元最強、友人と自己紹介を交わす
珍しい転校生がやってきたとなれば、まずは質問責めが開始されるのがお約束というものではある。
そして我らが担任であるカミラは、どうやらその辺りに寛容であるらしい。
短いながらもホームルームの時間を好きに使っていいとおっしゃってくださった結果、転校生へと矢継ぎ早に質問が飛び交うことと相成ったのであった。
以前に住んでいた場所や趣味の話などは序の口で、好きなタイプや彼氏の有無など、本当に聞く者がいるのだなと、半ば感心するような質問まで飛んでいく。
そんな質問に、笑みを浮かべながら一つ一つ丁寧に答えていく姿は、よくやるものだとこちらもまた感心するばかりである。
その中には当然と言うべきか、ソーマとの関係を揶揄するようなものもあった。
まあ、先程あのような反応をしたのだ。
気にならぬわけがあるまい。
しかしそれに答えるアイナの様子は平静そのものであった。
特に慌てた様子もなく、先程のことを説明しながら誤解を解いていく。
その姿は本当に何でもないのだということをクラスメイト達に知らしめるには十分であり、そこかしこから落胆交じりの溜息が漏れる。
好奇心旺盛な年頃である彼らを満足させるには至らなかったようだ。
「ふむ……」
と、そうしてアイナの様子を眺めていると、ふと視線を感じた。
アイナからのものではなく、前方の席に座るフェリシアからのものである。
ジッとこちらを窺うようなその視線に、首を傾げた。
「どうかしたのであるか、フェリシア?」
「いえ……やはりソーマさんもあの人のことが気になるのかと思いまして」
「ふむ……まあ、気になるか否かで言えば、確かに気になるであるな」
質問をしている者達とは大分意味するところが異なるものの、気になっていることに違いはあるまい。
現状の把握がまだまだ出来てはいない以上、口に出すつもりはないが。
「……そうですか」
「というか、突然現れた転校生ともなれば、気になるのが当然であろうよ。……まあ、若干約一名ほどこの教室には例外がいるようではあるが」
視線を向けた先にいるのは、相変わらず机に突っ伏したままの伊織である。
やる気と共に転校生に対しての興味もないらしく、その姿を眺めながらフェリシアは苦笑を浮かべた。
「確かに、季節外れの転校生に興味を示さないのは伊織さんぐらいなものですか」
「まあ、あやつはもう少し興味を示せという感じではあるが」
そんなことを言いながら、伊織のその様子に、目を細める。
ソーマからすれば、伊織のその様子もまた気になることではあったからだ。
アイナの様子を見る限りでは、やはりと言うべきかこちらのことは知らないようではある。
先ほどの反応は、あくまでも登校時の出来事が理由だということなのだろう。
そしてアイナは伊織に対しても反応を示してはいなかった。
伊織もまた、反応を示している様子はない。
アイナは既に自己紹介を済ませ、カンザキという名であることを告げているにも関わらず、だ。
ということは、苗字が偶然同じ、とかいうことにでもなっているのかもしれない。
まあ、親子で同じ高校の同じ学年に通うなど、矛盾しか生じないのだ。
そこを許容するには、そうでもしなければなるまい。
とりあえずは、それが分かったところで現状の解明には到底及ばないということが分かった、というところだろうか。
これでただの夢であったのならば、何をくだらない夢を見ているのだかと、自嘲の笑みを浮かべるだけで済むのだが……はてさて。
「さて、そろそろ質問したいことは一通りしたか? まあまだだとか言われたところでもう時間はないんだけどな。ま、まだ何かあったらあとは個別で聞いとけ。ああ、そうそう、席は見りゃ分かるだろうが、ソーマの隣だ。何か困ってそうだったら教えてやれよ、ソーマ?」
「それを何故我輩だけに言うのである……?」
隣というだけならば右隣の者もいるし、前に座っている者もいる。
自分だけに言うのはどうなのだろうと思うのだが、カミラは抗議を受け取る様子もなく、片手をひらひらと揺らしながら、じゃ、後は任せたぞ、などと言いながら教室を出て行った。
ちょっと自由すぎやしないだろうか。
カミラらしいといえばらしいが。
しかしそれで残される方はたまったものではあるまい。
アイナは少し困惑したようにその場に立ち尽くしていたが、やがて冗談でも何でもないと悟ったようだ。
それ以上誰に言われるでもなく足を進めると、教室の後方、ソーマのすぐ傍にまで歩いてきた。
「えーと……あんたがソーマ、ということでいいのよね?」
そうして未だ困惑を残しながらも、ソーマに話しかけてきたのは先ほどカミラと話をしていたのを聞いていたからか。
あるいは……本当は最初から知っているからか、などと思いながらも、言葉を返す。
「ま、先程聞いていたように、である」
「そう……じゃあ、ここがあたしの席ってことでいいのね。それと……とりあえず、よろしくってことでいいのかしら? 困ったことがあったらあんたに聞け、みたいなことを言われたわけだけど」
「そうであるな……まあ一方的とはいえ直々に頼まれてしまったわけであるしな。それにこちらの都合など、汝には知ったことではないであろうし。もっとも、本当に何でもかんでも頼られてしまってもその全てをどうにか出来るとは限らんわけではあるが」
何せよく分かっていないということならばソーマも同じである。
むしろ現状に対する理解度から考えれば、答えられることの方が少ないかもしれなかった。
「別に問題はないわよ。さすがにそこまで世話になるつもりはないし。というか……どっちかっていうと、本来ならばあたしの方がお詫びをしなくちゃならないわけだけど」
「お詫び……? ああ……今朝の件で、であるか? 別に我輩は気にしていないのであるが……」
「あんたがどう思ってるかじゃなくて、あたしの気持ちの問題なのよ。まあ、今はあたしの方が世話になる側なわけなんだけど……でも、そのうち何かで返せればと思ってはいるわ」
「ふむ、本当に気にする必要はないのであるが……まあ、そういうのであれば、何をしてくれるのか楽しみにしておくとするであるかな」
「といっても、あたしに出来ることなんて幾つもないんでしょうけど……あっ、え、えっちなことは駄目よ……!?」
「さすがに冗談でもそんなことを口にする勇気はないのである」
肩をすくめながら、伊織へと視線を向ける。
こちらを意識している様子はないものの、さすがに父親の前でそんなことを口にするほどの勇気は、さすがのソーマにもなかった。
「そ……隣の席になるのが紳士なやつでよかったわ。ああ、そうそう、今更ではあるしさっきの聞いてはいたとも思うけど……アイナ・カンザキよ」
「ふむ……確かに、自己紹介がまだだったであるな。我輩は――」
そこで一瞬言葉に詰まったのは、果たして自分はどちらの名を名乗るべきなのだろうかと思ったからだ。
ソーマの主観では現状の世界は前世のそれに非常に近しい。
であるならば、自分の名前もそちらになるのではないかと思ったのである。
だが迷ったのは本当に一瞬だけであった。
今まで会っている人物の大半が今生の関係者だということもあるが――
「――ソーマ・ノイモントなのである」
この世界がどうであろうと、前世の記憶があろうと、今の自分はそれ以外の何者でもないのだということを、理解しているからであった。
「そう……じゃあ改めてよろしく、ソーマ」
「……うむ、よろしくなのである、アイナ」
何とも不思議な気分ではあるが、ここで余計なことを口に出す必要もあるまい。
と、そんなことを考えていると、前方からも声が飛んできた。
「あ、席も近いですし、私もよろしくお願いしますね」
「あんたは……そういえば、今朝もソーマと一緒にいたわね」
「はい、フェリシア・レオンハルトといいます」
「……ふうん。まあ、女同士じゃないと分からないこともあるでしょうしね。よろしく、フェリシア」
「はい、よろしくお願いします、アイナさん」
友人であったはずの者達が知り合いになるという展開に、やはり何とも不思議な感覚を覚えながら、ソーマは僅かに首を傾げる。
アイナの視線が、一瞬何かを窺うようなものとなったように見えたからだ。
自分の時にはそんなことはなかったように思えるが……女同士ということで何かがあるのか、あるいは別の何かか。
そんなことを考えながら、鳴り始めた鐘の音に慌てて席に着くアイナの様子を横目に眺めつつ、ソーマはさてどうなるのだろうかと息を一つ吐き出すのであった。
5月30日(木)にコミカライズ版の第二巻が発売となります。
相変わらずキャラ達が可愛く、また格好よく動き回っていますので、是非手にとっていただけましたら幸いです。




