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元最強、鬱憤を溜める

 一目見た時点で分かっていたことではあったが、生存者は一人も存在していなかった。


 全ては徹底的に破壊されており、ただ、誰一人として辱められている様子がなかったのが、これを行なった者が何者であるのかということを示している。

 破壊と殺害だけを目的とする者達など、一つしかあるまい。


「ふむ……ここもまた見つかってしまった、ということであるか」

「まだそうと決まったわけじゃないんじゃないの? たとえば、そういったことしか考えないようなのが偶然ここを見つけて暴れた、とか」

「……傷口から考えれば、間違いなく複数人いた。……そんなことしか考えない集団というのは、考えづらい」

「そんなことも分かるのね。ということは、やっぱり……」

「うむ、そう考えていいであろうな」


 ここを襲ったのは、正規の訓練を受けた兵達だということだ。


 正規の兵だからといって略奪を行わないとは限らないが、だからこそ余計に略奪を行わない集団などそういった命令を受けた兵以外には考えづらいのである。

 おそらくは第一王子か第二王子のどちらかに属する者達だと考えて間違いないだろう。


 しかも、腐食の具合などから考えれば、ここが襲われたのはおそらく一週間ほど前だ。

 偶然、と考えるのは、さすがに楽観的過ぎるだろう。


「おそらくでありますが、自分達のことはとうの昔にバレていた、ということなのでありましょうな」

「セシル……そっちはもう大丈夫そうなのであるか?」


 現れたセシルにそう尋ねると、セシルは疲れを隠せない様子ながらも頷いた。


 折角一週間かけてやってきたというのに、そこは既に滅ぼされていたというのである。

 村人達が不安になるのは当然で、セシルは村人達を落ち着かせていたのだ。


 こればかりはシーラにも出来ることではなく、その間にソーマ達は骸を弔ったり何か残っているものがないかを探していたのである。

 結果的に言えば、見事なまでに破壊尽くされており、何も残ってはいなかったが。


「……皆さんのことを弔っていただき、ありがとうございますなのであります」

「礼は不要である。さすがにあのまま放っておくわけにはいかなかったであるしな」

「そうね。それよりも、これからどうするの?」

「……ん、また移動?」

「そう、でありますね……皆さんも、ここに留まりたくはないでありましょうし」


 破壊され殺されたということは、ここに入ってこれたということだ。

 ここの結界は模倣されたものであるらしいので、侵入を許してしまったのだろう。


 つまりはここは安全ではないということであり、しかもまだ襲撃されて一週間だ。

 再びの襲撃がないとは言い切れず、またまだ追われているという可能性も有り得る。


 今のところそれらしい姿を見てはいないが、だからといって村人達が心底から安心出来るかは話が別だ。

 結論から言えば、別の場所へと移動する必要があった。


「とはいえ、行き先に心当たりはあるのであるか?」

「少し遠いではありますが、他の拠点の場所も知っているでありますから、問題はないであります。食料も、ソーマ殿達が魔物を狩ってくれたおかげで余裕もあるでありますし。ただ……」

「……この様子だと、他のところも同じようになってる可能性がある?」

「で、ありますね……」

「ここみたいに模倣した場所じゃなくて、あそこみたいに元々そうだった場所は他にはないの?」

「あるにはあるでありますが……そうでありますね、そこに向かうしかないでありましょう。たとえ、既に誰もいないとしても」


 それは、二重の意味でだろう。

 セシル達と同じようにどこかへと移動してしまったか……あるいは、餓えて限界を迎えたか。


 セシル達の持つ食料は全てを掻き集めたものである。

 他の場所も似たようなものだと言っていたので、二週間以上はもつまい。


 少し遠いということは、ここからまた一週間以上はかかるのだろうし、希望を持つのは厳しいところだ。

 だがそれでも、ここに留まっているよりは、行くしかないのである。


 あるいはここが滅ぼされてしまったのは偶然だという可能性もなくはないが、やはりそれは希望的で楽観的に過ぎるだろう。

 セシルの言っていたように、とうにセシル達のことは把握していた上で、放っておいたところで問題はないから放っておかれていただけだと考える方が自然だ。


 問題は、なのにどうして今になって襲撃してきたのか、ということだが――


「これってやっぱり、あの光が何か関係あるってことなのかしら?」

「ふむ……まあ、時期から考えれば、無関係だと考える方が難しいであろうな」

「……どっちかが、凄い力でも手に入れた?」

「何らかの方法で力を持つ方を味方に引き入れた、という可能性ならば有り得るでありますね。あの光はその象徴で、どちらかの陣営の勝ちが決定的になったというのであれば……自分達はただ目障りなだけでありましょうから」


 余裕が出来たのであれば、見逃しておく理由もない、といったところか。


 そしてソーマ達は、その話に心当たりがある。

 無論、悪魔だ。


 元々第一王子と第二王子の争いは、優劣ははっきりせず互角だったという話なのである。

 ならばそのどちらかに悪魔が力を貸せば、一気に形勢は傾くだろう。


 問題はどちらに手を貸したのかということだが、それに関しては考える必要はあるまい。

 優勢になった方が、即ち該当者だからだ。


 ともあれ。


「それで、どうするのである? すぐに出発するのであるか?」

「本来ならば一晩ぐらいはここで休むべきなのでありましょうが……そのつもりであります。下手に休んでしまうと皆さんの心が折れてしまうかもしれないでありますから」

「ま、その辺の判断は任せるわ。あたし達はただの協力者だもの」

「……ん、セシルに任せる」

「我輩達はあくまでも助けるだけであるからな。ま、大した事が出来るわけでもないであるが」


 本当ならば、こうなった時点でソーマ達は手を引いてもいいのかもしれないが、さすがにそれは寝覚めが悪い。

 とりあえずは、村人達が安全な場所に移動できるまでは付き合うつもりであった。


 その後どうするかは、その時次第ではあろうが。


「……皆さん、本当にありがとうございますなのであります」


 そう言って頭を下げるセシルに肩をすくめ、さっさと行くのだろうと促す。

 実際ここにあまり留まってしまうのは、悪手だ。


 破壊されてしまった建物などを見続けてしまえば、自然と自らの末路というものを想像してしまうだろう。

 骸は見せてはいないが、何があってどうなったのか、ということは想像はつくに違いない。

 疲れも間違いなく溜まっているであろうし、そういう時は悪い方悪い方へとつい思考は傾いてしまうものだ。


 そうして心が折れてしまえば、その場に蹲ってしまい、立ち上がるのを待っていられるほどの余裕はない。

 誰も見捨てたくなければ、素早く行動に移す必要があるのだ。


 幸いにも、まだ希望は残されていた。

 彼らはまだ、生きているのである。

 そして生きているということは、それだけでも希望となるのだ。


 今は逃げ続けるしかないのだとしても、生きてさえいればどうとでもなる。

 いつかは反撃することだって出来るはずだ。


「さて……張り切って逃げるとするであるか」

「逃げるってのに張り切ってどうすんのよ」

「……ん、でも空元気も必要?」

「そうでありますな……落ち込んでいたところで、何がどうなるわけでもないでありますし」


 鬱憤は溜まるばかりだが、このまま引き下がるつもりはないのだ。


 歩き続けていけば、きっとそのうち元凶の元へと届くことだろう。

 その時こそ、溜まりに溜まった鬱憤を晴らす時だ。


 破壊尽くされてしまった場所をもう一度見渡し、息を一つ吐き出す。

 それから、ソーマ達はこの場を後にするため、村人達の待つ場所へと歩き出すのであった。

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