見となるかもしれんであるが」
「迎え……? ああ、なるほど、あの娘をここに連れてきたってのはオメエのことでしたか。ならちょうどいいタイミングだったですね」
「ふむ……?」
それはどういう意味か、と尋ねるよりも先に、その場に音が響いた。
閉じられていたパーティションの一つが開いたのだ。
そしてそこから姿を見せたのは、ここに迎えに来た人物であった。
しかしアイナはソーマがここにいることは予想外であったらしい。
目を数度瞬かせると、不思議そうに首を傾げた。
「ソーマ……? あんたも休みに来た……ってわけじゃなさそうね」
「オメエを迎えに来たらしいですよ?」
「どちらかと言えば様子見がメインであるがな。しかしその様子ならば問題なく戻れそうであるな」
「ええ、おかげさまでね」
そう言ったアイナはどうやら本当にここで休んでいたようだ。
そうは見えなかったのだが……本当に疲れていたということだろうか。
「もうそろそろ昼休みは終わりやがるですよ? 起きたのならさっさと戻れです」
「分かってるわよ。だからこうして起きたんでしょ」
「まったく……保健室は休憩所じゃねえんですがね。あんま無理すんじゃねえですよ?」
「それも分かってるわよ。でも、無理しないでやれるんなら最初から苦労はしないもの。でしょ?」
「まったく……相変わらず強情なやつですね。一体誰に似やがったのやら」
「周囲からはよくどっちにも似てるって言われるけど? さて……そんなことよりも、待たせたわね」
「いや、別にそうでもないであるぞ? そもそも我輩が来る必要は特になかったようであるしな」
それはそれとして探るためにも来たので、個人的にも問題はない。
そんなことを胸中で呟きながら、アイナを伴って歩き出す。
一応ということでスティナに軽く頭を下げるが、スティナは早く行けとばかりに軽く手を振っていた。
あの様子では、やはりこちらのことは知らなそうだ。
しかしそれにしても、何故スティナが養護教諭なのだろうか。
まあ、普通に教師をしていたり生徒に混じっているよりは違和感はないかもしれないが……などと、どうでもいいことを考えながら保健室を後にする。
そのまま、必要はないだろうがとりあえず先導するように先を歩き、直後に口を開いたのは今しがた目にした光景に疑問を覚えたからだ。
「明らかに他人という感じではなかったのであるが……もしかしてあの養護教諭とは知り合いだったのであるか?」
「え? ……ああ、まあ、そうね。姉同然の人……ってとこかしら」
「ふむ……」
伊織とアイナは無関係となっているようだが、アイナとスティナの関係は変わらずあるらしい。
元のままかは分からないが、アイナの口ぶりからすれば大差はなさそうだ。
この辺もまた、よく分からないところである。
ソフィアとクラウスが変わらずソーマの親であったことを考えれば、親子関係がここでは維持されない、というわけではないと思うのだが。
とはいえ、この辺は調べようにも比較対象となる数が少なすぎる。
知り合いの中であと親子で共に知っているのは、シルヴィアのところぐらいだ。
聞いた結果がどちらであろうとも、そこから法則性を見い出すのは無理だろう。
もっとも、それほど優先度の高いことではないので、一先ず放っておいても問題はあるまい。
それよりも今はと、アイナの話を促すべく口を開く。
「ということは、ここのことはある程度聞いていたというわけであるか?」
「まあ、そうね。転校初日から教科書をしっかり揃える事が出来たのも、姉様のおかげだし」
「なるほどなのである」
確かに言われてみれば、転校初日だというのにアイナは普通に教科書を持って使っていた。
お約束を考えれば自分の教科書を見せることになるのではと、多少気にはなっていたのだが、そういうことであったらしい。
「しかし、制服の方は無理だったのであるな」
「こっちに来るのが決まったのは急だったせいもあって、さすがに無理だったわ」
「ふむ……そういえば、そんなことも言っていたのであるな」
様々な質問が飛び交う中、その返答の一つでそんなことを言っていたのを思い出す。
何故急に転校することになったのか、ということに関しては口を濁してはいたが――
「その理由は、やはりフェリシアが関係している、と考えていいのであるか?」
「……言うつもりはないって、言ったはずだけど?」
「確かに言われたであるが、尋ねて駄目とは言われなかったであるしな」
そう言って肩をすくめると、ジト目を向けられた後で溜息を吐かれた。
言われたことを破ったりしたわけではないというのに、失礼な話である。
まあ、言われたことの全てに従っているわけでもないのだが。
「ところで、尋ねついでにもう一つ尋ねるのであるが、フェリシアと縁を切り距離を置いた方がいいとは結局どういうことなのである? それとなく探ってみてもフェリシアはいつもと変わらぬように見えたのであるが」
「あんた……あたしの言ったことそもそも守ってないじゃないの……!」
「幼馴染はフェリシア一人ではないであるし、いつもフェリシア含めた友人と昼食は摂っていたのであるぞ? 急にフェリシアとだけ距離を置くようにしたら変であろうに」
「それはっ……そう、かもしれないけど……」
「まあ、理由さえ分かればやりようはあるかもしれんであるがな」
「だから、言うつもりはないって言ってんでしょっ」
睨みつけるようにそう言われるが、ならばこちらの対応も変わらないと、再度肩をすくめる。
実際、昼食の最中にそれとなく様子を探ったのは本当ならば、フェリシアに何かを隠しているような様子が見当たらなかったのも本当のことだ。
フェリシアはそういった隠し事などをするのがあまり得意ではなかったはずなので、何かがあるのだとしても、それはフェリシアの意思とは関わりのないことである可能性が高いということになる。
だというのであれば、如何なアイナの言うことであれ、素直に応じるわけにはいかなかった。
もっとも、フェリシア自身の意思によって何かがなされており、それが理由でアイナが縁を切れと言っていたのだとしても、従うかどうかはまた別の話ではあるが。
「……本当に、後悔することになるわよ?」
「その時はその時なのである。少なくとも我輩は、何も知らずに後悔するよりは、知って後悔した方がマシだと考えるであるしな」
「……そ。なら、その時になって存分に後悔するといいわ」
吐き捨てるように言うと、アイナは歩く速度を速め、そのままソーマのことを追い抜いていった。
まあ、厚意で言ってくれていたのだろうから、それを無下に扱ったとなれば機嫌を損ねるのは当然だろう。
元より先導する必要もないため、一人で先に言ったところで問題もない。
が、一つだけ問題があるとすれば――
「……あ」
すぐに顔を合わせることになることと加え、席が隣同士だということか。
どことなく決まり悪げに顔を逸らすアイナに苦笑を浮かべ、どうかしたのかとばかりに不思議そうな目を向けてくる友人達には肩をすくめて返しながら、ソーマはさてどうしたものかと思いつつ自らの席に座るのであった。




