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幕間 終わった後の廃墟と始まる前の空虚

 ソーマ達が旅立った時よりも、ほんの僅かに時間は戻る。


 そこはソーマが好き放題した場所であり、彼らが立ち去った結果、廃墟と化した場所だ。

 人影などは、一つもあるわけがなく……だが。

 そんな場所を訪れたものが、一つだけあった。


「ふーむ、折角目覚めたのに、特にやることありませんでしたねー。楽だったと言えば楽だったんですが、こう、沽券に関わるというか……え? 今の私にそんなものはない、ですか? まあそうなんですけどねー。でもちょっとぐらい思うところがあるのは普通じゃないですかー。そう思うからこそ、わざわざここに戻ってきたわけですし」


 独り言にしか見えない言葉を呟いているのは、小さな影であった。

 どう考えても子供にしか見えず……否。

 事実子供そのものである彼女は、周囲を見回しながら溜息を吐き出した。


「とはいえ、やっぱもう何も残ってなさそうですねー。当たり前と言えば当たり前ですが。彼への手土産にでもなればと思ったんですがー……え? たとえ持って帰ったところで渡せない? いやいや、そのうち渡す機会があるかもですから、その時に……え? そもそも彼はそんなものに興味がない? ……確かにー。これは迂闊でしたねー」


 本気で残念そうに肩を落としながら、彼女はさらに溜息を吐き出す。

 どうやら本気でこれに意味があると思っていたようだ。

 しかし事実はどこまでいっても変わることはなく、これは完全に徒労で、無意味であった。


「うあー、何もそこまで言うことないじゃないですかー。私だって本気で落ち込むことはあるんですよー……多分。え、何で多分なのか、ですか? そりゃ勿論私のことなんてよく分からないからですよー。与えられた情報だけじゃそんなこと分からないですし、そもそもその中に私のことなんて含まれていませんでしたしー」


 あっけらかんと言ってはいるものの、それが本心なのかはいまいち不明だ。

 だが彼女は気にしていない様子で、もう一度周囲を見回すと、んー、と一つ伸びをした。


「さて、それじゃあ無意味と分かったことですし、さっさと戻りますかー。あまり遅くなると間に合わなくなっちゃいそうですしー。……え? もういいのか、ですか? そうですね、正直に言ってしまえばよくはないんですが、仕方ないですしねー。次に目覚める時を、楽しみにしておきます」


 そう言った彼女は、本当にそれを楽しみにしているかの如く、笑みを浮かべていた。

 そんな時が来るなんて、それはちっとも楽しみに出来るようなことじゃないのに。


「えー、そんなことないですよー? だってその時が来れば、今度こそ彼とお話出来るかもしれませんし。私結構楽しみにしてるんですよー……え? その結果、彼に斬られることになったとしても、ですか? んー、彼なら本当に出来ちゃいそうなのが、面白いところですよねー」


 それはまったく面白いことではなかったが、彼女の中では面白いことに分類されているらしい。

 さらなる笑みを浮かべながら、歩き出した。


「さてさて、次はどんな状況なんでしょうねー。……次も私が必要なくなると、いいんですけどねー」


 多分……それこそが、彼女の真の本音であった。

 しかし同時にそれは、願ってはいけないことであった。


 だから。


「はいはい、分かっていますって。全てはこの世界のために、ですよねー? そのために、私は生み出されたんですから。ちゃんと分かっていますよー。だから次こそは、しっかりと役目を果たしてみせます」


 一旦口を閉じた彼女は、勿体つけるように、僅かな間を置いた。

 そして。


「――人類の裁定者として」


 彼女の役目にして、その存在意義を、言の葉に乗せたのであった。









 そこはとある国の玉座であった。

 ただし既に日が沈んでから時間が経ち、深夜と呼ぶべき時間帯である。

 本来であれば、そこには誰の姿もないはずだ。


 だがその道理を無視するが如く、そこには一つの影がある。

 否。

 そこにあったのは、二つの影であった。


「ふむ……して、その隙に我らは彼奴らのところへと攻め込む……いや、取り戻す、ということか」

「そういうことだな」

「……だがそんなことが、本当に可能なのか?」

「さてな」

「……おい」


 その無責任な言葉に、影のうちの片方――玉座へと座っている男が、眉を潜め目を細めながらもう一つの影へと声を投げた。


 しかし眼光が鋭く、並みの人物であれば震え上がりそうなそれに対し、その影はただ肩をすくめただけだ。

 まるで効いている様子はない。

 まあもっとも、全身を黒いローブで覆っているそれの顔は、最初から見えはしないのだが。


「そんな凄まれても、知らんものは知らんからな。こっちはやるべきことはやるが、その後貴様らがそれを可能にするのかまでは、責任が取れん」

「ふん……そういうことなら先に言え。そしてその心配は無用だ。我らが彼奴らに負けるわけがなかろう」

「独立を許し、今もろくに攻め込む事が出来ないのに、か?」

「……っ!」


 ギリッ、と歯を鳴らし、それだけで人を殺せそうな視線が向けられるも、やはりそれは微動だにしない。

 小さく溜息を吐き出すだけであった。


「そんな目で見られても、事実は事実だろう?」

「そんなこと貴様に言われるまでもなく分かっているわ……! くそっ、アイツさえ……アイツさえいなければ……!」

「それはそれで事実かもしれないが、言ったところで仕方がないだろう。そもそも国防の要であるあれが、あそこを動くはずもない」

「だから分かっていると言っているだろう……! それに、今回それを貴様らが何とかするんだろうが……!」

「まるで貴様らのためにやるみたいに言われると、困るのだがな。こっちはこっちで目的があってそうするに過ぎない」

「ふんっ……太古の昔に封印されたという、アレの復活、か。正直未だに信じられんがな」

「それで結構だ。貴様はこっちのやることを見逃し、事が起こった後であそこを攻めてくれさえすればいい」

「……それが本当だとしても、アレがこっちを襲うことは、本当にないのだな?」

「くどいぞ。この言い方は癪ではあるんだが……魔族としての我が名にかけて誓うと、何度も言っているはずだ。そもそも我らが本当の目的は、その先にこそある。わざわざ貴様らに構っている暇などない」

「ふんっ、どうだかな……」


 男は最初からそれの言葉を信用していない様子ではあったが、まあそれも当然だろう。

 こんな密会のような真似をしているとはいえ、所詮相手は敵対している者達だ。

 信用など、出来ようはずもない。


「まあ、いい。嘘であった場合は、貴様らを滅ぼすだけなのだからな」

「それはお互いに、だろう?」


 ふんっ、と互いに鼻を鳴らし、影が背を向ける。

 確認すべきことが終わった以上は、もう顔を突き合わせている理由など、欠片もないのだ。

 そのまま影は、すっと闇に溶けるように姿を消し……その場には静寂と、一人の男だけが残った。


 男はしばし影が消えた闇を見つめていたが……やがて、再度鼻を鳴らす。


「ふんっ……とうの昔に滅んだ主のためにくだらない御伽噺を信じるなど、所詮は魔族か。だがまあやつらがあそこで騒ぎを起こしてくれるというのならば、こちらは乗るだけだ。やつらが失敗しようとも、そんなことはどうでもいいからな。……そうだ、やつらを利用してでも……今度こそ、返してもらうぞ。我らの地と、愚民どもを、な」


 そしてそう言って男は――ベリタス王国国王、ベリタス十三世は、その時のことを想像し、その口元を楽しそうに歪めるのであった。

 ただの意味深なだけの会話。

 さすがにこれだけだとアレなので、今日は夜にも更新予定です。

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