元最強、もう一人の幼馴染と会う
言いたいことだけを一方的に告げて、あたしが言いたいことはそれだけと、アイナは保健室へと向かっていった。
ここまでで十分だとも言われたので、アイナが保健室の中へと入っていくのを見届けた後、ソーマは踵を返す。
とりあえず教室に戻りながら思うのは、やはりと言うべきかこの状況にアイナとフェリシアは関係がありそうだ、ということである。
とはいえ、最初から分かっていたことではあるので、進展があったというわけでもない。
ただ、アイナの口からそういうことが聞けたということは、そのうち進展がある可能性は高いということだ。
それが分かっただけでも十分収穫があったと言えるかもしれない。
あるいはさらにアイナから話を聞きだしたり、アイナの動向を探ることを優先した方がいいのかもしれないが……あの口ぶりからすると、そのうちフェリシアの身に何かがあるのは間違いないだろう。
ならばまずは、改めてフェリシアの方を探るべきであった。
まあ、本人は何も知らない可能性がある上に、既に昼食のためにどこかに移動してしまっている可能性もあるが、その時はその時だろう。
「む……というか、先に購買に行っておくべきであったか……?」
そのことに気付いたのは、四階にまで上がりきった時のことだ。
だがここまで来てしまったのであれば、教室に一旦戻っても大差あるまい。
そう思いながら教室に戻ると、果たしてフェリシアの姿は見つかった。
出て行く前と同様、自分の席に座っており……しかしそこで首を傾げたのは、その隣の席に伊織が座っていたからだ。
と、こちらのことに気付いた伊織が片手を上げてきた。
「よ、ご苦労様」
「なに、単に保健室まで連れて行っただけであるからな。苦労らしい苦労など特にはしていないのである。それよりも、先に食べていなかったのであるか?」
そう尋ねたのは、近寄っていく過程で何故伊織がそこに座っているのかに気付いたからだ。
思い返してみれば、高校時代は伊織含めた数人の友人達とこうして集まって昼食を摂っていたのである。
そう考えれば、こうなるのはある意味当然のことであった。
アイナが馴染むようなことがあったらさらにここに加わることになるのだろうか、などと考えながら、自らの席に戻る。
と。
「ふむ……? これは……伊織お手製の弁当であるか?」
「いや、何でだよ。俺がお前に手製の弁当渡してたら気持ち悪いだろ」
冗談だと肩をすくめながら、机の上に置かれた弁当を眺めた後で視線を移動させる。
となれば、心当たりは一つだ。
その心当たりの少女は、視線の先で微笑を浮かべていた。
「今朝は渡しそびれてしまいましたから」
「毎日ソーマの分も作ってるとか、本当に頭が下がるな」
「いえ、私は少し手伝っているだけですし、それに毎日お世話になっているのは私達の方ですから」
これはどうやら購買に寄らなくて正解だったようである。
それにしても、フェリシアが朝食後に台所で何かをしていたのには気付いていたが、弁当を作っていたとは。
「ふむ……これは米の一粒まで感謝しながら食さねばならんであるな」
「おう、そうしとけ」
「いえいえ、大袈裟ですって」
そう言って苦笑を浮かべるフェリシアを眺めながら弁当の蓋を開ければ、色取り取りのおかずが目に入った。
これは真面目に感謝しながら食べる必要がありそうだ、などと思い、だが箸に手を伸ばす事がなかったのは、何となく扉の方が気になったからである。
そしてその予感は正しかったらしい。
そこには一人の見知った少女がいたからだ。
見事な金色の髪を持つ少女など、ソーマの知り合いには一人しかいない。
シーラであった。
まあ、おそらくどこかにいるのだろうな、とは思っていたので、驚きはない。
しかし何故今そこにいるのだろうかという疑問はあった。
だがそんな疑問を抱いたのはソーマ一人であったらしい。
ソーマの様子からフェリシア達もシーラのことに気付いたようだが、教室の中へと入ってきたシーラのことを、二人は当たり前のような顔で出迎えたのである。
「よう、今日はちょっと遅かったな」
「……ん、日直の仕事があった」
「ああ、そういえばそうでしたね。ですから今日は一人で先に学校に行ったのですし」
「……ん」
そんな会話を耳にしながら、ソーマはなるほどと頷く。
伊織とアイナの関係とは異なり、シーラとフェリシアは変わらず姉妹なのだろうということを察したからだ。
しかしそうなると、本来我が家にはシーラもいたということか。
今の会話から判断すると、そういうことになる。
まあ、フェリシアの時点でアレなので、もう一人ぐらい増えたところで大差はないが。
もっとも、そう思えるのは、いい加減現状に慣れてきたからだろう。
朝の時点でシーラもいたらさらに混乱していただろうことは間違いないので、これでよかったと思うべきかもしれない。
と、そんなことを考えていると、シーラがこちらに視線を向け、首を傾げてきた。
「……ん、ソーマ、どうかした?」
「いや……何でもないから気にする必要はないのである」
「……そう?」
「今日は初めて会ったんだろ? なら、大方見惚れてたんだろうさ」
「……ん、なら嬉しい?」
「貴様はちょっと適当なことを言いすぎであろう」
「お喋りもいいですけれど、そろそろ食べ始めませんか? 昼休みはそれなりに長いですけれど、シーラは教室を移動しなければならないことを考えれば、それほど余裕があるわけでもありませんし」
「ふむ、それもそうであるな」
シーラがフェリシアの妹のままであるということは、普通に考えれば後輩である。
ということは一年で、一年の教室はおそらく一階と二階のどちらかが割り当てられているはずだ。
どちらであっても移動の時間がそれなりに必要だということを考えれば、確かに会話よりもまずは食事を優先とすべきであった。
「はい、シーラのお弁当です」
「……ん、ありがと。……ところで、この席は何? ……確か、昨日まではなかったはず」
「ああ、転校生が来たからな」
フェリシアから弁当を受け取りながら、シーラがアイナの席を眺め首を傾げる。
その疑問に伊織が答えるのを聞きつつ、ソーマがふむと呟いたのは、やはり伊織にアイナのことを気にしている素振りが見られないということだ。
ここまで来れば、アイナと伊織は少なくとも現状では他人ということになっている、と考えて間違いあるまい。
まあだからどうだということでもないのだが。
「……ん、ならここは座ったらまずい?」
「さて、どうなんだろうな……ソーマ、どうなんだ?」
「何故我輩に聞くのである?」
「昼休み中に戻ってくるようなら一応座らないほうがいいだろ?」
「ふむ……確かにそれはそうかもしれんであるが、それに関しては我輩も何とも言えんであるからな。まあ、座らない方が無難な気がするのであるが?」
「そうですね、多分誰かが座っていたとしてもアイナさんは気にしないとは思いますけれど、その方が無難ではあると思います」
「……ん、分かった。……残念」
そう言って本当に残念そうに項垂れると、シーラはフェリシアの前の席へと向かった。
迷いのない足取りから考えるに、シーラはいつもそこに座っている、ということになっているのだろう。
元の席の持ち主は、教室の中に出来ている幾つかのグループの方に行っているのか、あるいはシーラのように他の教室や場所にでも行っているのかで不在である。
まあ、いつもそうしていたということになっているのであれば、気にする必要はあるまい。
それにしてもと、その場を見渡す。
昔懐かしい教室に、伊織とフェリシアとシーラがいて、今はいないが隣にはアイナがいる。
アイナが言っていたことを考えれば、ほぼ間違いなく今後何かが起こるのだろうし、そうでなくとも何もないわけはないのだが――
「相変わらず不思議な状況ではあるが……同時に平和のようなものも感じてしまうのが何とも、といったところであるなぁ……」
あるいは今をそう感じてしまうのは、ここ最近立て続けに色々なことがあった反動なのだろうか。
この状況も十分普通ではないはずなのだが。
しかし現状がどうであろうとも、変わらず腹というものは減るらしい。
ならばまずはそれを満たしてからかと、フェリシアが作ったという弁当を前に手を合わせ、ソーマはいただきますと呟くのであった。




