元最強、予感が的中する
予想通りと言えば予想通りではあるが、高校の位置も構造も、記憶にあるそれと変わりはなかったようだ。
自分達と同じ制服を身に纏う者達の流れに混ざりながら、ソーマは懐かしさすら覚える場所を進み、校舎の中へと足を踏み入れていた。
無論のこと、ここから自分のクラスの教室へと向かわなければならないのだが、その心配は必要ない。
フェリシアがいるから……ではなく、校舎に入ると同時に、頭に浮かぶものがあったのだ。
『二年八組』、というのは確かにソーマがかつて所属していたクラスではあるが、どうやらここでもそうであるらしい。
根拠は何もないのだが、そんな確信だけがあった。
本当にどういう状況なのだろうか、と思いつつ、四階建ての校舎の最上階へと向かう。
階段を上りきった先の、右手側の奥がその教室だ。
教室の扉の上にあるプレートから間違いなくその教室であることを確かめ、中に入れば、当然のように自分達と同じ制服を着た生徒達の姿がそこにはある。
だがそうして教室の中をそれとなく確かめつつ、足を踏み出したソーマの動きが一瞬止まったのは、そこに見知った姿を見つけたからだ。
その人物もこちらのことにほぼ同時に気付いたようで、片腕を上げて挨拶をしてくる。
「ん? おお……よう、相馬」
机に突っ伏しながら、如何にもやる気なさげな様子を見せているのは、神崎伊織だ。
僅かに首を傾げたものの、そういえば二年の時は同じクラスだったかと思い直す。
まあ、その辺の事が現状にどこまで影響しているのかは分からないが。
何せざっと教室を見渡してみた限りでは、伊織以外に見知った顔はないからである。
前世でも今生でも、どちらもだ。
数十年前のクラスメイトの顔を覚えているとは言い切れないものの……その辺に関しては考えて意味があるかは疑問であった。
「伊織さんは相変わらずですね」
そう言って溜息を吐き出すフェリシアが、その証拠だ。
そう、フェリシアもまたこのクラスに所属しているのである。
この時点で前世とは異なるのだから、考えても無意味だろう。
「まったくであるな。まあ、あやつらしいであるが」
頷き同意を示しつつ、伊織に片手を上げて応える。
ただ、これでより状況がよく分からなくなったのも事実だ。
理由は、先ほど遭遇したアイナである。
多分このクラスに転校してくるのだろうと思っているのだが……そうなると、伊織とアイナが同じクラスに所属するということになってしまう。
今更言うまでもなく、伊織とアイナは親子だ。
その辺の整合性をどうするのだろうかと思い、まあその時になれば分かるかと思い直す。
どうせすぐに分かるだろうし、分からない時は自分の予想が間違っていた時だ。
どちらにしても今考える意味はあまりなかった。
そんなことを思いつつ、ソーマは窓際の一番後ろへと移動する。
そこがソーマの席なのだ。
ちなみにフェリシアはその前であり、伊織はちょうど真ん中である。
あの位置は意外と注目を集めにくい、などと言っていたのは、果たしていつのことだったか。
取り留めの無い思考と共に席へと辿り着き、そこで、あれ? という声が聞こえた。
「ふむ? フェリシア、どうかしたのであるか?」
「いえ……ソーマさんの席の隣って、空席じゃありませんでしたっけ? 完全にそこだけ空いていた気がするんですけれど……」
「ふむ、確かに我輩の記憶でもそうなっているであるな」
だが言われて見てみれば、ソーマの席の隣には椅子と机が存在していた。
しかしこのクラスの人数は、合計で三十五人だったはずである。
このままでは一つ余ってしまう計算だ。
まあ今まで存在していなかったものがあるのだから、当然ではあるのだが……。
「まあ、転校生でも来るのであろう」
「え、そんな話聞きましたっけ?」
「聞いてはいないであるが、まあそういうこともあるであろうよ」
「うーん……まあ、そうかもしれませんね。あ、もしかしたら、先ほどソーマさんとぶつかってしまったあの人かもしれませんね? この近くでは見たことのない制服を着ていましたし」
「ふむ……そういうこともあるかもしれんであるな」
フェリシアは多分冗談で言ってるのだろうが、ソーマはそうだろうと半ば確信している。
何故と言われたら、それがお約束だからだ。
これが一体どんな状況なのかは分からないものの……たとえただの夢だったのだとしても、あそこまでベタベタな状況に遭遇してしまったら、そうならない方が嘘だろう。
と、そんなことを話している間に予鈴の鐘が鳴り響いた。
まだ本鈴まで時間はあるが、慌てて自分の席に向かうフェリシアに合わせるように、ソーマも自分の席に着く。
そこから何となく窓の外へと視線を向けてみれば、そこから見えるのは学校の校門であり、急いで駆け込む生徒達の姿である。
左の方向へと視線を移動させれば、視界に広がるのは校庭だ。
そういえばここから眺める景色はこんなものだったなと、懐かしく思える程度には覚えているものだと自らに感心しつつ、何となくその光景を見つめ続ける。
教室の中の賑わいを後方に感じながら、ボーっとしていると、やがて本鈴が鳴り響いた。
そしてほぼ同時に、教室の扉が開き――
「さて、鐘はもう鳴ったぞ? ほら、席に着けー。あんまりダラダラしてっと欠席扱いにすんぞ?」
反射的に視線を向けた瞬間、ソーマは数度の瞬きを繰り返した。
確かにその可能性を考えなかったと言えば嘘になるが……正直なところ、まさかというところだ。
教室に入ってきたその言動から明らかに教師だと思える人物は、だがその背が明らかに低かった。
小学生と言われても通用するぐらいで、しかしその雰囲気は確かに大人のそれである。
しかも、見知った人物だ。
カミラであった。
いや、確かに学院では教師をしていたものの……何と言うか違和感が物凄い。
だがそんなソーマの困惑など知ったことかとばかりに、カミラは話を続けていく。
「よし、全員席に着いたな? じゃあ出席……は、まあいいか。見るからに全員いやがるし、今日はいつもと違った事があるしな」
「いつもと違ったこと、ですか? え、っと……もしかして転校生が来る、とかでしょうか?」
「お? 鋭いな、フェリシア。ああ、そこに新しく席が増えてたからか? まあ、その通りだと言っておこう」
フェリシアの質問をカミラが肯定したことで、教室が湧いた。
まあ、漫画などではよくあるが、小学校あたりならばともかく、少なくとも前世では高校での転校生というのを迎えたことはなかった。
その珍しさから騒ぐのは当然と言えるだろう。
興味なさ気にだらけているのは伊織ぐらいのものであり、フェリシアも自分で質問しつつも半信半疑だったのか、こちらに振り返っては驚きの表情を浮かべている。
それに肩をすくめて返しながら、視線を前に向ければ、カミラが開けっ放しの扉に向けて入ってくるよう告げたところであった。
そしてそこから姿を見せたのは……まあ、予想通りである。
見覚えのない制服を着た、アイナであった。
どことなく緊張しているような様子であったが、それも教壇の上に立つまでだ。
その姿を目にしたフェリシアが、あっ、という言葉を漏らし、それに反応したアイナがこちらへと顔を向けてくる。
そこで目を見開いたのは、ソーマの姿を捉えたからだろう。
直後に叫び声が響いた。
「あーっ!? あんた、さっきの!?」
「ん? なんだ、お前ら知り合いか?」
不思議そうなカミラに、驚愕を露にしているアイナとフェリシア。
ここまで予想通りだと、逆に笑えてくるほどだ。
どうやら、とりあえずはお約束を踏襲するつもりはあるようだと、そんなことを思いながら、ソーマは再度肩をすくめるのであった。




